著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
森 永壽
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.250-264, 1997-12-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究は, 過疎地域の一つである鳥取県八頭郡智頭町において, 過去13年間にわたって展開されてきた地域活性化運動の軌跡を紹介し, その軌跡を, 大澤真幸の社会学的身体論に基づき, 規範形成・変容のプロセス (超越的身体の構成プロセス) として考察した。特に, たった二人の住民リーダーによって創出された規範が, 彼らから一般住民に対するイベントや外国人・研究者の一方的伝達 (贈与) が成功することによって, 規範の作用圏を拡大するとともに, 一般住民, さらには町行政の規範的前提を再編成していくプロセスを描出した。
著者
森 永壽
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.62-86, 2015-12-28 (Released:2015-06-12)
参考文献数
36

本稿では、島根県松江市におけるドキュメンタリー映画「ひめゆり」の市民上映会(2008 年7 月)及びその後の活動を、「野火的活動」の概念を用いて考察する。 松江市における「ひめゆり」の市民上映は、友人から「島根でも上映ができないか」と相談を受けたT が、素人ばかりの上映実行委員会を立ち上げてはじまった。実行委員会の参加メンバーは固定されなかったにも関わらず、上映のみならず、趣向を凝らした関連展示や、高校での上映に対する資金補助まで行った。一連の活動が終わると実行委員会は自然消滅したが、その後の他所での上映会や関連の活動のきっかけになった。 これまで市民活動の分析にはネットワーク論がよく使われたが、メンバーの入れ替わりも多く、飛び火するように展開することもあり、分析には限界があった。しかし、Engeström は、こうした市民活動を「野火的活動(wildfire activities)」、すなわち「ある場所から消えてなくなったかと思えば、全く別の場所であるいは同じ場所でも長い潜伏期間の後、急に出現して活発に発達するといった独特な能力」を持つ活動(エンゲストローム, 2008)として重要視する。 「野火的活動」は、「痕跡による協同(stigmergy)」とよばれる自己組織化のメカニズム、すなわち、ある行為によって環境に残された痕跡が、続く行為を刺激し、また環境に痕跡を残すメカニズムによって継続・拡張する。このメカニズムによって、組織化や事前計画がないままでも、複雑で、知的な協同がなされるプロセスを記述することができる。 「野火的活動」及び「痕跡による協同」の概念を用いて市民上映活動を考察し、①活動を通じて「上映」に新しい意味が加わり、活動終了後は「痕跡」となって次の活動のきっかけとなったこと、②メーリングリストを通じた上映活動の言語化によって、活動に参加しやすくなると同時に、活動の内容が変化しやすくなったこと、③メーリングリストだけによらず、顔をつきあわせて議論することで、メンバーが離散することなく、活動が具体化し、発展したことを確認した。 野火的活動の概念は、市民活動の分析のみならず、未知のものや事象に関わるときの原初的な形態である。集団と社会との関わりを明らかにしていくことは、新たな理論や可能性を導き出す「生成的能力」(Gergen, 1994)を高めると考えられる。