著者
尾崎 研一 明石 信廣 雲野 明 佐藤 重穂 佐山 勝彦 長坂 晶子 長坂 有 山田 健四 山浦 悠一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.101-123, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
168
被引用文献数
4

森林は人間活動に欠かすことのできない様々な生態系サービスを供給しているため、その環境的、経済的、文化的価値を存続させる森林管理アプローチが必要である。保残伐施業(retention forestry)は、主伐時に生立木や枯死木、森林パッチ等を維持することで伐採の影響を緩和し、木材生産と生物多様性保全の両立をめざす森林管理法である。従来の伐採が収穫するものに重点を置いていたのに対して、保残伐は伐採後に残すものを第一に考える点と、それらを長期間、少なくとも次の主伐まで維持する点に違いがある。保残伐は、皆伐に代わる伐採方法として主に北アメリカやヨーロッパの温帯林、北方林で広く実施されているが、日本を始めとしたアジア諸国では普及しておらず、人工林への適用例もほとんどない。そこで、日本で保残伐施業を普及させることを目的として、保残伐施業の目的、方法、歴史と世界的な実施状況を要約した。次に、保残伐の効果を検証するために行われている野外実験をレビューし、保残伐に関する研究動向を生物多様性、木材生産性、水土保全分野についてとりまとめた。そして、2013年から北海道で行っている「トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験(REFRESH)」について紹介した。
著者
三浦 一輝 石山 信雄 川尻 啓太 渥美 圭佑 長坂 有 折戸 聖 町田 善康 臼井 平 Gao Yiyang 能瀬 晴菜 根岸 淳二郎 中村 太士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.39-48, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
38

北海道における希少淡水二枚貝カワシンジュガイ属2種(カワシンジュガイMargaritifera laevis、コガタカワシンジュガイM. togakushiensis)が同河川区間(<100 m区間内)に生息する潜在性の高い地域を広く示すために、北海道内の計31水系53河川から本属を採集し、mtDNAの16S rRNA領域におけるPCR増幅断片長を比較する手法を用いて種同定を行った。種同定結果を元に10 × 10 kmメッシュ地図に地図化した。結果、カワシンジュガイが23水系39河川、コガタカワシンジュガイが25水系40河川から確認された。全調査河川のうち、49%の17水系26河川から2種が同河川区間から確認され、各地域の全調査河川に対する確認調査河川の割合が道東地域で68%と最も高かった。また、全38調査メッシュのうち、50%の19メッシュから2種が同河川区間から確認された。地域別に見ると、各地域の全調査メッシュに対する確認調査メッシュの割合が道東地域で67%と最も高かった。本研究では、カワシンジュガイ属2種の遺伝分析を行い、本属2種が同河川区間に生息する河川およびその潜在性が高い地域を示すことができた。本結果は、今後、北海道に生息するカワシンジュガイ属の調査や保全策立案に重要な情報を提供できると考えられる。
著者
速水 将人 石山 信雄 水本 寛基 神戸 崇 下田 和孝 三坂 尚行 卜部 浩一 長坂 晶子 長坂 有 小野 理 荒木 仁志 中嶋 信美 福島 路生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.20-00043, (Released:2021-07-10)
参考文献数
47

河川上流域に多数設置された治山ダムは,渓流や森林の荒廃を防ぐ重要な役割を果たす一方で,渓流魚の河川内の自由な移動を阻害している.こうした状況に鑑み,河川生態系の保全を目的とした改良事業(魚道の設置,堤体の切り下げ)が国内の多くの治山ダムで実施されている.本研究では,北海道 3 河川に設置された治山ダムを対象に,魚道設置と切り下げによるダム改良工事が,その上下流の渓流魚類相に与える影響について,改良工事前後で行われた採捕調査によって検証した.同時に,ダム改良後の採捕結果と環境 DNA メタバーコーディングによる魚類相推定結果を比較し,治山ダム改良事業における環境 DNA メタバーコーディングを用いた魚類相推定の有効性を検討した.採捕調査の結果,治山ダムの改良事業によって,遡河回遊魚であるアメマスとサクラマスのダム上流への移動を可能にし,10 年後においても効果が確認された.環境 DNA メタバーコーディングでは,採捕された全 9 種に加え,採捕では確認されなか ったニジマスの計 10 種が検出され,治山ダム上下流に設定した各調査地点における遡河回遊魚のアメマス・サクラマスや,ハナカジカの採捕結果との一致率は 70-90 %であった.環境 DNA メタバーコーディングを治山ダム改良事業に適用する場合,評価対象魚種の特性や過去の採捕記録を考慮する必要はあるものの,改良前の治山ダムにおける魚類の遡上阻害の推定や,改良後の河川の魚類相・生息状況の推定に有効であることが示唆された.但し,治山ダムの切り下げを例にとると,遡上阻害の改善効果が維持される期間は工法によって異なる可能性もあり,正確な評価には様々な河川・工法を対象としたさらなる研究の蓄積が必要である.
著者
平川 浩文 長坂 有
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2013 (Released:2014-02-14)

コテングコウモリは春,残雪上のくぼみや穴でときおり発見されている.2010年の哺乳類学会にて,詳細を把握できた 13例の分析に基いて,冬眠の可能性が高いことを報告した.その後も情報収集を進め,2013年春までの 3年間に新たに 15の発見例が加わり,全部で 28例となった.この内,最新の 10例はすべて,発表者の二人が 2013年春に探して見つけたものである.今回の 10例より前には,1例を除いてすべて偶然の発見で,発見時に例外なくコウモリを手にとるなどの干渉が行われ,コウモリを元の場に戻した場合でもその後の経過観察が行われた例はなかった.探して見つけた 2007年の1例についてはコウモリに触れることなくしばらく観察が行われたものの,その後の経過観察は行われなかった.今回,研究目的で探索して 10例の発見に成功し,撹乱を避けた経過観察が初めて行われた.10例の内,1例はすでに死亡していたことが最終的に判明した.残り9例の内 1例を除いては発見時,体の動きがみられず休眠状態にあったと考えられた.発見後,撹乱を避けて観察を続けた結果,日没後 46分から 94分の間にその場を離れるのが確認された.その前には,顔を上げ,周囲を見回す仕草が確認できた.それまでの間,時々姿勢変化があった例も,まったくなかった例もあった.8例については穴から飛び去る瞬間も確認され,1例では飛び立ち時の写真撮影にも成功した.4例については,赤外線サーモグラフィ装置によって,その場を離れるまでの間,体温が上昇する過程を観察できた.5例については,翌朝,同じ穴に戻っていないことが確認された.さらに,1例は発見時の穴の形状から,穴が積雪下で形成され,コウモリが雪の中にいたことが強く示唆された.4例では,発見時,雨で体毛が濡れていたものの飛び立ちが確認されたことから,休眠中の雨濡れは生存の決定的な障害とはならないことがわかった.
著者
佐藤 創 長坂 有 浅井 達弘 寺澤 和彦
出版者
社団法人 砂防学会
雑誌
砂防学会誌 : 新砂防 = Journal of the Japan Society of Erosion Control Engineering (ISSN:02868385)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.11-17, 2006-03-15
被引用文献数
4

We quantified the woody debris on the flood plain of the Appetsu River, watershed area is 287.9 km<sup>2</sup>, by Typhoon 0310, Etau. This typhoon caused heavy damage, especially in the Hidaka and Tokachi districts of Hokkaido. We established 61 study sites in the river basin and investigated the size, species, and freshness of woody debris in a sampling plot in each study site. We used aerial photographs to estimate the volume of woody debris outside the study sites. The volume of woody debris totaled 46, 260 m<sup>3</sup>. The deposits were greatest in the upper river basin in the northern area. Of the total volume, 76% originated from landslides on mountain slopes or bank erosion, and the remaining 24% was from riparian forests. Of the woody debris, 15% were conifers and the remaining 85% were broadleaf trees. An estimated 74% of the volume came from trees that were living just before Typhoon 0310 struck, and the remainder was old fallen timber. Of the woody debris, 12% of the trunks had diameters under 10 cm, 57% were 10 - 30 cm, 28% were 30 - 50 cm, and 3% were over 50 cm.
著者
佐藤 弘和 長谷川 昇司 長坂 有
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.47-52, 2001-02-01
被引用文献数
6

畑地の浮遊土砂発生条件を明らかにするために,畑地(麦畑,秋まき大根畑)と対照区としての林地(落葉広葉樹林)において土壌物理性(貫入抵抗,基準浸入能,飽和透水係数)を測定し比較した。また,林地での浮遊土砂の捕捉効果を定量化するために緩傾斜林地に堰を設置し,降雨時の浮遊土砂濃度を測定した。貫入抵抗の鉛直プロファイルについてみると,麦畑と秋まき大根畑では時期によりプロファイルは異なり,麦畑と秋まき大根の畝間では表層約10cm程度に硬い層が存在した。また,営農活動が進行した麦畑と秋まき大根畑では,40cm程度の深さに硬い層が形成されていた。林地の貫入抵抗プロファイルは,時期による違いが認められず,畑地より低い値を示した。基準浸入能については,麦畑地では255mm h^<-1>,秋まき大根畑の畝では1000mm h^<-1>を超え,畝間では1mm h^<-1>と極めて低い値を示した。一方,林地の基準浸入能は1000mm h^<-1>を超えた。降雨時には,畑地で濁水化した地表流がみられた。これらの土壌物理性と現地観測結果から,営農活動が畑地の畝間の土壌浸透能ならびに土壌中の透水性を低下させることにより,地表流が発生しやすい状況になることが示唆された。林地を通過した濁水は,浮遊土砂負荷量が少ない場合が多く,濁水の大部分が基準浸入能の高い林地土壌に浸透したと考えられた。これより,畑地から河川への濁水負荷に対して,林地による濁水濾過効果は有効であることが確認された。
著者
長坂 晶子 長坂 有 鈴木 玲
出版者
北海道立林業試験場
雑誌
北海道林業試験場研究報告 (ISSN:09103945)
巻号頁・発行日
no.45, pp.9-20, 2008-03
被引用文献数
2

生育環境が厳しい道路法面において、木本緑化の確実性を向上させ、かつより多くの道産樹種について法面緑化への適用可能性を調べることを目的として、北海道内に自生する17種の木本植栽試験を行った。3年後の生残率と相対樹高成長率(RHGR)によって法面への適応性を検討したところ、裸苗・ビニルポット苗・紙ポット苗の中では裸苗・ビニルポット苗で良い活着が得られた。3年後生残率とRHGRの関係から、生残率75%以上、RHGRが0.2以上の樹種(タニウツギ、アキグミ、ムラサキシキブ、キタゴヨウ、イボタノキ、エゾヤマハギ)は緑化材料として大いに期待できる樹種と判断された。また急斜面という立地を考えれば、多幹になりやすい樹種(タニウツギ、ムラサキシキブ、アキグミ、ヒメヤシャブシ、エゾヤマハギ)によるグランドカバーとしての機能も今後期待できるだろう。本試験により北海道南部の郷土樹種としては、ムラサキシキブ、キタゴヨウ、ワタゲカマツカが新たな緑化材料として活用できる可能性が示唆された。
著者
長坂 晶子 柳井 清治 長坂 有 佐藤 弘和
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.73-84, 2006-07-25 (Released:2008-07-18)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

北海道南西部噴火湾に流入する貫気別川流域において, 流域住民が河川や沿岸域の環境変化に対してどのような認識を持っているか聞き取り調査によって把握した. さらに, コレスポンデンス分析と等質性分析を用いて, 居住地区や従事する産業形態の違いが, 濁りに対する認識にどのような影響を及ぼすのか考察した.コレスポンデンス分析の結果, 濁りの原因に対する認識は上下流で大きく異なっており, 上流の農業従事者は川の濁りを農地利用に起因するものと捉えているのに対し, 河口域の漁業従事者は河川改修や道路工事などの開発行為に起因すると捉えていることがわかった. 農業従事者をさらに5流域に分け, 川の濁りと崩壊発生との関係をどう認識しているかを等質性分析により解析したところ, 支流ごとに特徴が見られたが, 概してこの2つを一連の現象として認識していることがわかった. 「漁場環境の変化」, 「変化の要因」, 「ホタテ貝養殖環境の変化」に対する漁業従事者の認識についても等質性分析を行ったが, 回答された項目間に明瞭な対応関係は見られなかった.漁業従事者が上流の土砂供給源の実態をよく把握できていない要因としては, 自治体の違いによって情報が分断されていること, 地形条件によって土砂供給源に気付きにくいことなどが考えられた. また漁業従事者が漁場環境悪化の原因をはっきりと回答できない要因には, 海域では現実に様々な要因が複合してしまうため, 環境悪化について一対一の因果関係を見出しにくい側面もあると考えられた.今回の分析により, 流域住民が身近な環境の変化をどう捉え, 上下流の意識がいかに異なるかが浮き彫りにされた. 今後, 貫気別川ならびに沿岸河口域の環境保全策を流域レベルで計画し実施していく際には, 上下流で情報を共有するとともに, 異なる利害関係者どうしの合意形成をいかに図るかが重要であると思われた.
著者
柳井 清治 永田 光博 長坂 有 佐藤 弘和 宮本 真人 大久保 進一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.340-346, 2001-11-16
参考文献数
23
被引用文献数
4

北海道南西部を流れる積丹川において, 冬期間のサクラマス幼魚の生息環境と河畔植生の関係を1995年と1996年の2ヵ年にわたって調査した。調査方法として, 河川を1 m四方のメッシュに区切り幼魚の分布と物理環境を調べたところ, 川岸よりの流れが緩く積雪により押しつぶされた植生下で多く捕獲された。具体的な越冬環境の物理条件としては流速が0.2 m/s以下で高いカバー被覆率がある細粒の底質が好まれており, 水深に関しては一定の深さを好む傾向が見られなかった。さらに越冬時のサクラマス幼魚の胃内容物を調べたところ, 夏と比べて胃内容物指数が小さく, 周辺に生息する小型の水生昆虫をわずかに摂食しているにすぎなかった。メッシュを幼魚の密度により3タイプに分類し判別分析を行なったところ, 水中カバー, ついで表面流速などの環境因子が越冬場を決定する重要な要因として選択された。以上のことから, 冬季間サクラマス幼魚は流速の緩い積雪に覆われたカバー下を主に利用しており, こうした環境を創る上で倒木や河畔林から伸びる枝はきわめて重要な要素となることがわかった。