- 著者
-
伊藤 正人
- 出版者
- 大阪市立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1997
本研究は,ベイズ推論とその基礎となる個々の事象の確率値を経験を通して獲得する過程を扱ったものである.ベイズ推論とは,二つの異なる確率的情報から一つの結論(確率)を導き出す過程である.遅延見本合わせ課題における見本刺激の偏りを一つの確率的事象,正しい比較刺激の信頼度をもう一つの確率的事象とした手続きを用いた.遅延見本合わせ課題を訓練した後,見本刺激を提示せずに,情報刺激のみを提示する推論テストと見本刺激のどちらも提示しない確率値推定テストを行って,経験にもとづく確率値の推定とベイズ推論を検討した。ハトを被験体とした実験では,確率値の推定テストにおいて,見本刺激の偏りは,かなり正確に推定されることが示された.さらに,ベイズ推論テストにおいて,ハトの比較刺激の選択の仕方は,おおむねベイズの定理から予測される理論値に一致することが明らかなった.この事実は,ハトにおいても,経験を通して獲得した見本時間の偏りと情報刺激の信頼度に関する情報を新奇なテスト場面で利用できることを明かにしている.すなわち,経験にもとづくベイズ推論が可能なことを示していると考えることができる.このような行動が動物からヒトに共通する側面であるか否かについては,現在のところ,十分な結論を導き出すことはできないが,ある事象の確率的構造の性質は経験を通して明らかになるという観点を支持するものといえる.今後の課題としては,遅延見本合わせ手続きを用いた訓練法やテスト法の改良,異なる動物種での検討,ヒトの発達観点からの検討などが考えられる.