- 著者
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長坂 晶子
柳井 清治
長坂 有
佐藤 弘和
- 出版者
- 応用生態工学会
- 雑誌
- 応用生態工学 (ISSN:13443755)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.1, pp.73-84, 2006-07-25 (Released:2008-07-18)
- 参考文献数
- 29
- 被引用文献数
-
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北海道南西部噴火湾に流入する貫気別川流域において, 流域住民が河川や沿岸域の環境変化に対してどのような認識を持っているか聞き取り調査によって把握した. さらに, コレスポンデンス分析と等質性分析を用いて, 居住地区や従事する産業形態の違いが, 濁りに対する認識にどのような影響を及ぼすのか考察した.コレスポンデンス分析の結果, 濁りの原因に対する認識は上下流で大きく異なっており, 上流の農業従事者は川の濁りを農地利用に起因するものと捉えているのに対し, 河口域の漁業従事者は河川改修や道路工事などの開発行為に起因すると捉えていることがわかった. 農業従事者をさらに5流域に分け, 川の濁りと崩壊発生との関係をどう認識しているかを等質性分析により解析したところ, 支流ごとに特徴が見られたが, 概してこの2つを一連の現象として認識していることがわかった. 「漁場環境の変化」, 「変化の要因」, 「ホタテ貝養殖環境の変化」に対する漁業従事者の認識についても等質性分析を行ったが, 回答された項目間に明瞭な対応関係は見られなかった.漁業従事者が上流の土砂供給源の実態をよく把握できていない要因としては, 自治体の違いによって情報が分断されていること, 地形条件によって土砂供給源に気付きにくいことなどが考えられた. また漁業従事者が漁場環境悪化の原因をはっきりと回答できない要因には, 海域では現実に様々な要因が複合してしまうため, 環境悪化について一対一の因果関係を見出しにくい側面もあると考えられた.今回の分析により, 流域住民が身近な環境の変化をどう捉え, 上下流の意識がいかに異なるかが浮き彫りにされた. 今後, 貫気別川ならびに沿岸河口域の環境保全策を流域レベルで計画し実施していく際には, 上下流で情報を共有するとともに, 異なる利害関係者どうしの合意形成をいかに図るかが重要であると思われた.