著者
荒川 武士 上原 信太郎 山口 智史 伊藤 克浩
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.378-383, 2014-10-20 (Released:2017-06-13)

【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)後の膝関節周囲の皮膚可動性の特徴をあきらかにするとともに,術後に獲得される膝関節屈曲可動域との関係性を検証した。【方法】対象はTKA術後患者20名(平均78.1±7.4歳),健常高齢者10名(平均71.8±8.7歳)とした。皮膚可動性を評価するため,膝関節前面の皮膚上にマークし,膝関節を他動的に60度,90度,最終屈曲位にしたときのマーク間距離(縦方向,横方向)を測定した。膝関節屈曲角度120度を基準にTKA術後患者を2群に分類し,健常高齢者を含めた3群間の皮膚可動性を比較した。【結果】TKA術後患者は,膝蓋骨上部付近の縦方向の皮膚可動性が健常高齢者に比べて有意に低下していた。一方で,屈曲120度未満群と以上群との間に有意差を認めなかった。【結論】TKA術後の術創部周囲の皮膚は,健常高齢者に比べて可動性が顕著に低下していた。しかし,皮膚可動性はTKA術後に獲得できる屈曲可動域に対する強い制限因子ではないことが示唆された。
著者
上原 信太郎 水口 暢章 山本 真史 廣瀬 智士 内藤 栄一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101864-48101864, 2013

【はじめに、目的】2 つの運動をランダムな順序で練習する方法(ランダム練習)は、効率的に2 つの運動記憶を獲得でき、これはそれぞれの運動を決まった順序で練習する方法では難しいことが示されている(Osu et al., 2004)。これは、練習方法によって異なる様式で記憶形成がされているためであると考えられる。本研究では、ランダム練習で二種類の運動記憶を獲得した場合、各運動をまとめて練習する場合(ブロック練習)と異なり、それぞれの運動記憶が独立して蓄えられると考え、その仮説を検証した。2 つの運動記憶に重複がある場合、これらの運動を連続して行うと、前の運動の履歴が後ろの運動を実行する妨げになり、後に行う運動の遂行が阻害されることが知られている(Cothros et al., 2006)。したがって、もし、それぞれの練習方法で獲得される2 つの運動記憶の重なりが異なるならば、その違いは2 つの運動を連続して再現する時の後ろの運動のパフォーマンスに影響することが推測される。【方法】27 名の右利き健常成人が、連続する2 日間の実験に参加した。各参加者は、1 日目に左手を使用した二種類の異なる系列指タッピング運動(環指-示指-小指-中指-環指、及び、示指-環指-中指-小指-示指)を学習し、2 日目には両系列運動を再現した。各運動試行では、参加者は16 秒の間にできるだけ早く、かつ正確に、指示された指系列で連続タッピング(ボタン押し)を行った。連続する5 つの指タッピング(= 系列)を16 秒間で何回正しく繰り返せたか(正答数)を記録し、その試行の運動パフォーマンスの指標とした。参加者をランダム練習群(13 名)とブロック練習群(14 名)の2 群に分け、1 日目の運動学習時、各群にはそれぞれ異なる練習法を適用した。ランダム練習群は、全部で36 試行(6 試行× 6 セット)実施する中で、各セット内で2 つの系列運動をランダムな順序で3 試行ずつ練習した。どちらの運動を行うかは、試行開始直前にモニタ上に呈示される数字で示された。一方のブロック練習群は、前半の18 試行(6 試行× 3 セット)では一方の系列運動を、後半の18 試行(6 試行× 3 セット)ではもう一方の系列運動を練習した。両群共に、1 セット(6 試行)完了ごとに60 秒の小休憩を挟んだ。2 日目には、一方の系列運動を3 試行実施したあと、もう一方の系列運動を3 試行実施してもらった。ブロック練習群における系列運動の練習順序、及び、両群における再現時の系列運動の実施順序については、参加者間でカウンターバランスが取られた。各系列運動を再現した時の後ろの運動のパフォーマンスの様子を調査するため、2 日目の前半3試行で実行した系列を第1系列、後半3試行で実行した系列を第2系列とし、それぞれの系列運動の運動パフォーマンスを比較した。系列ごとの難易度の影響を除外するため、比較には、1 日目の運動パフォーマンス(最後の3 試行の平均)を含めた二元配置分散分析[系列(第1 系列、第2 系列)×日(1 日目、2 日目)]を、各群から得られたデータに対して適用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、情報通信研究機構倫理委員会の承認を受けて実施された。参加者には実験内容を十分に説明し、本人の同意を得た上で実験が行われた。【結果】ランダム練習群では、第1 系列(1 日目:11.4 ± 2.4、2 日目:12.1 ± 2.8)、第2 系列(1 日目:11.4 ± 2.7、2 日目:12.0 ± 3.0)ともに、1 日目の最後の3 試行に比べて、2 日目の3 試行では正答数の増加が見られた。一方のブロック練習群では、第1 系列(1 日目:10.9 ± 2.3、2 日目:12.0 ± 2.7)ではランダム練習群と同様に正答数の増加がみられたが、第2 系列(1 日目:11.2 ± 2.2、2 日目:11.5 ± 2.5)ではわずかな増加しか見られなかった。分散分析の結果、ランダム練習群では日の要因に有意な主効果が見られ(p < 0.05)、有意な交互作用は見られなかったのに対して、ブロック練習群では、日の要因の主効果(p < 0.05)に加え、両要因の交互作用(p < 0.05)が有意であった。【考察】本研究の結果から、ブロック練習により2 つの運動記憶を学習した場合には、運動を連続して再現する時に後に行う運動が阻害されることから、獲得された2 つの運動記憶は重複して形成されていることが示唆された。一方で、ランダム練習で運動を学習した場合には、相互干渉するような類似した運動も、両者の運動記憶の重複を減らし、それぞれを分離した形で獲得されていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、学習時の練習方法に応じて獲得される運動記憶の様式が異なり、ランダム練習で獲得された運動記憶は運動干渉に対する耐性が高いことを示した。この結果は、運動療法を立案する際に、獲得した運動記憶が使用される状況に応じて、練習方法を適切に設定することの重要性を示唆している。
著者
荒川 武士 上原 信太郎 山口 智史 伊藤 克浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0919, 2012

【はじめに、目的】 人工膝関節置換術(以下TKA)後の膝関節屈曲角度を獲得することは、立ち座り動作などの日常生活をスムースに行う上で重要である。機種や手術手技による相違はあるものの、120度の屈曲可動域を得ることは理論上可能と言われている。しかし、手術時の前方侵入による術野展開、更には筋中を深部に向かう術創が、皮膚・皮下組織の癒着・瘢痕などを引き起こし術後の屈曲制限に関係する可能性が十分に推察できる。特に皮膚は、関節軸から最も長いレバーアームをもつため、大きな動きを要求されるという点で癒着・瘢痕の影響を受けやすい組織といえる。そのため、皮膚可動性は屈曲制限に大きく影響すると推察される。そこで本研究は、他動的に膝関節を屈曲させた時の術創部周囲の皮膚可動性に着目し、TKA後の膝屈曲角度に及ぼす影響について検証することを目的とした。【方法】 対象は、TKA 後の入院患者20名(平均年齢76.7±7.7歳)とした。術後平均日数は45.0±17.9日であった。TKA患者は、膝関節屈曲角度120度未満の群(以下120度未満群)と120度以上可能な群(以下120度以上群)とに分類し、健常高齢者10名(平均年齢71.8±8.7歳)から成る対照群を含めた3群間の皮膚可動性の差を検証した。皮膚可動性の測定は浅野(2004)の報告に準じて行った。まず、膝関節伸展位にて脛骨粗面と膝蓋骨下端の距離を基準値とし、同距離を膝蓋骨下端から大腿骨長軸に沿って近位方向に3区間設定し、近位から順にa・b・c・d区とした。さらに各測定点の内外側2.5cmのところに測定点をとって5cmの基準距離とし、近位から(1)・(2)・(3)・(4)・(5)とした。次に膝関節を他動的に90度屈曲させ、その時のa~d(縦方向)、(1)~(5)(横方向)の区間距離を測定した。測定時の膝屈曲角度は、全ての患者が容易に行える角度として90度を選択した。得られた各区間の距離は基準値を100とした変化率に換算し、縦方向、横方向それぞれについて2元配置分散分析(群×測定点)を行った。下位検定にはBonferroni補正法によるt検定を用い、各区間それぞれについての群間差を検証した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、事前に研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】 TKA患者を分類した結果、120度未満群は10名で、平均屈曲角度は101±7.7度であった。120度以上群は10名で、平均屈曲角度は120.5±1.6度であった。縦方向の皮膚可動性は、120度未満群でa区138%、b区126%、c区129%、d区122%であった。120度以上群はそれぞれ140%、129%、124%、118%であった。対照群は151%、163%、137%、130%であった。2元配置分散分析の結果、要因間に有意な交互作用が認められた。更に下位検定を行った結果、b区間においてのみ対照群と120度未満群、対照群と120度以上群との間に有意差を認めた。120度未満群と以上群の間に差は見られなかった。横方向については、120度未満群は(1)102%、(2)102%、(3)103%、(4)101%、(5)98%であった。120度以上群はそれぞれ101%、102%、102%、100%、99%であった。対照群は104%、104%、105%、103%、101%であった。2元配置分散分析に統計学的有意差は認められなかった。【考察】 TKA患者は健常高齢者と比較して、特に縦方向b区の皮膚可動性が顕著に低下していることが判明した。この要因の一つには、術創部の癒着・瘢痕化による皮膚そのものの伸張性低下が関係している可能性が挙げられる。また、本研究で計測したb区はちょうど膝蓋骨上縁付近にあたるため、この部分に内在する皮下組織、すなわち膝蓋上嚢や大腿四頭筋遠位付着部と皮膚との間の滑走の低下も複合的に関係している可能性が考えられる。一方、患者群同士に着目すると、120度未満群と120度以上群の間には縦方向の皮膚可動性に差を認めなかった。これは膝関節屈曲90度における縦方向の皮膚可動性が、TKA後に獲得できる膝屈曲角度に対する強い制限因子ではない可能性を示す結果と言える。しかし、実際の臨床では最終可動域付近において皮膚可動性が低下していることを多く経験し、皮膚へアプローチすることで即時に可動域改善が見られることがある。つまり、皮膚可動性は各個人の膝屈曲最終可動域付近にて強く影響しうるものであり、本研究で検証した90度屈曲時の可動性ではその影響を反映しきれていない可能性が推察された。【理学療法学研究としての意義】 理学療法介入において、関節可動域の制限因子解明は効率的治療の選択に繋がる。膝関節構成要素の一つである皮膚に着目し、TKA後の可動域への影響を見た本研究は、学術的にも臨床的にも有用な情報を寄与するものである。
著者
村部 義哉 木村 大輔 平松 佑一 加藤 丈博 上原 信太郎 松木 明好 陣内 裕成
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.651-657, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
16

〔目的〕内的リズム形成を目的とした運動療法による,パーキンソン病患者のすくみ足とタッピング能力への改善効果を検討する事とした.〔対象〕一定頻度でのタッピングの持続が困難で,視覚・聴覚刺激を用いた外的手がかりによるすくみ足の制御が困難であった進行期パーキンソン病患者1名とした.〔方法〕内的リズム形成能力の向上を目的とした1回20分の運動療法を2回/週の頻度で8週間実施し,タッピング課題による内的リズム形成能力の評価,および歩行評価から,その治療効果を検証した.〔結果〕介入によって一定頻度でのタッピング持続回数の増加,すくみ足歩行の軽減が認められた.〔結語〕外的手がかりに代り,内的リズム形成を促す運動療法による治療介入は,すくみ足症状を軽減できる可能性がある.