- 著者
-
加納 誠二
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究では尾根部の地震時応答を明らかにするため,模型を用いた振動台実験と被害のあった尾根部での常時微動測定を行った.振動台実験の結果,最も揺れが大きくなる周波数(1次ピーク)では稜線にほぼ平行な応答となっていた.また揺れの大きい範囲は尾根稜線の変曲点付近から尾根付け根までの長さの約2/3程度まで,高さ方向には尾根稜線から尾根高さの3〜4割程度であることがわかった.しかし高周波領域では,尾根の応答は稜線に直交するように加振しているにもかかわらず,稜線上にもほとんど揺れない点が現れるなど複雑な応答となることがわかった.常時微動測定の結果,健全な地点の卓越周期は宅地の標高や石積み擁壁の高さによる違いがみられず,ほぼ一定の値となった.地震による被害が見られた宅地では,卓越周期が長周期側の値となっており,宅地が緩んだために長周期側の値となった可能性が示されたが,一部では被害の見られない宅地でも卓越周期が長周期側の値となり,宅地内部が緩んでいる可能性があることが分かった.また長周期側の値となった地点の分布は,振動台実験で1次ピークとなった時の揺れの大きい範囲とほぼ一致し,実験に用いた物性値や相似則などから推定される尾根の卓越周期は,常時微動測定により求まった卓越周期と一致した.現場付近の花崗岩のせん断波速度などを用いた4質点系解析の結果,尾根上部では加速度が約1.8〜2.0倍に増幅されていた可能性があることが分かった.常時微動計を用いたアレー観測の結果,卓越周期時には尾根下部の振幅に比べ,上部では5倍程度の振幅となっていたことがわかった.以上から,地震時に尾根が共振したために尾根上部の揺れが大きくなり,尾根上部に被害が集中した可能性があることが分かった.また本研究から常時微動測定により宅地の緩みを評価できる可能性があることがわかった.