著者
佐分利 正彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.222-225, 1986-06-20 (Released:2017-09-15)

我々の右手と左手のように, 同じように見えて実際には重ね合わせることができない一対の鏡像異性体は, その名の示すように"異性体"の一分類であり, 区別することができる。しかし, 鏡像異性体の左右を化学的に区別するには, 別の鏡像異性体の助けが必要である。このように書くといかにも難しい事柄のようであるが, 実際には化合物の匂(にお)いをかぎ比べ, あるいは味をなめ比べて鏡像異性体はちがうものであることを確かめることができる。例えば, ι-メントールやι-カルボンは, 生活の中でもよく用いられるミントの香気をもつ化合物であるが, その鏡像異性体の匂いは, 我々の知っているもののそれとはかなりちがう。本稿では, "鏡像体はちがうものである"ことを"身をもって"確かめるための具体例のいくつかを示した。
著者
石井 洋一 佐々木 一郎 碇屋 隆雄 佐分利 正彦 吉川 貞雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.3, pp.465-472, 1985-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
65
被引用文献数
4

プロキラルあるいはメソ形構造の 1,4-または 1,5-ジオールからアルケンへの水素移行反応において,Ru2Cl4((-)-DIOP)3 が有効な触媒となり光学活性の γ-または δ-ラクトンを光学収率 ~16.9% で与えることを見いだした。この反応は均一系錯体触媒の反応としては例の少ないエナンチオ場区男仮応に分類される。不斉誘導の方向はジオールの置換基の位置により決定され,γ-置換ジオールは R 体のラクトンを過剰に生成するのに対し β,β'-二置換ジオールはカルボニル基の α-位が S の絶対配置をもつラクトンを優位に与える。またジオールのエナンチオトピックなヒドロキシメチル基の一方を選択的に脱水素して光学活性なヘミアセタールを与える第一の不斉誘導と,ヘミアセタールの異性体問での脱水素速度の違いにより動力学的分割の起こる第二の不斉誘導の両方がこの反応に関与していることが判明した。
著者
高橋 保 内田 安三 内田 安三 佐分利 正彦 高橋 保
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

ルテニウムの配位不飽和な活性種である5配位錯体[RuH(P-P)_2]PF_6を種々の2座配位子を用いて合成し挙動を調べたところ次のようなことがわかった。この5配位錯体は溶液中では完全にフリ-な5配位では存在せず、何らかの配位を伴っている。ホスフィンのキレ-ト環が大きくなるにつれて、錯体構造はアゴスティック相互作用を有する安定なシス体へ移行していくと考えられる。またホスフィンとしてdppbを用いたとき、アルゴン下、窒素下、水素下のNMRの比較より、この錯体のホスフィンに結合しているフェニル基のオルト位の水素がルテニウムに配位するアゴスティック相互作用は、窒素や溶媒の配位よりは強く、水素の配位よりは弱いことが明かとなった。さらにdppfを配位子とする場合、この配位子のかさ高さのためにシス体の構造をとっている。これはX線構造解析により明らかとした。この錯体に配位する水素分子はハイドライドHと等価となりトリハイドライド錯体になっていると考えられる。一方ジルコニウムについては活性種をジルコノセンジアルキルから系中で定量的に発生させたところジルコニウムII価のオレフィン錯体であることがわかった。このオレフィンをスチルベンに替えX線構造解析により構造を決定した。さらにこのオレフィン錯体と他のオレフィンとをジルコニウム上で反応させたところ位置選択率99%以上、立体選択率99%以上という高選択性の炭素炭素結合生成反応の開発に成功した。さらにこの反応構の詳細な検討からジルコナあるいはハフナシクロペンタン化合物のβ、γ-炭素炭素結合が活性されること、さらにα位にメチル基のようなアルキル基をもつ場合、この置換基を選択的にβ位に移動させるこれまでにない新しい反応の開発に成功した。