著者
野村 大成 加藤 秀樹 渡辺 敦光 佐々木 正夫 馬淵 清彦 藤堂 剛
出版者
大阪大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

「放射線被曝による継世代発がん」に関して、ヒトにおいては、馬淵班員が広島・長崎の被爆者のF_1集団72,000人の調査を行った。1946-89年の死亡者中で白血病63症例、リンパ腫22症例を発見したので、詳しい診断を確認の上、授精前被曝との相関が調査できるようになった。基礎研究では、渡辺班員がC3H雄マウスに^<252>Cf中性子放射線照射することにより、ヘパトーマが非照射F_1(3%)の14倍の頻度で発生していることを発見し、野村実験を異なった系統マウスと原爆類似放射能で確認した。野村は、LTマウスにX線(3.6Gy)を照射することによりF_1に10倍の頻度で白血病が誘発されることを発見した。ICRマウスでは見られなかったことである。加藤班員は、これらF_1での発がんに関与した遺伝子のマッピングのため、TemplateDNAの多量、短時間処理法を確立した。佐々木班員はヒトにおける父親由来の突然変異としてRb遺伝子を調べ、Rb腫瘍細胞では80%の症例に+1g異常が観察されるが、9例中8例までが母親由来の1gが過剰になっていることが分かった。新しい発見であり、今後大きな問題になるだろう。藤堂班員は、紫外線によるDNA損傷のうち、がんや突然変異と深く関与してると思われる6-4産物を特異的に修復する酸素を初めて発見した。国内外で大きな反響を呼び、新聞誌上でも大きく報道された。英国核施設従業員(父親)の授精前被曝によりF_1にリンパ性白血病が相対リスク9.0(P=0.047)の高さで発生しているとの報告が1993年3月6日にあった(BMJ)。この報告は、Gardner論文と同じく野村のマウス実験と一致しており、より一層、ヒト疫学、マウスを用いた基礎研究が必要となる。また、内部被曝や低線量率長期被曝の精原細胞および卵細胞におよぼす影響がクローズアップされるようなった。
著者
藤堂 剛 加藤 秀樹 渡辺 敦光 佐々木 正夫 馬淵 清彦 野村 大成
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

1.マウスを用いた継世代発がん:野村はLTマウスを用い精子および精子細胞期へのX線(5.04Gy)照射により、F_1マウス非照射群の約10倍の頻度でリンパ性白血病が誘発されたが、精原細胞期照射ではICRマウスと同様に白血病は誘発されなかった。本年度は、N5マウスを用いたところ、精原細胞期照射でも約6倍の頻度でリンパ性白血病が発生し、ICR,LTと異なる結果となった。白血病発生に系統差がある。また、渡辺は原爆放射能に近い線室の^<252>Cf(中性子66%)をC3H雄マウスの精子期あるいは精原細胞期に1回全身照射(O.5,1.0Gy)し、C57BL雌マウスと交配し、F_1を14.5ケ月後に屠殺したところ、いずれの群でも、肝腫瘍が約10倍も増加した。2.原爆被爆者の子供の死亡率調査:両親の被爆線量に伴う、全死因及び癌死亡の有意な増加は認められない。発癌率調査でも殆ど認められないであろう(馬淵)。3.継世代発がん機序:マウスにおける継世代発がんの遺伝様式はヒトでのRB遺伝子やp53遺伝子の変異によるがん発生と似ている。1)網膜芽細胞腫患者の突然変異の起源を調べると情報の得られた16例のうち15例までが父親由来であり、微視突然変異(RB1)では67%に欠失・挿入・塩基置換なとどの突然変異が認められた(佐々木)。2)継世代高発がんN5マウス家系においてもp53の変異が検出された(野村)。3)マウス肺腫瘍の発生には、その70%を決定する単一の優性遺伝子が存在し、マイクロサテライトマーカーを用い調べると、第六染色体上のK-rasより10cM遠位にありK-ras intron内に欠失が存在することも明らかにした(野村、加藤)。4)藤堂は、紫外線による損傷を持つDNAに特異的に結合する蛋白を2種見い出した。1つは(6-4)光産物に対する光回復酵素で、酵素蛋白の精製に成功し、この酵素が損傷DNAを元に形に修復する活性を持つ事を明らかにした。
著者
辻 孝三 堀出 文男 美濃部 正夫 佐々木 正夫 白神 昇 広明 修
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.371-384, 1980-08-20
被引用文献数
1

スミチオンを空気中でDTA測定を行なうと(I)(150&acd;190℃), (II)(210&acd;235℃), (III)(270&acd;285℃)の3本の発熱ピークが観測される.一方窒素中では(II), (III)に相当する2本の発熱ピークが観測されるのみである.これらのピークは次のように同定された.ピーク(I) : 二酸化イオウガス発生を伴うスミオキソンの生成, ピーク(II) : S-メチルスミチオンからのジメチルサルファイドの発生とポリメタホスフェートの生成, ピーク(III) : フェノール環の炭化とジメチルサルファイド, ジメチルジサルファイドおよびエタンガスの発生.また, 193℃までスミチオンを加熱するとS-メチルスミチオンが生成するが, これに対応したDTAピークは観測されなかった.スミチオンと酸素の反応は拡散律速であり試料表面での反応が主である.スミオキソンの生成熱は170&acd;180 kcal/molである.
著者
木村 影方 佐々木 正夫 馬場 正三 宇都宮 譲二 有吉 寛 笹月 健彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

わが国における高発がん家系の実態調査を行い、大腸がん、乳がんそれぞれで、全がんの約1〜2%が高発がん家系に由来することを見出した。また、これらの家系では、同一部位がんのみならず、他臓器がんや重複がんの発生頻度が高かった。ことに大腸がん多発家系由来の大腸がんでは、これまでの報告と異なり、わが国では低分化腺がんが比較的多いことが初めて示された。一方小児がん登録調査により、2次がん発生には遺伝的要因が深く関与すること、また親の放射被爆歴の多いことが明らかになった。ついで、このような高発がん家系由来試料を用いることにより、複数の家系で、hMSH2およびhMLH1(大腸がん)、BRCA1(乳がん)遺伝子継世代変異を同定した。また大腸がん抑制遺伝子のひとつが既知のDCC遺伝子よりセントロメア側に存在することを見出した。一方大腸がん多発家系の大腸がんでは約半数にマイクロサテライト不安定性が認められるが、APCおよびDCC変異が低率であることから、その発がん機構は一般大腸がんとは異なることが強く示唆された。さらにマイクロサテライト不安定性を伴う大腸がんではTGFBRII、POLB、B2M、WAF1変異が特異的に生じていることを明らかにした。また肺がんの発生にはマイクロサテライト不安定性は関与していないが、単塩基リピート部の欠失は肺がんハイリスクグループである中国人女性に高頻度に生じていることを見出した。さらに乳がんおよびその前がん病変は全て単クローン性であることを証明した。一方白血病発症ハイリスクグループであるファンコニ貧血の実態を調査し、発症年令や白血病危険率は米国と同様であるが、わが国では約180人に1人がファンコニ貧血遺伝子の保因者であると推定された。