著者
宇佐美 まゆみ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.34-49, 2015 (Released:2017-12-26)
参考文献数
20

本稿では,複合領域である「日本語教育学」の課題,従来の談話研究の動向に触れた後,「総合的会話分析」(宇佐美2008)という会話を分析する一つの方法論について,その趣旨と目的,方法について紹介する。また,この方法に適するように開発された文字化のルールである「基本的な文字化の原則(Basic Transcription System for Japanese: BTSJ)」,及び,『BTSJ文字化入力支援・自動集計・複数ファイル自動集計システムセット』についても簡単に紹介する。また,会話の分析を行う際にも,目的や対象によっては,量的分析と質的分析の双方が必要であり,その有機的な融合は,不可能ではないことを論じる。その上で,「総合的会話分析」の方法が,「日本語教育研究」にいかに貢献できるかについても論じる。また,多機能「共同構築型データベース」である「自然会話リソースバンク(NCRB:Natural Conversation Resource Bank)」についても,簡単に紹介する。
著者
宇佐美 まゆみ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.4-22, 2008-08-31 (Released:2017-05-01)

本稿では,これまで,いわゆる「ポライトネス研究」としてまとめて言及されることが多かったものを,その目的の違いによって,「ポライトネス記述研究」と「ポライトネス理論研究」に分けて整理し,従来明確に区別されることなく論じられてきた両者を含む「ポライトネス研究」の約30年間の流れを,その違いを明確にする形で概観する.「ポライトネス記述研究」とは,各個別言語におけるポライトネス,敬語体系や敬語運用の研究,それらの比較文化的研究などを指し,「ポライトネス理論研究」とは,言語文化によって多岐・多様にわたるポライトネスの「実現(realization)」の基にある動機とその「解釈(interpretation)」のプロセスを,統一的に説明,解釈,予測しようとする「理論(theory,principle)」に重点をおいた研究である.それぞれの意義と役割,問題点などを確認した上で,本稿では,後者の「ポライトネス理論研究」のほうに焦点をあて,Brown&Levinson(1978/1987)のポライトネス理論が普遍的であるとして提唱されて以降,他の研究者から提起された問題点や,普遍理論追究のために重要だと考えられる新しい捉え方のポイントをより具体的にまとめる.その上で,「ポライトネス理論研究」の今後の課題をまとめ,これまでに指摘されてきた様々な問題点を克服する形で構想されている「対人コミュニケーション理論」としての「ディスコース・ポライトネス理論」(宇佐美,2001a,2002,2003)の最新の構想の一部を提示する.
著者
吉岡 泰夫 早野 恵子 徳田 安春 三浦 純一 本村 和久 相澤 正夫 田中 牧郎 宇佐美 まゆみ
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.251-257, 2008-08-25 (Released:2010-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1

患者医師間のラポールに基づく協力関係の構築や, 両者の情報共有による合意形成は, 適切なコミュニケーションを基盤として実現される. 安全で信頼される医療を実践するためにも, 医療コミュニケーションの適切化は不可欠である. この研究は, そのために効果的なポライトネス・ストラテジーを明らかにすることを目的とする.1) ポライトネス・ストラテジーとその効果について, 医療面接の談話分析により調査課題を抽出, 患者医師双方に対して面接調査, WEB調査を実施した. さらにWEB討論会で論点を明確化した.2) 敬称「さま」や多重謙譲などの過剰な敬語を, 患者は, 慇懃無礼で, 医師から心理的距離を置かれると感じている. ラポールに基づく協力関係の構築には逆効果と, 患者医師双方が意識している.3) 患者は医師に敬称「さん」や簡素な敬語の使用を期待している.それらには, 敬意を表すと同時に, 適度に心理的距離を縮める, ポジティブ/ネガティブ両面のポライトネス効果があるからである.4) 医師が, 患者の方言を理解し, 同じ方言を使うことは, 親近感を生み, 心理的距離を縮めるポジティブ・ポライトネス効果があり, 患者をリラックスさせ, 患者からの医療情報の収集を円滑にする.5) 称賛する, 楽観的に言うなどのポジティブ・ポライトネス・ストラテジーは, 患者の状況やその時のフェイス (親近欲求か不可侵欲求か) により成否は分かれるが, 成功すれば行動変容をもたらす.
著者
井上 史雄 宇佐美 まゆみ 武田 拓 半沢 康 日高 水穂 加藤 和夫 今村 かほる
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、日本海側に分布する諸方言の地理的年齢的動態に着目して、総合的な実態調査を行った。線状の地域で年齢別にことばを調べて図化する「グロットグラム」(地理×年齢図)の手法は、日本方言学が独自に開発した、世界に誇るべき新技法である。本研究では、共同の現地調査により、日本海側のことばの動きを明らかにし得た。第1年度は、異なった機関に属していた研究者が、多様な研究手法を統一する手法について打合せを行った。また、各自がこれまで実施してきた調査との連続性を図るために、各地で継続調査を行なった。また全体調査の項目選定のための準備調査を行った。各分担者の調査地域を調整し、調査時期・調査技法の統合も行った。第2年度には、日本海ぞいの多数地点でグロットグラム(地理×年齢図)のための実地調査を行った。調査員としては、分担者および方言研究の経験のある協力者(小中高の教師)や大学院生・ゼミ生が参加した。データは調査終了後すぐにコード化した。各分担者のデータを統合し、配布した。第3年度には、グロットグラムのための実地調査を継続し、計画地点のデータを得た。分担を決めて、グロットグラムの図を作成した。集計に各分担者のもとのパーソナルコンピュータを利用することにより、グロットグラムも迅速に作製できた。日本海側各県で新方言・気づかない方言の使用状況に顕著な地域差がみられた。以前の調査の結果と対比することにより、太平洋側との様相の違い、東京からの影響の違いなどを確認できた。関連テーマの資料を合わせて年末に報告書を作成し、国内の方言研究者、言語変化の研究者に配布した。これにより、今後の関連調査の解説に役立つことと期待される。また成果の一部は夏の方言学国際会議(カナダ)で発表した。
著者
宇佐美 まゆみ 林 俊成 西郡 仁朗 鎌田 修 由井 紀久子 木林 理恵 黄 美花 品川 覚
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

『BTSJによる日本語会話コーパス(トランスクリプト・音声)2015年版』(333会話、約78時間)、話者同士の関係等の会話の社会的要因、及び「自然会話教材作成支援システム」機能を組み込んで、自然会話コーパスと自然会話教材のリソースとなりうる自然会話データの保存の一元化を行い、「共同構築型データベース」として「自然会話リソースバンク(Natural Conversation Resource Bank: NCRB)」の基盤を構築した。また、『BTSJ文字化入力支援・自動集計・複数ファイル自動集計システムセット(2015年版)』を完成し、語用論、対人コミュニケーション研究の効率化を実現した.