- 著者
-
宇佐美 まゆみ
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.1, pp.4-22, 2008-08-31 (Released:2017-05-01)
本稿では,これまで,いわゆる「ポライトネス研究」としてまとめて言及されることが多かったものを,その目的の違いによって,「ポライトネス記述研究」と「ポライトネス理論研究」に分けて整理し,従来明確に区別されることなく論じられてきた両者を含む「ポライトネス研究」の約30年間の流れを,その違いを明確にする形で概観する.「ポライトネス記述研究」とは,各個別言語におけるポライトネス,敬語体系や敬語運用の研究,それらの比較文化的研究などを指し,「ポライトネス理論研究」とは,言語文化によって多岐・多様にわたるポライトネスの「実現(realization)」の基にある動機とその「解釈(interpretation)」のプロセスを,統一的に説明,解釈,予測しようとする「理論(theory,principle)」に重点をおいた研究である.それぞれの意義と役割,問題点などを確認した上で,本稿では,後者の「ポライトネス理論研究」のほうに焦点をあて,Brown&Levinson(1978/1987)のポライトネス理論が普遍的であるとして提唱されて以降,他の研究者から提起された問題点や,普遍理論追究のために重要だと考えられる新しい捉え方のポイントをより具体的にまとめる.その上で,「ポライトネス理論研究」の今後の課題をまとめ,これまでに指摘されてきた様々な問題点を克服する形で構想されている「対人コミュニケーション理論」としての「ディスコース・ポライトネス理論」(宇佐美,2001a,2002,2003)の最新の構想の一部を提示する.