著者
今野 健一 高橋 早苗
出版者
山形大学
雑誌
山形大学法政論叢
巻号頁・発行日
vol.36, pp.57-77, 2006-03-31

はじめに 2005年10月未から11月半ばにかけて、パリの郊外を中心にフランス全土で、大規模な「暴動」(emeutes)が起こった。4人の死者と多数の負傷者、およそ1万台の自家用車への放火、その他膨大な物的損害をもたらし、外国メディアからは<内戦>とまで(かなり大げさに)表現された。ただ、この現象の社会的意味を見定めることは、実はそれほど容易なことではない。暴動の発火点となった大都市「郊外」(banlieues)のフランス的特質や、郊外の大規模公営団地(シテ〔cite〕)に住まう移民出身の住民たちの来歴と生活の現状、(平時)でも1日に90台以上もの車が放火されるという「都市暴力」(violencesurbaines)と今回のような「暴動」の原因と特質、さらに、「郊外」の(社会的困難を抱えた地区)(quartierssensibles)でしばしば若者と衝突する治安部隊(警察・憲兵隊)の運用を中心とするセキュリティの法政策の特質などを考察の姐上に載せる必要がある。問題は多岐にわたり、それぞれが深刻である。本稿では、今回の「暴動」の発生の経緯と事態の推移をフランスの新聞等の報道から再構成した上で、「暴動」に潜む問題事象の幾つかの側面(郊外における若者の都市暴力と移民問題、政府による犯罪予防・治安対策の変遷と特質)につき、限定的ではあるが検討を加え、現時点における我々なりの問題状況の図式化を試みたい。
著者
三谷 英範 望月 俊明 大谷 典生 三上 哲 田中 裕之 今野 健一郎 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.833-838, 2014-11-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

はじめに:尿素サイクル異常症であるornithine transcarbamylase(OTC)欠損症の頻度は日本で14,000人に1人とされ,18歳以降での発症例は稀であるが,発症すると重症化しうる疾患である。我々は,19歳発症のOTC欠損症により高アンモニア血症・痙攣重積発作を来し,救命し得なかった1例を経験した。症例:19歳の男性。来院前日,嘔吐・下痢・全身倦怠感を主訴に救急要請した。前医に搬送され,血液検査や頭部CTでは異常を認めないものの,全身倦怠感が強く入院加療を行うこととなった。入院後,不穏状態に続いて強直性痙攣が出現した。ジアゼパム静注で痙攣は消失したが,その後意識レベル改善なく当院へ紹介転院となった。当院来院時,頭部CTで全般性に浮腫性変化認め,血中アンモニア濃度は500µg/dL以上であった。当院入院後,痙攣再燃したため鎮静薬・抗てんかん薬を増量しつつ管理するも,痙攣は出現と消失を繰り返した。血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析の導入は見送った。第2病日に瞳孔散大,第4病日に脳波はほぼ平坦となり,脳幹反射は消失した。その後も高アンモニア血症は持続し,代謝異常による痙攣も疑われたため,各種検査を施行しつつ全身管理に努めたが,第11病日に血圧維持困難となり死亡した。後日,血中・尿中アミノ酸分画やオロト酸の結果からOTC欠損症と診断された。考察:尿素サイクル異常症は稀であるが,高アンモニア血症を来している場合には迅速に対応しなければ不可逆的な神経障害を来す。治療には透析が考慮されるが,本症例では痙攣が軽減した後血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析は施行しなかった。結語:血糖正常,アニオンギャップ正常の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別に挙げ,透析を早期に検討する必要がある。
著者
今野 健一 高橋 早苗
出版者
山形大学法学会
雑誌
山形大学法政論叢 = Yamagata University the journal of law and politics
巻号頁・発行日
no.31, pp.47-66, 2004-08-31

はじめに 日本における個人のセキュリティ確保は、ここ数年のうちで犯罪・治安問題が急速に社会問題化したことにより(「安全神話」の崩壊)、政策課題としての重要性を増しつつある。一方、欧米諸国は、日本とは異なって、すでに過去数十年にわたる深刻な犯罪・治安問題を経験しており、その克服のため、旧来の刑事司法の施策の枠を超え、包括的な取り組みが行われてきた。我々の研究の目的は、このような欧米諸国のセキュリティ問題につき比較検討を行うことである。その第一段階として、イギリスとフランスの基礎的な研究に着手し、その成果を別の論文で発表している。そこで示唆したのは、イギリス・フランスでも、その具体的な犯罪統制の態様にニュアンスの差異があるとしても、いかに犯罪問題に対応するかが重要な政治的アジェンダであり続けていると同時に、公的・私的な多様な対応には多くの問題が含まれている、ということである。今回取り上げるアメリカも例外ではない。アメリカは、犯罪の常態化にあえぐ社会の代表的な例である。本論文では、次のように検討を進める。まず、アメリカにおける犯罪の動向とそれに対応する刑事政策の概略、および一般市民の犯罪リスクを明らかにする。次に、市民の犯罪恐怖の上昇と、それをと伴う私的なセキュリティの興隆の状況を取り上げる。第3に、市民の安全確保に関わる警察活動の動向を歴史的に概観した後、代表的なポリシングの形態を素材に、それらの意義と問題点を検討する。
著者
今野 健一 高橋 早苗
出版者
山形大学法学会
雑誌
山形大学法政論叢
巻号頁・発行日
no.28, pp.88-69, 2003

はじめに 人々は、様々な不安や悩みを抱えながら、日々を暮らしている。病気や事故、失業、貧困、災害、犯罪などに見舞われるという事態は、程度の差はあるにせよ、誰にでも起こりうることである。そうした諸々の脅威から完全に解放されることが不可能であるならば、如何にしてそのリスクを回避しまたは小さくしていくのかが、問われなければならない。20世紀の社会国家・福祉国家は、人間の尊厳に値する生存を人々に「権利」として保障し、その役割を果たすべく各種の法制度を細密に整備してきた。それが、多様なリスクに囲まれた市民個々の生存への配慮を礼会的に行うシステムとしての「社会保障」(SocialSecurity)である。しかし、1990年代から顕著になった経済のグローバル化(globalization)と、それに寄り添う新自由主義が世界を席捲するなかで、日本においても、福祉国家のシステムとその理念は危殆に瀕している。その反作用として、社会的な保護を削り取られた人々は、失業や貧困、病気などの脅威に否応なしに直面させられる。また、グローバル化と新自由主義的政策の展開は、家族や職場、地域など既存の社会的ネットワークを解体しつつある。こうして、社会的・経済的格差の増大と、人々を保護してきた社会的紐帯の弱体化は、人々の間でますます大きな不安感を生み出している。特に見逃せないのは、社会的逸脱としての犯罪事象の増加という現象であり、日本の「安全神話」のゆらぎは、今や何人の目にも明らかになってきている。我々は前稿で、犯罪のリスクが個人のセキュリティ(またはインセキュリティの感情)に如何なる影響を与えているか、個人のセキュリティ確保のために欧米資本主義諸国で如何なる対応が採られているのかを簡略に俯瞰し、その時点での我々なりの見取り図を示した。我々の研究は、日本における犯罪のリスクに対する市民意識の変化のありように着目し、今後さらに予想される個人のセキュリティ要求の高まりを睨んで、現代の日本社会に相応しい個人のセキュリティ確保のありようを見定めることを、最終の目標としている。その目標に至る道筋として、既に個人のセキュリティの問題が社会的に広く認知され、政治的にも重要な争点を形成するに至っている欧米諸国の動向を把握する作業が不可欠となる。本論文では、前稿で示した見取り図を背景としつつ、対照的な法・政治的伝統を有するイギリスとフランスを具体の考察の対象とする。検討の手順は次のとおりである。まず、犯罪率と犯罪恐怖がセキュリティに対する政治と市民の対応に如何なる影響を及ぼすものであるかを明らかにする。次に、警察などの公的部門によるセキュリティ供給の動向を概観し比較を試みる。第3に、イギリスを素材に、非国家的なセキュリティ供給の態様・特徴・問題点を検討する。その上で、昂進するセキュリティの商品化が挙む問題点を明らかにする。
著者
今野健一
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 社会科学
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, 2012-07-31