著者
早坂 信哉 尾島 俊之 八木 明男 近藤 克則
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2359, (Released:2023-07-24)
参考文献数
17

【背景・目的】高齢者において抑うつの発症は様々な疾患のリスクとなり,要介護状態に陥るきっかけとなる.一方,日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっているが,この生活習慣としての浴槽入浴と長期的な抑うつ発症との関連は明らかではなかった.本研究は,大規模な6年間にわたる縦断研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的な抑うつ発症との関連を明らかにすることを目的とした.  【方法】Japan Gerontological Evaluation Study(以下,JAGES)の一環として2010年,2016年に調査対象となった11,882人のうち,自立しておりかつGeriatric Depression Scale (以下,GDS)4点以下で抑うつがなく,夏の入浴頻度の情報のある6,452人,および冬の入浴頻度の情報がある6,465人をそれぞれ解析した.コホート研究として週0~6回の浴槽入浴と週7回以上の浴槽入浴の各群の6年後のGDSによる抑うつ発症割合を求め,浴槽入浴との関連をロジスティック回帰分析によって年齢,性別,治療中の病気の有無,飲酒の有無,喫煙の有無,婚姻状況,教育年数,等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比を求めた.  【結果】週0~6回の浴槽入浴に対する週7回以上の浴槽入浴の抑うつ発症の,調整後の多変量解析によるオッズ比は夏の入浴頻度0.84(95%信頼区間:0.64~1.10),冬の入浴頻度0.76(95%信頼区間:0.59~0.98)であり,冬に週7回以上浴槽入浴することは抑うつを発症するリスクが有意に低かった.  【結論】習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり,健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された.
著者
植田 圭吾 八木 明男 王子 剛 韓 哲舜 岡本 英輝 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
15
被引用文献数
1

腸膣瘻は膣からの排ガス,排便,会陰部のびらんや膣炎などをきたす病態である。腸膣瘻に漢方治療が有効であった症例を経験したので報告する。症例は62歳女性。潰瘍性大腸炎(UC)に対して大腸亜全摘術,回腸嚢肛門管吻合術を施行された。その後腸膣瘻によると考えられる膣からのガス・便排出を生じ,残存直腸におけるUC 再燃を考慮した内科的治療で軽快した。この7年後に同様の症状を生じたが,同様の内科的治療は効果なく回腸嚢炎はあるものの瘻孔が同定されないなどの理由のため手術による閉鎖の適応もなかった。内科的治療の継続による症状の軽快はなく漢方治療を行うこととなった。胃風湯加黄耆の投与で若干の改善がみられたが,五苓散料に転方したところ症状の消失を得た。五苓散による腸膣瘻の治験例は近年見られないため貴重な症例と考えた。また,今回のように西洋医学的な治療が難しい腸膣瘻に対し,漢方治療は試みる価値があると考えた。
著者
八木 明男 近藤 克則 早坂 信哉 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.67-73, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
13

背景・目的 抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。本研究では縦断デザインにより高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症 ( 以下、うつ発症) との関連を評価することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale (GDS) 4点以下であった4,466人 ( 男性2,159人、女性2,307人) を対象とした。2013年度調査でのうつ発症 (GDS 5点以上) を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度 ( 夏と冬それぞれ) を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。結果 新規うつ発症は、夏の週0-6回で14.1% 、週7回以上で11.5% 、冬の週0-6回で15.1% 、週7回以上で10.8% に生じた。多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比 (95% 信頼区間) は夏で0.84 (0.71-1.00) 、冬で0.77 (0.65-0.91) であった。考察 浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
著者
韓 哲舜 平崎 能郎 岡本 英輝 植田 圭吾 八木 明男 島田 博文 王子 剛 永嶺 宏一 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.112-118, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
17
被引用文献数
2 7

71歳女性。腰部脊柱管狭窄症の診断の下,長引く腰痛に対して神経・椎間板ブロックや投薬治療が行われていたが改善しないため,漢方治療目的に当科を受診した。身体所見では腰痛の他に頑固な便秘とこむら返り,間欠的な胸痛ならびに全身の強い冷えを認めた。また漢方的所見として強い瘀血と血虚を認めた。当帰四逆加呉茱萸生美湯エキスや通導散エキスにて加療するも改善が得られず入院加療となった。慢性的な瘀血と血虚に対して血府逐瘀湯加減,また間欠的な胸痛に対して烏頭赤石脂丸料をほぼ同時期に開始した所,冷えと腰痛の改善が得られた。本症例は慢性的な冷えと瘀血,血虚を改善する事で血行が促進されたため,冷えと腰痛の改善が得られた可能性が示唆された。
著者
寺澤 捷年 竹田 眞 八木 明男 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.165-167, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
2

漢方医学においては腹部の診察は証の決定に必須である。筆者らは腹診によって診断した腹部大動脈瘤の二症例を経験した。腹部動悸という症候に動脈瘤を伴うことは非常に稀なことではあるが,全ての臨床家はこのことに注意を払う必要がある。