著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.19-38, 2017-03

本稿では1990年代後半から2000年代の京都市におけるホームレス対策の展開過程を考察する。1990年代までの京都市は主に応急的・臨時的な法外援護事業による「住所不定者」対策を行っていたが,ホームレス自立支援法制定以降,国の財政的補助を背景に施策拡充を進めた。2000年代以降の市のホームレス対策は「就労自立」を柱に位置づけ,自立支援センターを軸に対策を推進された。しかし,就労の可能性を基準に対象者が選別されることで,支援からはじき出される層を生み出す一方,「就労自立」退所者の多くもワーキングプア状態での「自立」であった。他方,野宿生活者への生活保護適用は原則として施設入所・入院時に限定した運用を行ってきたが,2000年代以降,生活保護施設やシェルター等を経由する形で居宅保護が広げられた。居宅保護の適用拡大はホームレス者数の減少に寄与したと考えられる。今後の課題としてはワークファースト型支援から,ディーセントワークの実現など労働保障と地域生活定着のための居住保障を柱とするハウジングファースト型支援への転換が必要と考える。ホームレス対策ホームレス自立支援法生活保護就労自立人間発達
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.19-38, 2017-03-25

本稿では1990年代後半から2000年代の京都市におけるホームレス対策の展開過程を考察する。1990年代までの京都市は主に応急的・臨時的な法外援護事業による「住所不定者」対策を行っていたが,ホームレス自立支援法制定以降,国の財政的補助を背景に施策拡充を進めた。2000年代以降の市のホームレス対策は「就労自立」を柱に位置づけ,自立支援センターを軸に対策を推進された。しかし,就労の可能性を基準に対象者が選別されることで,支援からはじき出される層を生み出す一方,「就労自立」退所者の多くもワーキングプア状態での「自立」であった。他方,野宿生活者への生活保護適用は原則として施設入所・入院時に限定した運用を行ってきたが,2000年代以降,生活保護施設やシェルター等を経由する形で居宅保護が広げられた。居宅保護の適用拡大はホームレス者数の減少に寄与したと考えられる。今後の課題としてはワークファースト型支援から,ディーセントワークの実現など労働保障と地域生活定着のための居住保障を柱とするハウジングファースト型支援への転換が必要と考える。ホームレス対策ホームレス自立支援法生活保護就労自立人間発達
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学福祉教育開発センター
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
no.13, pp.117-132, 2016-03-31

本研究は戦後京都市の住所不定者対策を考察するものである。本稿では特に「浮浪者」の収容保護を行う更生施設「京都市中央保護所」の再編整備が行われた昭和30年代に焦点をあて、京都市の住所不定者対策がどのように展開されたのか考察した。当時、浮浪者は国際観光都市・京都の美観を損なう存在と見なされ、度重なる「狩り込み」による取り締まりを受けていた。特に稼働能力のある浮浪者に対しては狩り込みによる検挙、中央保護所における一時収容と他地域への移送がセットで行われた。浮浪者に対しては中央保護所への収容保護を前提とし、一時収容に制限・限定する市の住所不定者に対する保護行政の特殊な枠組みはこの時期に形成された。このような更生施設における短期保護を原則とした戦後京都市の住所不定者対策の基本的フレームワークは1990年代まで維持・継続された。住所不定者浮浪者更生施設京都市中央保護所生活保護
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 = Journal of the Faculty of Social Welfare (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.12, pp.27-50, 2016-03

本稿は戦前期の京都市に焦点をあて,「浮浪者」(ルンペン)対策の歴史的展開から戦前期日本の貧困の一側面を明らかにすることを目的としている。本稿では特に失業者の激増に伴って浮浪者問題が社会問題となった昭和初頭から日中戦争開戦前後を中心に京都市における浮浪者の実態とその対策について検討した。昭和恐慌期,失業問題が深刻化するなかで京都市では日雇労働者や浮浪者が増大した。市の浮浪者概況調査によると市内出身地はわずかで,その多くは若年失業者であった。失業問題の激化は日雇労働者などを浮浪化させ,市内流入を促進させていた。浮浪者の増加はその類型化に基づく対策の必要性を提起された。京都市では「準浮浪者」層に対する無料宿泊所が設置され,さらに「労働者更生訓練道場」での,精神的な訓練教化によって戦時体制へと移行する国家の人的資源提供の一端を担った。ルンペン救護法失業者準浮浪者惰民養成
著者
藤田 博仁 橋本 明 加美 嘉史 山田 壮史郎
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究はホームレスの自立支援を目的とする、ホームレス自立支援センターの業務統計を定量分析し、自立の効果測定と就労自立の実態を明らかにすることを試みた。ホームレス自立支援事業は、2000年以降国がホームレスの自立についての支援モデルを提示し、自立支援センターを拠点に実施している。調査研究の対象となった名古屋市は事業開始後3年が経過しており、就労による退所者は221人であったが、そのうち171人を分析の対象とした。その結果、以下のことが明らかになった。(1)3年間に国が効果的と主張する就労による自立は、自立支援センター退所者全体の34%に過ぎなかった(この割合は東京・大阪でもほぼ同様であった)。(2)退所後の追跡調査では時間の経過と伴に自立生活継続者の割合が低下し、「失踪」者の割合が増加し、経済的自立が「就労」から「生活保護」に移行する割合も増加していることが明らかになった。(3)ホームレスの自立を就労に求め、就労先を雇用市場に求めるだけでは、経済的自立に結びつかないことが明らかになり、自立支援モデルの再考が必要になった。(4)就労、住宅確保による自立支援センター退所は、自立のきっかけを掴んだに過ぎず、真の自立支援は退所後の地域生活を持続可能な状態にすることである。生活保護制度下では自立助長に関するケースワークは法外の事実行為とされ、生活保護による効果より最低生活の保障により重点が置かれていた。しかし、自立支援事業は自立支援を目的にしているため、効果はデーターで明確に示されるようになった。このことによって、事業効果の低さに関心が向くことは当然であるが、併せて自立の理念や内容について問われることになる。本研究によってもたらされた成果の範囲は事業効果の測定までで、持続可能な地域生活のあり方についての実証的研究にまでは至らなかった。この点については次回の機会に委ねたい。