著者
佐分利 正彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.222-225, 1986-06-20 (Released:2017-09-15)

我々の右手と左手のように, 同じように見えて実際には重ね合わせることができない一対の鏡像異性体は, その名の示すように"異性体"の一分類であり, 区別することができる。しかし, 鏡像異性体の左右を化学的に区別するには, 別の鏡像異性体の助けが必要である。このように書くといかにも難しい事柄のようであるが, 実際には化合物の匂(にお)いをかぎ比べ, あるいは味をなめ比べて鏡像異性体はちがうものであることを確かめることができる。例えば, ι-メントールやι-カルボンは, 生活の中でもよく用いられるミントの香気をもつ化合物であるが, その鏡像異性体の匂いは, 我々の知っているもののそれとはかなりちがう。本稿では, "鏡像体はちがうものである"ことを"身をもって"確かめるための具体例のいくつかを示した。
著者
吉岡 常雄 上野 民夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.488-491, 1985-12-20 (Released:2017-09-15)

近代化学工業はW.H.Perkinによるモープ紫(最初の合成染料)の発見に始まり(1856年), K.Graebeによるアリザリン(西洋茜(あかね)の色素)の合成(1867年), A.von BaeyerとHeumannによるインジゴの合成(1890年)によって, 最初は染料工業として確立された。けれども人類は, 太古から三千余種にも及ぶ草根木皮や動物色素を用いて布皮を染め, 装飾や服飾に用いてきた。昨今合成染料の普及はめざましいが, 今ここに天然染料について化学的に考察することは, 近代化学のルーツばかりか人類の遺産を知る上でも重要と考える。今回は数多い天然染料の中から, 帝王紫と呼ばれるロマンに富んだ古代の紫染めの世界に招待したい。
著者
島 正子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.477-479, 1984-12-20 (Released:2017-09-15)
被引用文献数
1

宇宙に存在する元素の割合をみると水素が最も多く, 次はヘリウムで, これだけで全体の99.8%以上をしめる。その次に多い酸素は水素の0.07%, 地殻などを形成しているケイ素は約0.004%にしかすぎない。太陽系に限ってみると, このようにたくさんある水素やヘリウムの大部分は, 主として太陽と木星以遠の外惑星を形成していて, 地球型惑星や衛星からはほとんど失われてしまっている。どうしてこのように劃(かく)然とした違いが生じたのであろうか。また地球型惑星や球粒いん石, 月ではケイ素と酸素の原子比が1 : 3.4-3.8である。1 : 4に近いが4以上でもなくまた3以下でもないことに注目する必要がありそうである。これらの事実を, 化学者が原子, 分子の結びつきという立場から検討していくことが必要なのではないだろうか。宇宙はもはや, 天文学, 物理学, 地学の人たちだけのものではない。