著者
兼村 智也
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.31-43, 2009-09-30
被引用文献数
1

中国における日系乗用車メーカーの生産が拡大するなか、これまで日本からの輸入に依存してきたプレス金型の現地調達が急速に進展している。これまで技術移転しにくいと言われてきた自動車用プレス金型の現地調達がなぜ急速に進展したのか、これは日本製金型と同等の品質水準になったことを意味するのか、それとも別の要因があるのかについて、その主たるユーザーである日系自動車1次部品プレスメーカーからの視点で明らかにすることが本研究の目的である。急速な進展の背景には、従来言われる「日本製との価格差」に加え、近年の日系乗用車メーカーの世界同時生産による影響がある。この「同時」を実現するため、世界生産拠点数の数だけ同一金型が「同時」に必要となるが、供給能力が不足する日本では生産の「同期化」が困難であり、膨大な数のローカル企業が存在する中国で「現地化」を進めざるを得ない。その中国製金型の品質についてだが、これには(1)「要求形状・精度の実現」といった基本的な役割の他にも(2)「加工時の生産性」、(3)「メンテナンス性」、(4)「型寿命」がある。これら品質を決めるのは、A.加工機械の精度、B.材料品質、C.設計力、D.加工データ作成力、E.トライアウト力、F.表面処理技術力となるが、中国ではB、C、Eに問題を抱え、それらと係わりが強い(2)〜(4)ではまだ劣位にある。この品質の問題は従来のユーザーである中国乗用車産業が持つ「1モデルあたりの生産台数の少なさ」という構造的特徴に起因している。つまり耐久性のある材料品質、生産性等が求められる市場環境のなかで中国金型産業が育成されてこなかったのである。それでもローカル調達を可能にするのは、品質劣位でも使いこなさざるを得ない日系自動車1次部品プレスメーカーの取り組みによる。具体的には、部品や生産台数による日本製金型と中国製金型の使い分け、加工材、加工部位、形状による日本製材料と中国製材料の使い分け、メンテナンス体制の強化と表面処理の活用、短寿命の中国製金型での更新などである。またプレス加工時においては、多少の生産性は犠牲にしても単純構造の金型を使ったシンプルなラインを許容、加工後の後処理で対応するなどである。
著者
兼村 智也
出版者
学校法人松商学園松本大学
雑誌
松本大学研究紀要 = The Journal of Matsumoto University (ISSN:13480618)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.9-29, 2015-01-31

長野県は地方圏のなかで海外進出する企業が多い地域である。その大半は中小企業であるが、これら企業の進出の契機となったのは取引先である県内大企業の進出がある。したがって、こうした企業の海外・国内生産の動向を把握することは中小企業の進出を考えるうえで有益である。そこで本稿では海外事業活動にかかるデータ入手が可能な県内上場企業14社を対象に、それら企業の国内外の生産動向とその関連性について検証した。その結果、海外生産を行う一方、国内生産を減少させる大企業が14社中10社確認された。このうち4社はまさに海外生産増加による影響である。ところが残りの6社は海外生産も減少していることから、その影響ではなく、個別企業の経営上の問題であることが明らかになった。一方、海外も国内の生産も増加する企業は4社確認されたが、これらの企業には市場、製品、供給方法、分業などに特性があることが明らかになった。
著者
馬場 敏幸 苑 志佳 相澤 龍彦 河村 哲二 近藤 章夫 兼村 智也 折橋 伸哉 佐藤 隆広 田中 美和
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

今年度はブラジルサンパウロ、ジョインビレ、カシアスドスルを訪問した。ジョインビレとカシアスドスルはこれまでの調査で判明したブラジルの金型クラスターである。ジョインビレはドイツ系移民による工業都市であり、ブラジル第一の金型集積地である。ブラジル金型工業会もジョインビレに位置する。ジョインビレの金型技術は大手配管メーカーと大手家電メーカーの部品成形およびそれらの成形のための金型作成を核として形成されていった。やがて蓄積された技術をもとにして自動車など他産業向けの金型作成も盛んに行われるようになった。ジョインビレでは金型メーカーおよび中核企業である家電メーカーの金型部門を訪問した。金型はドイツ・マイスター風の金型製作手法がとられ、製作される金型品質はグローバルレベルであった。カシアスドスルはプラスチック射出成形が盛んなイタリア系の移民都市である。金型製作はイタリアカロッチェリア風の金型手法がとられ、製作される金型品質は高かった。今年度の訪問により、これまでの企業のグローバル化および企業の成立・調達・技術系製などの経営学的・工学的知見に加え、ブラジル金型産業クラスターの成立という経済地理的観点からも大きな知見が得られた。特に興味深かった点は、金型クラスターごとに異なる形成経緯である。すなわち、コスモポリタン的な形成がなされたサンパウロABC地域は1950年代以降の自動車産業振興に伴って金型クラスターはコスモポリタン的に形成されたが、ジョインビレ地域はドイツ系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成され、カシアスドスル地域はイタリア系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成された。ブラジルの金型産業の形成・発展に「移民」のキーワードが重要であるとの点が明らかになった。これはアジア地域の地場民族による金型産業・クラスター形成とは異なるタイプの金型産業・クラスター形成であり、大きな発見であった。