著者
伊藤 徹哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.118-143, 2009-03-01 (Released:2011-05-31)
参考文献数
60
被引用文献数
1

本研究は,都市再生政策が早くから実施されているドイツのミュンヘンを事例として,都市再生政策の展開過程を整理し,1980年から2000年における都市空間の形態的・社会経済的変化という視点から都市再生の実態を分析することを通し,都市再生政策に伴って生じる空間再編の地域的差異の特徴を考察することを目的とする.ミュンヘンでは1970年代以降に都市再生政策が本格的に導入され,個別の既存住宅の改良を促進するための複数の施策のほか,主な事業として都市更新事業が実施され,既成市街地が面的に改善されていった.建築物の形態的側面からみると,都心2~4 km圏に位置する東西の都市更新事業の実施区域や,都市政策上の重点開発地域である中央駅周辺などの都心周辺において都市再生が活発である.特定区域における都市再生の活発さは,公的事業による直接的な開発行為,およびそれらを契機とした民間投資による開発を反映している.都市再生の社会的側面として,建物更新が顕著である都心周辺の更新度が「中・高」の地区においては,ドイツ人人口が維持され,または増加しており,社会経済活動の中心である18~64歳までの生産年齢人口の割合が高く,社会的な再生産がみられる.都市再生政策の実施を契機として,衰退地域が居住地としての魅力を回復し,都心周辺という立地条件を備えた開発地としての魅力を高めており,政策的判断を通して都市再生が特定地域で促進されるという選択的な都市再生が進行している.
著者
伊藤 徹哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>本研究は,ドイツ・ミュンヘン大都市圏を事例として,交通インフラの整備の特徴を道路網と鉄道網の整備に着目して分析し,ヨーロッパにおけるモビリティの持続的発展の特徴を明らかにすることを目的とする。ヨーロッパでの交通インフラの整備の特徴を欧州連合EUのEurostat HPでの統計データを用いて概観した後,ミュンヘン大都市圏での交通インフラ整備の特徴を統計の分析に基づいて,モビリティの維持・拡大の特徴を考察する。</p><p> 分析の結果,ヨーロッパでは,ヨーロッパ内外を結ぶ世界的な移動,EU域内の移動,主要都市間の移動,日常生活圏の移動など,異なる空間スケールで交通インフラが有機的に整備されていた。また,ミュンヘン大都市圏におけるインフラ整備では,高速道路網や,高速道を補完する州道や自治体道路の整備がすすむ。都市間の高速鉄道網や,大都市圏内での都市部と周辺地域を結合する中・近距離鉄道網が,継続的に廃止や整理されている。交通インフラの整備を通じ,都市圏内,主要な都市間,国際的な地域間などの様々な空間スケールでモビリティが持続的に発展していた。</p>
著者
伊藤 徹哉 飯嶋 曜子 小原 規宏 小林 浩二 イリエバ マルガリータ カザコフ ボリス
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.44, 2011 (Released:2011-05-24)

I. はじめに 1989年以降のいわゆる「東欧革命」を通じて,中・東欧各国は経済的には市場経済へと移行し,価格の自由化や国営企業の民営化が推し進められた。これに伴って物不足の解消や物価上昇といった経済的変化や失業者の増加などの社会的変化が生じ,また地域的な経済格差も拡大していった。農業経済を中心にする地域,とくに大都市から遠距離の農村では工業やサービス業の大規模な開発が困難であり,これらの地域は後進地域として社会的・経済的課題を抱えていることが指摘されている。 研究対象のブルガリアでは,現在も就業構造において農業経済への依存がみられる一方,「東欧革命」以降,首都ソフィアとその近郊をはじめとする大都市での経済開発も進展しており,農業地域と大都市との経済格差が拡大しつつある。本研究は農業経済を基盤とするEU新規加盟国のブルガリアを対象として,国内の地域的な経済発展における格差を国内総生産(GDP)と平均年間賃金に基づいて明らかにし,人口分布や人口移動などの社会的特性と,産業別就業者数と海外からの直接投資額などの経済的特性から経済格差の背景を考察することを目的とする。分析に用いた資料は,2008年9月,2009年9月および2010年8~9月の現地調査によって得られたブルガリア国立統計研究所 (National Statistical Institute) が刊行した統計年鑑や統計資料である。 II. 地域的経済格差 国内6つの計画地域Planning RegionごとのGDPに基づいて地域経済の変化を分析した。その結果,首都・ソフィアを含む南西部では活発な経済活動が認められる一方,その他の地域,とくに北西部と北中央部が経済的に低迷しており,しかも1999年以降においては南西部とその他の地域との差が拡大していた。 また,国内に28設置されているDistrict(以下,県)ごとの平均年間賃金(以下,年間賃金)に基づいて経済上の地域的差違を考察する。まず,全国平均の年間賃金は2009年において7,309BGN(レバ)であり,2005年における数値(3,885BGN)と比較すると,4年間で約1.9倍上昇した。県別にみると,南西部の首都・ソフィアの賃金水準が極めて高く,2009年では全国第一位の9,913BGNに達している。この値は全国平均(7,309BGN)の約1.4倍であり,全国第二位(7,696BGN)と第三位(7,602BGN)の県と比較しても突出している。首都・ソフィアの年間賃金は,もともと高水準であったが,近年さらに上昇している。また首都を取り囲むように広がるソフィア県の年間賃金も7,026BGNと全国平均には届かないものの,相対的に高い水準となっている。このように首都・ソフィアとその周辺部の一部では所得水準がもともと高く,それが近年さらに上昇している。一方,北西部と北中央部での年間賃金の水準は低く,2009年における年間賃金の最下位県の値を首都・ソフィアと比較すると,その2分の1の水準にとどまる。また2005年からの変化も小さく,賃金水準が低い状態におかれている。 III. おわりに-地域的経済格差の社会・経済的背景 地域的な経済格差の背景を人口分布や人口移動などの社会的特性と,産業別就業者数と海外からの直接投資額などの経済的特性から考察する。ブルガリアにおける地域的な経済格差の背景として,次の3要因との関連を指摘できる。第一に人口集中に起因する首都・ソフィアの消費市場と労働市場としての突出である。人口は首都・ソフィアが含まれる南西部に集中しており,2006年において総人口(769.9万)の27.5%を占める211.8万が南西部に居住する。とくに首都・ソフィアの人口規模は大きく,総人口の16%を占めている。第二に首都・ソフィアへの企業や主要施設集中に起因する資本集中であり,首都・ソフィアでの事業所数や就業者数の多さや,海外からの直接投資の集中傾向などが認められた。第三に農村と都市部での就業構造の差違と関連した農村地域での失業率の高さと首都への人口流出であり,賃金水準の高い業種である専門サービス業をはじめとする部門が首都や一部の大都市に集中しているため,農村からそれら都市への人口流出が著しい。加えて,農村でも耕地面積の拡大や機械化を通じた経営効率の向上が図られており,余剰人口の都市部への移動を加速している。