- 著者
-
井上 史雄
半沢 康
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.1, pp.144-156, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
- 参考文献数
- 40
本稿では山形県庄内地方の方言調査データを分析し,地域差の大きい時期から世代差の大きい時期に移行したことを元に交通の役割の変化を論じる.出発点は,明和4(1767)年に編集された鶴岡の方言集『浜荻』である.1950年の第1次調査,2018年の第2次調査により140年にわたる語彙残存率の世代差が分かった.データは,406項目×27地点の約370人からなる.周圏分布による地域差を,中心都市からの徒歩距離によって1次元で表現した.全員の語形データに適用したあと,7世代を3グループに分けて適用した.その結果第1グループの第1次調査では地域差が大きく表れ,徒歩距離が作用したと認められた.第2グループの第2次調査老壮の世代では年齢差が大きく表れ,鉄道開通による駅所在地点の急速な方言衰退が見られた.第3グループの第2次調査若少の世代では地域差が薄れたが,中心都市との距離は関連を示す.自動車交通によって,鉄道開通以前の徒歩距離が再び影響するようになったと考えられる.さらに406語を活力により4病状に分けて,同様の分析を施した.危篤,重病,不安定,安定の順が過去の方言衰退過程を反映・再現すると考えられ,徒歩距離と鉄道駅開設が共通語化に影響する過程が読み取れた.『浜荻』成立以来250年経ち,戦後の急速な共通語化・方言の衰退を経て,方言を囲む状況に変化が見られた.その際鉄道による交通環境の変化が影響した.