著者
木村 影方 佐々木 正夫 馬場 正三 宇都宮 譲二 有吉 寛 笹月 健彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

わが国における高発がん家系の実態調査を行い、大腸がん、乳がんそれぞれで、全がんの約1〜2%が高発がん家系に由来することを見出した。また、これらの家系では、同一部位がんのみならず、他臓器がんや重複がんの発生頻度が高かった。ことに大腸がん多発家系由来の大腸がんでは、これまでの報告と異なり、わが国では低分化腺がんが比較的多いことが初めて示された。一方小児がん登録調査により、2次がん発生には遺伝的要因が深く関与すること、また親の放射被爆歴の多いことが明らかになった。ついで、このような高発がん家系由来試料を用いることにより、複数の家系で、hMSH2およびhMLH1(大腸がん)、BRCA1(乳がん)遺伝子継世代変異を同定した。また大腸がん抑制遺伝子のひとつが既知のDCC遺伝子よりセントロメア側に存在することを見出した。一方大腸がん多発家系の大腸がんでは約半数にマイクロサテライト不安定性が認められるが、APCおよびDCC変異が低率であることから、その発がん機構は一般大腸がんとは異なることが強く示唆された。さらにマイクロサテライト不安定性を伴う大腸がんではTGFBRII、POLB、B2M、WAF1変異が特異的に生じていることを明らかにした。また肺がんの発生にはマイクロサテライト不安定性は関与していないが、単塩基リピート部の欠失は肺がんハイリスクグループである中国人女性に高頻度に生じていることを見出した。さらに乳がんおよびその前がん病変は全て単クローン性であることを証明した。一方白血病発症ハイリスクグループであるファンコニ貧血の実態を調査し、発症年令や白血病危険率は米国と同様であるが、わが国では約180人に1人がファンコニ貧血遺伝子の保因者であると推定された。