著者
半沢 康 武田 拓 加藤 正信 小林 初夫 本多 真史
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

同一のインフォーマントに同じ方言調査を繰り返し実施した場合,その調査結果はどの程度安定するのだろうか。本研究は方言調査データの「信頼性」(調査データがどの程度安定するのか)を明らかにすることを目的とする。宮城県角田市と伊具郡丸森町および福島県田村郡小野町において実験的調査を実施し,方言調査データの信頼性を把握した。伊具地方の調査では,多くの項目の安定性(2回の調査の一致度)は80%程度との結果が得られた。他のデータについても今後も分析を進め,結果を公表する予定である。
著者
井上 史雄 半沢 康
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-18, 2021-04-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
34

この稿では、方言語彙の構造と変化を扱い、その一般性・法則性を追究する。江戸時代の方言集『庄内浜荻』(1767)の採録語を全体として扱い、現代の残存率の変化、世代差を考察する。計量語彙論の手法により、使用頻度数、意味分野、地理的分布範囲などの変遷を手がかりに、相互の関係を見る。廃れた語は、意味分野として道具など昔の暮らしにかかわる語が多い。全国の方言分布を見ると、狭い地域でしか使われない語は衰退し、広い地域で使われる語、ことに東京の口語・俗語として使われる語は、生き残る。語彙変化の基盤には社会・文化の変化があり、外界が変わればことばも変わる。意味分野によって語の使用頻度数が変わる。これが全国分布の広さに影響し、残存率を支配する。コミュニケーション範囲の拡大により、狭い地域だけのことばは忘れられ、地域差が薄れる。『浜荻』成立以来の250年と、調査協力者の年齢差140年の語彙の変化が具体的に把握された。
著者
井上 史雄 半沢 康
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.63-89, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
62

本稿では山形県庄内地方で行われた方言調査データに多重対応分析を適用した結果を報告する。江戸時代の方言集『浜荻』掲載406語の残存率について1950年に3世代,2018年に4世代の調査が行われ,長期の言語変化が分かった。「年齢柱方言地図」と「単純化グロットグラム」を作図して考察した。140年にわたる世代差を踏まえ,20世紀の地域差の大きい時期から,21世紀の世代差の大きい時期に移行したことを論じる。多重対応分析によって方言の分布と変化の複雑なパターンを要約し,全体傾向を把握できた。第1軸には140年という長さの年齢差が表れ,第2軸以下には庄内方言南北80 kmの地域差が示された。南北差が大きいので,鶴岡からの徒歩距離を計測して「単純化グロットグラム」を作成し,代表的な8語のうち3語を例示した。地方的周圏分布が見られるとともに,現在の若い世代の急速な方言衰退が見られ,他方中学生による方言使用も観察された。
著者
井上 史雄 半沢 康
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.144-156, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
40

本稿では山形県庄内地方の方言調査データを分析し,地域差の大きい時期から世代差の大きい時期に移行したことを元に交通の役割の変化を論じる.出発点は,明和4(1767)年に編集された鶴岡の方言集『浜荻』である.1950年の第1次調査,2018年の第2次調査により140年にわたる語彙残存率の世代差が分かった.データは,406項目×27地点の約370人からなる.周圏分布による地域差を,中心都市からの徒歩距離によって1次元で表現した.全員の語形データに適用したあと,7世代を3グループに分けて適用した.その結果第1グループの第1次調査では地域差が大きく表れ,徒歩距離が作用したと認められた.第2グループの第2次調査老壮の世代では年齢差が大きく表れ,鉄道開通による駅所在地点の急速な方言衰退が見られた.第3グループの第2次調査若少の世代では地域差が薄れたが,中心都市との距離は関連を示す.自動車交通によって,鉄道開通以前の徒歩距離が再び影響するようになったと考えられる.さらに406語を活力により4病状に分けて,同様の分析を施した.危篤,重病,不安定,安定の順が過去の方言衰退過程を反映・再現すると考えられ,徒歩距離と鉄道駅開設が共通語化に影響する過程が読み取れた.『浜荻』成立以来250年経ち,戦後の急速な共通語化・方言の衰退を経て,方言を囲む状況に変化が見られた.その際鉄道による交通環境の変化が影響した.
著者
井上 史雄 宇佐美 まゆみ 武田 拓 半沢 康 日高 水穂 加藤 和夫 今村 かほる
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、日本海側に分布する諸方言の地理的年齢的動態に着目して、総合的な実態調査を行った。線状の地域で年齢別にことばを調べて図化する「グロットグラム」(地理×年齢図)の手法は、日本方言学が独自に開発した、世界に誇るべき新技法である。本研究では、共同の現地調査により、日本海側のことばの動きを明らかにし得た。第1年度は、異なった機関に属していた研究者が、多様な研究手法を統一する手法について打合せを行った。また、各自がこれまで実施してきた調査との連続性を図るために、各地で継続調査を行なった。また全体調査の項目選定のための準備調査を行った。各分担者の調査地域を調整し、調査時期・調査技法の統合も行った。第2年度には、日本海ぞいの多数地点でグロットグラム(地理×年齢図)のための実地調査を行った。調査員としては、分担者および方言研究の経験のある協力者(小中高の教師)や大学院生・ゼミ生が参加した。データは調査終了後すぐにコード化した。各分担者のデータを統合し、配布した。第3年度には、グロットグラムのための実地調査を継続し、計画地点のデータを得た。分担を決めて、グロットグラムの図を作成した。集計に各分担者のもとのパーソナルコンピュータを利用することにより、グロットグラムも迅速に作製できた。日本海側各県で新方言・気づかない方言の使用状況に顕著な地域差がみられた。以前の調査の結果と対比することにより、太平洋側との様相の違い、東京からの影響の違いなどを確認できた。関連テーマの資料を合わせて年末に報告書を作成し、国内の方言研究者、言語変化の研究者に配布した。これにより、今後の関連調査の解説に役立つことと期待される。また成果の一部は夏の方言学国際会議(カナダ)で発表した。
著者
野田 尚史 小林 隆 尾崎 喜光 日高 水穂 岸江 信介 西尾 純二 高山 善行 森山 由紀子 金澤 裕之 藤原 浩史 高山 善行 森野 崇 森山 由紀子 前田 広幸 三宅 和子 小柳 智一 福田 嘉一郎 青木 博史 米田 達郎 半沢 康 木村 義之
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

現代日本語文法, 音韻論, 古典語, 方言, 社会言語学などの各分野から, 述べ19名の研究者の参加し, 古典語など, ほぼ未開拓であった領域を含む対人配慮表現の研究の方法論を次々と開拓することができた。とりわけプロジェクトの集大成である, 社会言語科学会における10周年記念シンポジウムの研究発表では高い評価を得た。その内容が書籍として出版されることが決定している。