著者
佐藤 弘和 長谷川 昇司 長坂 有
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.47-52, 2001-02-01
被引用文献数
6

畑地の浮遊土砂発生条件を明らかにするために,畑地(麦畑,秋まき大根畑)と対照区としての林地(落葉広葉樹林)において土壌物理性(貫入抵抗,基準浸入能,飽和透水係数)を測定し比較した。また,林地での浮遊土砂の捕捉効果を定量化するために緩傾斜林地に堰を設置し,降雨時の浮遊土砂濃度を測定した。貫入抵抗の鉛直プロファイルについてみると,麦畑と秋まき大根畑では時期によりプロファイルは異なり,麦畑と秋まき大根の畝間では表層約10cm程度に硬い層が存在した。また,営農活動が進行した麦畑と秋まき大根畑では,40cm程度の深さに硬い層が形成されていた。林地の貫入抵抗プロファイルは,時期による違いが認められず,畑地より低い値を示した。基準浸入能については,麦畑地では255mm h^<-1>,秋まき大根畑の畝では1000mm h^<-1>を超え,畝間では1mm h^<-1>と極めて低い値を示した。一方,林地の基準浸入能は1000mm h^<-1>を超えた。降雨時には,畑地で濁水化した地表流がみられた。これらの土壌物理性と現地観測結果から,営農活動が畑地の畝間の土壌浸透能ならびに土壌中の透水性を低下させることにより,地表流が発生しやすい状況になることが示唆された。林地を通過した濁水は,浮遊土砂負荷量が少ない場合が多く,濁水の大部分が基準浸入能の高い林地土壌に浸透したと考えられた。これより,畑地から河川への濁水負荷に対して,林地による濁水濾過効果は有効であることが確認された。
著者
伊藤誠悟 佐藤 弘和 河口 信夫
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.51-62, 2006-01-15
被引用文献数
3

近年,無線LAN の急速な普及により無線LAN を利用した位置推定システムや情報支援サービスが多く提案されている.いくつかのシステムでは無線LAN の受信電波強度を利用し端末の位置を推定する.しかし,無線LAN の受信電波強度は同じ場所で観測した場合においても端末が向いている方向により大きく異なる.本論文では無線LAN の受信電波強度の方向による違いについて調査を行い,受信電波強度分布の違いを利用した方向推定手法の提案を行う.本手法においては無線LAN の受信電波強度分布間における類似度を定義し,この類似度を用いて,端末が向いている現在方向の推定を行う.方向推定では無線LAN の受信電波強度の情報のみを用いるため,無線LAN 機能を備えている端末であればどのような端末でも本手法を用いることができる.実験の結果,4 個のアクセスポイントを利用し,2 秒間の受信電波強度分布測定で,2 方向の推定においては正解率88%,4 方向の推定においては正解率77%の結果を得た.Over the last few years, many positioning systems and information support systems using wireless LAN have been developed. Some systems use received signal strength of wireless LAN for positioning. But the distribution of received signal strength differs depending on the orientation of the terminal. In this paper, we examine the difference of received signal strength distribution to each orientation, and propose an orientation estimation method using divergence of received signal strength distribution. By using our method, users can know their direction only using wireless LAN adapter. The results of the evaluation experiment show that the accuracy of 2-way estimation is 88% and 4-way estimation is 77% under 2 seconds observation of 4 access points.
著者
長坂 晶子 柳井 清治 長坂 有 佐藤 弘和
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.73-84, 2006-07-25 (Released:2008-07-18)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

北海道南西部噴火湾に流入する貫気別川流域において, 流域住民が河川や沿岸域の環境変化に対してどのような認識を持っているか聞き取り調査によって把握した. さらに, コレスポンデンス分析と等質性分析を用いて, 居住地区や従事する産業形態の違いが, 濁りに対する認識にどのような影響を及ぼすのか考察した.コレスポンデンス分析の結果, 濁りの原因に対する認識は上下流で大きく異なっており, 上流の農業従事者は川の濁りを農地利用に起因するものと捉えているのに対し, 河口域の漁業従事者は河川改修や道路工事などの開発行為に起因すると捉えていることがわかった. 農業従事者をさらに5流域に分け, 川の濁りと崩壊発生との関係をどう認識しているかを等質性分析により解析したところ, 支流ごとに特徴が見られたが, 概してこの2つを一連の現象として認識していることがわかった. 「漁場環境の変化」, 「変化の要因」, 「ホタテ貝養殖環境の変化」に対する漁業従事者の認識についても等質性分析を行ったが, 回答された項目間に明瞭な対応関係は見られなかった.漁業従事者が上流の土砂供給源の実態をよく把握できていない要因としては, 自治体の違いによって情報が分断されていること, 地形条件によって土砂供給源に気付きにくいことなどが考えられた. また漁業従事者が漁場環境悪化の原因をはっきりと回答できない要因には, 海域では現実に様々な要因が複合してしまうため, 環境悪化について一対一の因果関係を見出しにくい側面もあると考えられた.今回の分析により, 流域住民が身近な環境の変化をどう捉え, 上下流の意識がいかに異なるかが浮き彫りにされた. 今後, 貫気別川ならびに沿岸河口域の環境保全策を流域レベルで計画し実施していく際には, 上下流で情報を共有するとともに, 異なる利害関係者どうしの合意形成をいかに図るかが重要であると思われた.
著者
柳井 清治 永田 光博 長坂 有 佐藤 弘和 宮本 真人 大久保 進一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.340-346, 2001-11-16
参考文献数
23
被引用文献数
4

北海道南西部を流れる積丹川において, 冬期間のサクラマス幼魚の生息環境と河畔植生の関係を1995年と1996年の2ヵ年にわたって調査した。調査方法として, 河川を1 m四方のメッシュに区切り幼魚の分布と物理環境を調べたところ, 川岸よりの流れが緩く積雪により押しつぶされた植生下で多く捕獲された。具体的な越冬環境の物理条件としては流速が0.2 m/s以下で高いカバー被覆率がある細粒の底質が好まれており, 水深に関しては一定の深さを好む傾向が見られなかった。さらに越冬時のサクラマス幼魚の胃内容物を調べたところ, 夏と比べて胃内容物指数が小さく, 周辺に生息する小型の水生昆虫をわずかに摂食しているにすぎなかった。メッシュを幼魚の密度により3タイプに分類し判別分析を行なったところ, 水中カバー, ついで表面流速などの環境因子が越冬場を決定する重要な要因として選択された。以上のことから, 冬季間サクラマス幼魚は流速の緩い積雪に覆われたカバー下を主に利用しており, こうした環境を創る上で倒木や河畔林から伸びる枝はきわめて重要な要素となることがわかった。