- 著者
-
内藤 栄一
- 出版者
- バイオメカニズム学会
- 雑誌
- バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.4, pp.178-186, 2007 (Released:2009-03-02)
- 参考文献数
- 34
- 被引用文献数
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ヒトが自己の身体運動を認識できることはその制御において決定的に重要である.自己の四肢運動知覚には筋紡錘からの求心性感覚情報が寄与するが,この処理は主に一次運動野を中心とする運動領野のネットワークで行われる.一次運動野の役割は単なる感覚情報処理にとどまらず,四肢運動知覚機能をも担い,運動野の損傷は運動知覚機能の低下を招く.運動知覚においても階層的構造があり,単純な手の運動知覚には運動領野が,片手―物体運動知覚にはさらに下頭頂葉の活動が,両手―物体運動知覚の場合にはこれらに加えてさらに上頭頂葉の活動が必要になる.これらの領野の活動は,それぞれに対応する運動を実際に制御する場面においても必要であり,運動制御における運動と知覚の一体化の重要性を表す.すなわち,特有の身体運動制御にはそれぞれ特有の脳領域が関与する.この脳領域はその運動の知覚にも関与し,かつその知覚経験には運動制御時に類似した内在的神経プロセスが必須のようだ.ある運動に付随して期待される感覚を前もって予測するフォワードプロセスは,その運動の効率的制御を可能にする.このような合目的脳領域内での内在的神経機序がフォワードプロセスの神経実態なのかもしれない.