著者
余田 敬子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.7, pp.841-853, 2015-07-20 (Released:2015-08-01)
参考文献数
33
被引用文献数
2

梅毒は, 口腔・咽頭に初期硬結, 硬性下疳, 粘膜斑, 口角炎が生じる. 性器や皮膚の病変を伴わない場合が多く, 特徴的な口腔咽頭病変は梅毒診断の契機になりやすい. DEBCPCG 40万単位または AMPC 500mg を1日3回, PC アレルギーの場合は MINO 100mg を1日2回, 第1期は2~4週間, 第2期は4~8週間, 感染後1年以上または感染時期不明の場合は8~12週間投与する. HIV 感染者の口腔粘膜病変には感染症, 腫瘍, 炎症性疾患, 非特異的潰瘍などがあり, 無症候期以降の初発症状として現れやすい. 特に HIV 感染を強く示唆するものに, カンジダ症, 口腔毛様白板症, HIV 関連歯肉炎・歯周炎, カポジ肉腫, 非ホジキンリンパ腫, ドライマウスがある. 淋菌とクラミジアの咽頭感染は無症候の場合が多く, 少数の感染者に非特異的咽頭炎, 扁桃炎, 上咽頭炎を発症する. 診断には核酸増幅法を用いる. 当科では, 淋菌には CTRX 2g 1回/日を1~3日間, クラミジアには CAM 200mg を1日2回14日間, 投与している. 淋菌もクラミジアも性器感染は不妊の原因となり得るため, 治療終了後から2週間以上あけて, 核酸増幅法による治癒確認検査を実施する. HSV 性咽頭・扁桃炎は10~30歳代の初感染者の一部に発症する. アフタ・びらん・白苔を伴う咽頭炎と偽膜を伴う扁桃炎がみられ, 強い咽頭痛と高熱を伴う. 治療には, 経口でバラシクロビル1回500mg, 1日2回を5日間, またはアシクロビル1回200mg, 1日5回を5日間, 経口摂取困難例ではアシクロビル注5mg/kg/回を1日3回8時間ごとに7日間投与する. HPV は中咽頭癌の約半数から検出される. HPV 感染そのものは無症候性で, 診断は腫瘍性病変からの HPV の検出による. HPV 感染への治療法は確立していないが, ワクチン接種の普及により HPV 関連癌患者が減少することが期待される.

3 0 0 0 OA 口腔咽頭梅毒

著者
余田 敬子
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.246-255, 2014-10-15 (Released:2015-10-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1

梅毒は, 梅毒トレポネーマ (Treponema pallidum) を病原体とする全身性の慢性感染症で, 口腔咽頭の梅毒病変はその特徴的な所見から他の疾患との鑑別は比較的容易で梅毒の診断の契機となりやすい。 梅毒第1期では無痛性の初期硬結または硬性下疳が, 口唇, 扁桃, 舌尖に生じる。 第2期では口角炎や粘膜斑 (乳白斑) が生じ, 痛みや違和感を訴える。 検査には, 梅毒トレポネーマを鏡検する直接法と梅毒血清反応があり, この二つの検査結果から総合的に診断する。 治療には, 天然製剤のベンジルペニシリンベンザチンが最も有効で, 1回400万単位 (入手できない場合にはアモキシシリン1回500mg) を1日3回, PC アレルギーの場合は MINO 100mgを1日2回, 第1期は2~4週間, 第2期は4~8週間, 感染後1年以上または感染時期不明の場合では8~12週間経口投与する。 口腔咽頭梅毒は性交渉を介して相手に感染させる可能性が高い病変であるため, 感染拡大防止のためにも適切な診断治療が重要となる。
著者
谷野 絵美 余田 敬子
出版者
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌 (ISSN:21880077)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.151-155, 2020-04-20 (Released:2020-05-20)
参考文献数
6

近年,口腔咽頭の性感染症の増加が懸念されている.自ら性感染症を心配して耳鼻咽喉科を受診する患者が少なくない.梅毒の口腔咽頭病変は特徴的な所見がみられるが,前医で抗菌薬を投与され他覚的所見が消失した状態で受診することもある.淋菌・クラミジア咽頭感染は特徴的所見に欠き鑑別が難しいことが多い.当科で最近の1年間に咽頭梅毒2例,淋菌およびクラミジアの咽頭感染を1例経験した.いずれの症例も当科初診時は明らかな特徴的所見は認めなかったが,咽頭痛や咽頭違和感が遷延して自ら咽頭の性感染症検査を希望して受診し,それぞれ梅毒抗体検査,核酸増幅法検査を行った結果診断された. 患者が咽頭の性感染症を心配して耳鼻咽喉科を受診した場合,咽頭の他覚的所見がなくとも性感染症検査を行うことが望ましい.また治療後に性感染症の感染リスクが高い性行動を持つ人に対しては,定期的な性感染症の検査の継続が望ましいと考える.
著者
余田 敬子 尾上 泰彦 西田 超 金子 富美恵 須納瀬 弘
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.171-177, 2011

性感染症クリニックで, 淋菌・クラミジア検査を行った女性169人の職業と, 男性81人の性交渉の相手について検討した. 女性の92%を占めたソープランド (ソープ) 従業女性では, 淋菌の咽頭陽性者が性器より多く, クラミジアは性器陽性者が咽頭より多かった. ソープ以外の性風俗店従業女性においても, 淋菌・クラミジアの咽頭と性器の陽性者が存在した. 性風俗従業でない女性にも, 淋菌・クラミジアの陽性者があった.<br>男性では, 咽頭の淋菌陽性者の89%, 性器の淋菌陽性者の93%, 咽頭のクラミジア陽性者全員, 性器のクラミジア陽性者の77%が, 性風俗従業女性からの感染と推察された. また, 少数ではあるが, 特定の女性から淋菌・クラミジアに感染した人と思われた人が存在した.
著者
余田 敬子 尾上 泰彦 西田 超 金子 富美恵 須納瀬 弘
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.171-177, 2011 (Released:2011-09-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

性感染症クリニックで, 淋菌・クラミジア検査を行った女性169人の職業と, 男性81人の性交渉の相手について検討した. 女性の92%を占めたソープランド (ソープ) 従業女性では, 淋菌の咽頭陽性者が性器より多く, クラミジアは性器陽性者が咽頭より多かった. ソープ以外の性風俗店従業女性においても, 淋菌・クラミジアの咽頭と性器の陽性者が存在した. 性風俗従業でない女性にも, 淋菌・クラミジアの陽性者があった.男性では, 咽頭の淋菌陽性者の89%, 性器の淋菌陽性者の93%, 咽頭のクラミジア陽性者全員, 性器のクラミジア陽性者の77%が, 性風俗従業女性からの感染と推察された. また, 少数ではあるが, 特定の女性から淋菌・クラミジアに感染した人と思われた人が存在した.
著者
余田 敬子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.255-265, 2002-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
25
被引用文献数
6

口腔咽頭梅毒のほとんどは性感染症としての第1・2期の顕症梅毒である.日本でも今後口腔咽頭梅毒の増加が危惧されている.当科で経験した23例からみた口腔咽頭梅毒の特徴は, 第1期病変で受診する症例は少なく第2期の粘膜斑“butterfly appearance”や乳白斑を呈して受診する症例が多いこと, 性器病変を伴わない例が多いこと, '98年以降HIV感染を合併している同性愛男性例が増えてきたことが挙げられる.口腔咽頭梅毒を的確に診断するため, 10代から高齢者までの患者の口腔咽頭病変に対し常に梅毒の可能性を念頭に置きながら対処し, 顔面・手掌.頭髪などの皮膚病変の有無にも着目することが有用である.
著者
石井 香澄 荒牧 元 新井 寧子 内村 加奈子 岡部 邦彦 西田 素子 余田 敬子
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.249-256, 2002-03-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

<目的> 扁桃周囲膿瘍は副咽頭間隙に近接しており, 種々の合併症を生じ得るため早急な対応を要する. 副咽頭間隙の内側には内頸動脈が走行しており, 処置の際に血管損傷など副損傷を併発する可能性がある. そこで迅速かつ適切に対応するため, 扁桃周囲膿瘍例のCT像から, 膿瘍と副咽頭間隙の主要臓器の位置関係を計測し, 処置の際の安全範囲を検討した.<対象・方法> 1997年2月から1999年4月までの期間, 当科で初診時に造影CT scanを施行し, 扁桃周囲膿瘍と診断された31例を対象とした. 平均年齢は30.7歳 (12~54歳), 男性19例, 女性12例で, 患側は右側20例, 左側11例であった. フィルムから膿瘍および副咽頭間隙内の主要臓器である頸動静脈と神経系を含む軟部組織辺縁の位置を, 診療時に指標となり得る門歯正中矢状断および上歯槽後端を基準に距離および角度として計測した.<結果> 副咽頭間隙内の主要臓器の内側縁は門歯正中から15±2°, 正中矢状断からは扁桃上極で24±4mm, 下極で23±3mm外側にあった. 前縁の深さは上歯槽後端から29±5mm後方の位置にあった. 間隙内側に位置する内頸動脈は上歯槽後端を含む矢状断上にあった. 正中と間隙との角度および距離は患側, 健側ともに上極とほぼ同様の計測値で, 有意差は認められなかった. 咽頭粘膜を含めた膿瘍前壁および扁桃周囲膿瘍後壁から, 間隙前縁までの距離は各々31±5mmおよび9±4mmであった. 全例で膿瘍の中心は, 門歯正中と内頸動脈を結ぶ直線より内側に位置していた.<結論> 副咽頭間隙の位置を想定する際, 上歯槽後端と正中矢状断との関係が参考となる. 上歯槽後端の矢状断に副咽頭間隙内側 (内頸動脈) が位置するため, 穿刺・切開の際, 極力穿刺点から矢状方向に進み, 穿刺深は20mm以内とし, 方向は穿刺端が上歯槽後端の矢状断より内側に留めると, 血管損傷を回避した有効な処置が可能と考えられた.
著者
今井 透 遠藤 朝彦 吉村 剛 宇井 直也 大久保 公裕 藤倉 輝道 新井 寧子 余田 敬子 北嶋 整 相田 瑞恵 小津 千佳 酒主 敦子 森山 寛
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.427-438, 2005

東京都において, 観測史上最多のスギ花粉飛散を記録した20o5年に, 多施設共同でスギ花粉症に対するラマトロバンおよび抗ヒスタミン薬との併用療法を, 鼻症状およびQOLについて花粉症日記と日本アレルギー性鼻炎標準調査票 (JRQLQ No.1およびNo.2鼻眼以外の症状用) を用いて検討した。比較に際しては, 初期治療群と飛散後治療群に群別した。初期治療群では飛散後治療群に比較して, 鼻症状およびQOLともにスギ飛散ピーク時のスコアの抑制がみられ, 副作用は認められなかつた。作用機序の異なるラマトロバンと抗ヒスタミン薬との併用は, シーズン10,000個/cm2を超えるような大量飛散年においても, 飛散ピーク時の鼻症状ならびに患者QOLを改善することから有用な治療法であることが示唆された。
著者
余田 敬子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.225-234, 2007-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
45
被引用文献数
8

頻度が少なく診断に難渋しがちな「特殊な上咽頭炎」として, 結核, 放線菌症, マイコプラズマ, クラミジア, サイトメガロウイルス感染症を呈示した. 臨床的特徴として, 結核は20-40歳代の女性に白苔を伴う腫瘤または潰瘍性病変を, 放線菌症は男性に悪性腫瘍を疑う腫瘤性病変を, マイコプラズマは年長の小児から20代前半の若年者にイチゴ状に腫脹したアデノイドを, クラミジアは成人型封入体結膜炎に併発して発赤・腫脹を呈することが多い. サイトメガロウイルスの1例は33歳男性で, 上咽頭に肉芽腫性病変を認めた. これらの上咽頭炎は, 耳閉感, 咽頭痛, または鼻閉を訴え, 上咽頭の詳細な観察と組織生検を契機に診断に至る場合が多い.
著者
余田 敬子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 = Stomato-pharyngology (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.255-265, 2002-06-01
参考文献数
25
被引用文献数
1

口腔咽頭梅毒のほとんどは性感染症としての第1・2期の顕症梅毒である.日本でも今後口腔咽頭梅毒の増加が危惧されている.<BR>当科で経験した23例からみた口腔咽頭梅毒の特徴は, 第1期病変で受診する症例は少なく第2期の粘膜斑"butterfly appearance"や乳白斑を呈して受診する症例が多いこと, 性器病変を伴わない例が多いこと, '98年以降HIV感染を合併している同性愛男性例が増えてきたことが挙げられる.<BR>口腔咽頭梅毒を的確に診断するため, 10代から高齢者までの患者の口腔咽頭病変に対し常に梅毒の可能性を念頭に置きながら対処し, 顔面・手掌.頭髪などの皮膚病変の有無にも着目することが有用である.