著者
橋口 克頼 永田 智久 森 晃爾 永田 昌子 藤野 善久 伊藤 正人
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-282, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

WHOは「各国・地域において,人々が経済的困難を伴わず保健医療サービスを享受すること」を目標としており,その指標としてEffective Coverage(EC)という概念を提唱している.ECとは“その国または地域における健康システムを通して,実際に人々に健康増進をもたらすことができる割合”と定義されており,産業保健の場面では治療が必要,もしくは治療を受けているうち,適切に疾病管理されている率に該当すると考えられる.本研究では産業保健サービスの効果を評価することを目的とし,「常勤の産業保健スタッフ(産業医または産業看護職)による労働者への産業保健サービスの提供は,高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目について,ECを向上させる」という仮説をたてて検証した.2011年度の一般健康診断,人事情報,及びレセプトからの個々のデータを分析した横断的研究である.特定の大規模企業グループの91,351人の男性労働者を対象とした.常勤の産業保健スタッフがいる事業場に所属する労働者(OH群)とそれ以外の事業場に所属する労働者(non-OH群)において高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目別にECを算出し,比較した.OH群はnon-OH群に比べて,高血圧・糖尿病において有意にECが高率であったが,脂質異常症については有意な差を認めなかった(高血圧aOR 1.41: 95%CI 1.20-1.66,糖尿病aOR 1.53: 95%CI 1.17-2.00,脂質異常症aOR 1.11: 95%CI 0.92-1.34).常勤の産業保健スタッフによる産業保健サービスの提供は,健康診断後の適切な管理に大きく影響する.
著者
内田 善久 伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.71-87, 1997-06-30 (Released:2017-06-28)

本稿では学際的領域としての採餌行動研究の最近の発展を概観した。最適餌場利用、最適食餌、頻度依存捕食という3つの話題に対してオペラント心理学が培ってきた方法論を適用した研究に主眼がおかれた。行動生態学から導出された最適餌場利用と最適食餌という最適性モデルは、動物は最も効率的に餌を採るという仮定を共通に持つ。最適餌場利用と最適食餌の問題に適用された、強化スケジュールを用いた実験室シミュレーションは、最適性モデルによる予測の検証や移動時間、餌の分布等の採餌行動に及ぼす様々な要因の効果を検討する上で有効な方法論であることが示された。また、頻度依存捕食とは動物が相対頻度の高い餌を過剰に摂食する現象のことを指す。この現象に適用された、並立連鎖スケジュールを用いた実験室シミュレーションの結果は、餌の目立ち易さの要因が頻度依存捕食を生起させる上で重要であることを示した。これらの知見から、実験室シミュレーションが最適性モデルによる予測の検討や採餌行動に影響する要因の探求に際して強力な道具となることが明らかにされた。
著者
高田 芳矩 伊藤 正人 伊藤 三男 岩渕 等
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.435-441, 1994-06-05
参考文献数
6
被引用文献数
1 2

試料溶液を連続的にカラムに導入し, 純粋な溶離液をパルス状に注入して行われるクロマトグラフィー(ベイカントクロマトグラフィーと呼ぶ)の適用を検討した.装置は通常のノンサプレッサー型のイオンクロマトグラフを使用した.試料はあらかじめ溶離液と混合し, これを連続的にカラムに流しておき, ここにインジェクションバルブから試料成分を含まない溶離液をパルス状に注入した.先端分析, 後端分析及びベイカントイオンクロマトグラフィーにおける目的イオンの保持容量は目的イオン及びマトリックス濃度に影響され変動した.ベイカントビークの面積は目的イオンの濃度及びパルス注入する溶液の濃度に比例した.この手法は試薬などに含まれる微量不純物分析に適すると考えられた.
著者
伊藤 正人 小林 奈津子 佐伯 大輔
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.122-140, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

本研究は、並立連鎖スケジュールにもとづく同時選択手続きを用いた3つの実験を通して、ラットにおける強化量の選択行動に及ぼす絶対強化量、体重レベル、経済環境の効果を、選択率と需要分析における価格弾力性を測度として検討した。強化量条件としては、相対強化量を1:3として、絶対強化量(1個45mgの餌ペレット数)を1個:3個から4個:12個の範囲の4条件設け、給餌が実験セッション内に限られる封鎖経済環境と実験セッション外給餌のある開放経済環境の下で各被験体に選択させた。また、セッション時間やセッション外給餌量により体重レベルを実験間で操作した。実験lと3では、体重を自由摂食時安定体重の約80%に維持し、実験2では、体重を自由摂食時安定体重の約95%に維持した。その結果、絶対強化量条件間を比べると、開放経済環境における1個:3個条件よりも4個:12個条件の方が高いことが認められた。選択期と結果受容期の反応に需要分析を適用すると、いずれの体重レベルにおいても、開放経済環境において弾力性の高いことが示された。これらの結果は、経済環境の相違が体重レベルやセッション時間ではなく、セッション外給餌の有無に依存することを示唆している。
著者
伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.156-161, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本特集は、2016年に開催された日本行動分析学会第34回年次大会(大阪市立大学)の公募企画シンポジウム「オペラント条件づけ研究事始め:スキナー研究室から送られた2組の実験装置」(企画 河嶋 孝・伊藤正人)に基づいている。このシンポジウムでは、2組の実験装置導入の経緯や実験装置をめぐる日米交流の一端を明らかにすることを目的としていた。このための基本資料として、当時の慶應義塾大学と東京大学の状況を知る関係者の方々から聞き取り調査を行い、関連年表を作成した。ここでは、関連年表(付表)の内容について紹介し、問題点を整理することにしたい。なお、年表作成にあたり、吉田俊郎、大山 正、大日向達子、故二木宏明の諸先生方から貴重な証言をいただいた。記して感謝申し上げる。年表は、慶應義塾大学と東京帝国大学および東京大学の文学部心理学研究室に関わる事項を中心に、国内外の出来事も記載してある。記載した事項は、戦前(1940年代)から現在(2010年代)までの両大学におけるオペラント条件づけ研究に関与した方々の活動や、オペラント条件づけ研究のインスツルメンテーションを総括する目的で行われた「実験的行動分析京都セミナー」(2012年~2015年)の開催などの活動にも広げてある。また、2組の実験装置の内、現存している慶應義塾大学のハト用実験装置、特に累積記録器についての考証と動作復元の試みが浅野ら(Asano & Lattal, 2012)によって行われており、実験箱についても坂上ら(Sakagami & Lattal, 2016)による論考が公刊されているので、これらについても記載してある。
著者
山口 哲生 伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.185-196, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

本稿では、単位価格、需要曲線、価格弾力性といった行動経済学の基礎的な概念が、喫煙・飲酒・薬物摂取行動を理解する上でいかに有効であるかを述べる。また、消費者行動に影響を及ぼす経済学的要因として価格、代替性、所得、遅延による価値割引を取り上げ、こうした要因が喫煙・飲酒・薬物摂取行動にどのように影響するかを明らかにする。現在までに、行動経済学的概念が依存症治療へ応用可能であることが多くの研究より示されているが、行動経済学的な枠組みでは、薬物摂取行動以外の他行動の強化により、薬物摂取行動を減少させることができる。こうした治療を行う際は、問題行動を強化している強化子と代替強化子との機能的等価性、望ましい強化子に対する補完強化子の有無を考慮する必要がある。行動経済学的研究は、また、薬物摂取に関する社会政策にも有効な方法を提言することができる。
著者
伊藤 正人
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,ベイズ推論とその基礎となる個々の事象の確率値を経験を通して獲得する過程を扱ったものである.ベイズ推論とは,二つの異なる確率的情報から一つの結論(確率)を導き出す過程である.遅延見本合わせ課題における見本刺激の偏りを一つの確率的事象,正しい比較刺激の信頼度をもう一つの確率的事象とした手続きを用いた.遅延見本合わせ課題を訓練した後,見本刺激を提示せずに,情報刺激のみを提示する推論テストと見本刺激のどちらも提示しない確率値推定テストを行って,経験にもとづく確率値の推定とベイズ推論を検討した。ハトを被験体とした実験では,確率値の推定テストにおいて,見本刺激の偏りは,かなり正確に推定されることが示された.さらに,ベイズ推論テストにおいて,ハトの比較刺激の選択の仕方は,おおむねベイズの定理から予測される理論値に一致することが明らかなった.この事実は,ハトにおいても,経験を通して獲得した見本時間の偏りと情報刺激の信頼度に関する情報を新奇なテスト場面で利用できることを明かにしている.すなわち,経験にもとづくベイズ推論が可能なことを示していると考えることができる.このような行動が動物からヒトに共通する側面であるか否かについては,現在のところ,十分な結論を導き出すことはできないが,ある事象の確率的構造の性質は経験を通して明らかになるという観点を支持するものといえる.今後の課題としては,遅延見本合わせ手続きを用いた訓練法やテスト法の改良,異なる動物種での検討,ヒトの発達観点からの検討などが考えられる.
著者
伊藤 正人 佐伯 大輔 山口 哲生
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ハトを対象に、遅延割引、社会割引、社会的ジレンマ場面における共有選択を測定し、価値割引率や選択率の間の相関関係を調べた。その結果、遅延割引率と、社会割引率や共有選択率との間に有意な相関は見られなかった。また、社会割引率と、チキンゲーム・サクラあり・ランダム条件で得られた共有選択率の間には、有意な負の相関が見られた。これらの結果は、衝動性-利己性の関係がハトとヒトにおいて異なる可能性を示している。
著者
山口 哲生 北村 憲司 伊藤 正人
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.11-15, 2003-06-25
被引用文献数
1

The present study examined pigeons' discrimination and categorization of paintings using a liquid crystal display (LCD) and a cathode ray tube (CRT). First, pigeons learned to discriminate 40 paintings by Monet and Picasso. Each painting was presented successively for 30-s separated by a 5-s blackout period. Responses to S+ were reinforced according to a variable-interval (VI) 15-s schedule, whereas responses to S- were not reinforced. After pigeons successfully discriminated the paintings, novel stimuli including paintings by Monet, Picasso, Cezanne, Renoir, Matisse, and Delacroix were presented under extinction. The results from discrimination training and generalization tests showed that pigeons' categorization performance was better with LCD than with CRT. The results indicate that LCD is more suitable for behavioral experiments than CRT.