著者
佐藤 尚毅 高橋 正明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.1199-1220, 1999-12-25
被引用文献数
3

関東平野では、夏の晴れた日の午後に積雲対流が生じる。雲量データを調べることによって、ある日の午後の雲量と次の日の午後の雲量は独立ではないことが分かった。雲量が少なかった日の次の日には、雲量が多くなりやすく、雲量が多かった日の次の日には、雲量が少なくなりやすいのである。したがって、関東平野が亜熱帯高気圧に覆われていて、天候が安定している場合には、「晴れた日の次の日は晴れにくい」と言えよう。 この日々変化は、2次元の数値実験によって再現された。海陸風に対応した1日周期の境界条件を与えたにもかかわらず、積雲対流の強い日と弱い日が準周期的に現れた。数値実験の結果を調べることによって、この日々変化は、下層での温位や水蒸気混合比の鉛直分布の違いによって生じていることが分かった。積雲対流の日々変化には、より積雲対流に適した条件を与えると、より強い対流が生じ、その結果、次の日には積雲対流が生じにくい条件になってしまうという、「過剰調節」の効果が本質的に重要である。 さらに、これらの鉛直分布の違いを高層気象観測データと比較して、数値実験の結果を確かめた。温位の鉛直分布の違いは統計的には十分に有意とは言えないが、これらの鉛直分布の違いは、高層気象観測データに見られる違いと定性的に一致した。
著者
児玉 安正 佐藤 尚毅 二宮 洸三 川村 隆一 二宮 洸三 川村 隆一 吉兼 隆生
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

亜熱帯域には3つの顕著な降水帯(亜熱帯収束帯)があり,梅雨前線帯はそのひとつである.本研究では,各収束帯の生成メカニズムについて研究した.SACZ(南大西洋収束帯)について,ブラジル高原の影響をデータ解析と数値実験の両面から調べた.亜熱帯ジェット気流の役割に関連して,ジェット気流に伴う対流圏中層の暖気移流と降水の関係を論じたSampe and Xie(2010)仮説が梅雨前線帯だけでなく,SACZとSPCZ(南太平洋収束帯)にも当てはまることを示した.梅雨前線帯が南半球の収束帯に比べて向きや緯度が異なることについて,黒潮の影響を論じた.
著者
佐藤 尚毅
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

日本周辺での気圧偏差場の解析によって抽出された,盛夏期の天候と関係する偏差パターンである,「亜熱帯ジェット上の定常ロスビー波列」と「オホーツク海高気圧の出現に関連する偏差パターン」の2つについてその力学的な特性を調べた.このうち亜熱帯ジェット上の定常ロスビー波列は,これまで日本の南海上での対流活動に対応して現われるとされてきた北太平洋上のロスビー波列を含んでいるが,統計的にはむしろヨーロッパ付近から日本を経て北アメリカまで伝播する一連の定常ロスビー波列として認識できることが分かった.ヨーロッパ付近での出現には,基本場から偏差場への順圧的運動エネルギー変換が関係していることを確かめるとともに、日本の南海上での対流活動に対応した出現に関しては,線形化されたプリミティブモデルを用いることにより,基本場の東西非一様性が応答の符号や形状を決めるうえで本質的な役割を果たしていることを明らかにした.「オホーツク海高気圧の出現に関連する偏差パターン」については,気侯場を基本場として線形化した順圧モデルを作成し,線形定常応答問題を解いた.各々独立で北半球に一様に分布する渦度強制について応答パターンをそれぞれ計算したところ,オホーツク海高気圧に関連する偏差パターンが統計的に現われやすいことが分かったこの結果は,必ずしも特定の強い励起源が存在しなくても,ある特定の形をした偏差パターンが生じやすいということを示している.より狭い空間スケールでの陸面過程,海面過程とに関連の例として,関東平野における海陸風循環に対する人工排熱の影響と,熱帯域での対流活動に対する力学的応答として生じる盛夏期の北太平洋上での亜熱帯前線帯について調べた.前者に関しては,大規模場が特定の形になっている場合に限って人工排熱の大気への影響が極端に大きくなることを,数値実験によって明らかにした.これはこれまでに報告されている経験的事実と整合的である.後者に関しては,これまでの梅雨前線帯を亜熱帯前線帯とみなす考え方に対して,むしろ梅雨明け後に日本の南海上に前線帯が見られ,この前線帯の力学的構造が典型的な亜熱帯前線帯を一致することを観測データの解析によって確かめた.相当温位の勾配が逆転している点が特徴的であるが,このことは逆に,相当温位の勾配の方向と関係なく,熱帯域での対流活動に対する力学的応答として亜熱帯での降水帯が形成されることを示している.