著者
寺澤 捷年 土佐 寛順 平崎 能郎 小林 亨 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.309-312, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
27

宿便という用語は単に便秘によって消化管内に内容物が停留していることを意味するのではなく,通常の排便では排泄できない消化管内の貯留物を想定したものである。しかし,その実態は不明であった。筆者らは硫酸バリウムによる上部消化管検査を受けた過敏性腸症候群の一患者において,検査後に下痢がみられたにも拘わらず3日後の腹部単純X 線撮影よって,下部消化管壁に附着した硫酸バリウムを確認し,これが宿便の一つの形態であることを示唆するものと考えた。また,宿便という用語が何時から用いられたかについて過去の文献検索を行い,尾台榕堂の方伎雑誌が初出であり,この用語が宿食から派生したものであると考察した。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
植田 圭吾 八木 明男 王子 剛 韓 哲舜 岡本 英輝 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
15
被引用文献数
1

腸膣瘻は膣からの排ガス,排便,会陰部のびらんや膣炎などをきたす病態である。腸膣瘻に漢方治療が有効であった症例を経験したので報告する。症例は62歳女性。潰瘍性大腸炎(UC)に対して大腸亜全摘術,回腸嚢肛門管吻合術を施行された。その後腸膣瘻によると考えられる膣からのガス・便排出を生じ,残存直腸におけるUC 再燃を考慮した内科的治療で軽快した。この7年後に同様の症状を生じたが,同様の内科的治療は効果なく回腸嚢炎はあるものの瘻孔が同定されないなどの理由のため手術による閉鎖の適応もなかった。内科的治療の継続による症状の軽快はなく漢方治療を行うこととなった。胃風湯加黄耆の投与で若干の改善がみられたが,五苓散料に転方したところ症状の消失を得た。五苓散による腸膣瘻の治験例は近年見られないため貴重な症例と考えた。また,今回のように西洋医学的な治療が難しい腸膣瘻に対し,漢方治療は試みる価値があると考えた。
著者
根津 雅彦 鈴木 達彦 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.420-451, 2021 (Released:2023-03-03)
参考文献数
80

スペイン風邪の際に漢方治療が多くの命を救ったことはよく知られる。古来よりインフルエンザを初めとした急性ウイルス性呼吸器感染症は傷寒などと呼ばれてきたが,本邦ではその治療にあたり,『傷寒論』『小品方』『太平恵民和剤局方』『万病回春』などから多くの処方が取り入れられてきた。江戸期には漢方治療は本邦独自の発展を遂げるものの,医療及び経済的な格差のため,その恩恵を受けた庶民は少数派であった。さらに傷寒治療のキードラッグである麻黄には,古来よりトクサ属植物と混同されるなど品質面に大きな問題を抱え,その薬効が過小評価されてきた可能性があることは,今後も留意すべきものと思われる。新型インフルエンザ・コロナウイルスパンデミックにも,漢方の有効性が期待されている。しかしその力を十分に引き出すには,十分なレベルの知識のもと方剤を適正に使用することの重要性が,今回歴史を振り返ったことにより再認識させられた。
著者
森田 智 村上 綾 平地 治美 渡邊 悠紀 中口 俊哉 越智 定幸 奥平 和穂 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.175-179, 2023 (Released:2023-11-23)
参考文献数
12

短時間の鍼灸実習が与える教育効果を明らかにするため,病院実習中の医学部5年生112名を対象に,体験を含む1時間の鍼灸実習および実習前後でのアンケート調査を実施した。全10項目のうち8項目において,実習後に「はい(思う)」の割合は有意に大きく,ポジティブな変化が得られた。実習前と後の変化幅が大きく現れた項目は,「科学的だと思いますか?(実習後に+47.4%)」,「全般的に,どのようなイメージをもっていますか?(+39.3%)」,「将来,鍼灸を取り入れたいと思いますか?(+39.3%)」であった。伝統医学を学ぶ機会はさらに確保されることが望ましいが,時間や人員が有限であるという問題点も改善策が必要となる。本調査により,短時間の実習で有益な教育効果が示されたことは,鍼灸実習実施の重要性を示しており,他の医学部学生や医療系学部の学生に対しても同様に期待できる可能性を示している。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009-03-20
参考文献数
13
被引用文献数
2

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
地野 充時 関矢 信康 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 喜多 敏明 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.727-731, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
10

慢性骨髄性白血病の治療においては,BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブが第一選択薬として用いられている。同剤の副作用として,血液毒性,肝障害,浮腫・体液貯留,消化器症状,皮膚症状などが知られている。今回,副作用の一つである下痢に対し,半夏瀉心湯が有効であった症例を経験した。症例は61歳女性。2004年4月,慢性骨髄性白血病と診断。メシル酸イマチニブによる治療により同年10月には寛解し,その後,メシル酸イマチニブ400mgを服用していた。治療開始後,1日4-5回の下痢が続いているため,2005年6月当科初診。半夏瀉心湯服用により4週間後には,1日2回の軟便となり,8週間後には普通便となった。メシル酸イマチニブは,慢性骨髄性白血病寛解維持のために継続的に服用することが望ましいとされている薬剤である。漢方薬を併用することで治療が継続可能となったことは,東西医学の融合という観点からも意義深いと考えられる。
著者
大野 賢二 関矢 信康 長谷川 敦 角野 めぐみ 平崎 能郎 久永 明人 地野 充時 笠原 裕司 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.595-605, 2009 (Released:2010-03-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

【目的】漢方薬,特に煎じ薬の調剤や服薬指導の現状および問題点を明らかにするためにアンケート調査を実施した。【対象】千葉大学医学部附属病院・和漢診療科の院外処方箋を応需している保険調剤薬局全15店舗を対象とした。【結果】12店舗の薬局が現行(一律190点)の煎じ薬の調剤料が低いと回答した。生薬専用の分包機を導入していない薬局の調剤時間は,導入している薬局と比較して2倍であった。薬局からの要望では,処方日数や生薬薬味数に準じた調剤料および生薬薬価の見直しが多く挙げられた。また,調剤や服薬指導に従事する薬剤師の約半数が漢方薬に関する知識不足を認識していた。【総括】今後,煎じ薬を調剤できる薬局を確保するためには,煎じ薬の調剤を取り巻く経済的な問題の改善が必要と考えられた。また,漢方薬に精通した薬剤師の育成のため,大学における卒前・卒後教育体制の整備も併せて必要と考えられた。
著者
木村 豪雄 岡 洋志 平崎 能郎 鉄村 進 古田 一史 三潴 忠道
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.951-956, 2003-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

肝癌に伴う腹水と浮腫に対して防已椒目〓〓大黄丸料を使用し, 興味ある効果を経験した。症例は80歳女性。2002年4月, 急速に進行する対麻痺, 膀胱直腸障害を呈した。転移性胸椎腫瘍の診断で手術されたが, 術後より下肢浮腫と腹水を生じた。腹部CTにて肝硬変および肝癌が指摘された。腹満, 口腔内の乾燥, 便秘を目標として防已椒目〓〓大黄丸料を投与した。下肢の浮腫は速やかに軽減し, CTで腹水の減少が確認できた。しかし原疾患の進行に伴い, 1ヵ月余りで効果は徐々に減弱した。悪性腫瘍に伴う腹水の治療は困難であるが, 本方は腹水に対する有効な方剤として再注目すべきである。
著者
韓 哲舜 平崎 能郎 岡本 英輝 植田 圭吾 八木 明男 島田 博文 王子 剛 永嶺 宏一 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.112-118, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
17
被引用文献数
2 7

71歳女性。腰部脊柱管狭窄症の診断の下,長引く腰痛に対して神経・椎間板ブロックや投薬治療が行われていたが改善しないため,漢方治療目的に当科を受診した。身体所見では腰痛の他に頑固な便秘とこむら返り,間欠的な胸痛ならびに全身の強い冷えを認めた。また漢方的所見として強い瘀血と血虚を認めた。当帰四逆加呉茱萸生美湯エキスや通導散エキスにて加療するも改善が得られず入院加療となった。慢性的な瘀血と血虚に対して血府逐瘀湯加減,また間欠的な胸痛に対して烏頭赤石脂丸料をほぼ同時期に開始した所,冷えと腰痛の改善が得られた。本症例は慢性的な冷えと瘀血,血虚を改善する事で血行が促進されたため,冷えと腰痛の改善が得られた可能性が示唆された。
著者
関矢 信康 林 克美 檜山 幸孝 並木 隆雄 笠原 裕司 地野 充時 大野 賢二 喜多 敏明 平崎 能郎 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.723-728, 2007-07-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
11
被引用文献数
1

漢方治療が奏効した蕁麻疹の4症例を経験した。内容はコリン性蕁麻疹2例, 慢性特発性蕁麻疹1例, 寒冷蕁麻疹1例であった。悪化要因として, 第1例は義父の介護と子宮摘出術のストレス, 第2例は家庭内の問題での精神的ストレス, 第3例はパニック障害樣のエピソード, 第4例は家族に対する心配・不安を指摘できた。皮膚症状を改善する上での有効方剤は, それぞれ桂枝茯苓丸, 半夏厚朴湯, 抑肝散加陳皮半夏, 加味逍遙散であった。これらの処方の選択を行う際に, 皮膚症状に関与する心理的背景を聞きだし得たことが大いに役立った。心理的背景について繰り返し丁寧に問診を行うことは, 蕁麻疹難治例の治療において有用であると考えられた。
著者
関矢 信康 笠原 裕司 地野 充時 並木 隆雄 平崎 能郎 来村 昌紀 小川 恵子 橋本 すみれ 奥見 裕邦 木俣 有美子 島田 博文 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.465-469, 2009 (Released:2010-01-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

桂枝加苓朮附湯は『方機』を出典とし,神経痛や関節痛を目標に使用されてきた。今回,我々はクローン病,子宮内膜症,直腸癌術後,急性胃腸炎,メニエル病に対して本方を投与し,奏効した諸例を経験した。本方を処方する際には『皇漢医学』に記載されているように桂枝加芍薬湯と真武湯あるいは苓桂朮甘湯の方意を持つことを念頭に置くことが重要であり,様々な疾患に対して応用が可能であると考えられた。
著者
大野 賢二 関矢 信康 並木 隆雄 笠原 裕司 地野 充時 平崎 能郎 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-33, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

千葉大学医学部附属病院和漢診療科の入院患者が入退院時に内服していた薬剤およびその薬剤費を調査した。対象は2006年9月から2008年10月の間に入院した患者のうち,治療目的以外の入院や急性疾患を除外した35名とした。疾患内訳は多岐に渡っていたが,転帰が死亡,悪化した症例は認められなかった。西洋薬の薬剤数は入院前後で平均3.7剤から2.7剤へと減少し,その薬剤費は1日当たり302.1円より227.6円へ平均74.5円推計学的に有意に減少した。一方,漢方薬の薬剤費も入院前後で減少した。また,総薬剤費は入院前後で1日当たり平均437.8円から348.0円へと有意に減少し,約20%節減できた。以上の結果より,種々の疾患に漢方薬を適正使用することで,患者の病状が改善すると同時に薬剤費および医療費節減という医療経済的有用性がもたらされる可能性が示された。
著者
笠原 裕司 小林 豊 地野 充時 関矢 信康 並木 隆雄 大野 賢二 来村 昌紀 橋本 すみれ 小川 恵子 奥見 裕邦 木俣 有美子 平崎 能郎 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.519-525, 2009 (Released:2010-02-23)
参考文献数
16
被引用文献数
4

奔豚と思われた諸症状に呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用が奏効した症例を6例経験した。5例はパニック障害,1例は全般性不安障害と推定され,6例いずれも,動悸,吐き気,めまい,頭痛やそれらに随伴する不安感などを訴えて,肘後方奔豚湯証と考えられた。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用投与で症状軽快し,あるいは肘後方奔豚湯からの変更で症状は再発しなかった。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキス併用は肘後方奔豚湯の代用処方として奔豚の治療に有効である可能性が示された。