著者
村田 典生
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.6, pp.95-110, 2018-03

奈良・斑鳩の吉田寺はぽっくり寺として知られている。特に1970年代に全国的なブームで一躍「流行神」になった寺院である。当時は老人たちが群参したのだが,文献や石標からみるとぽっくり寺としては少なくとも近世や明治から昭和前期にかけては確認ができないのである。しかし,戦後女性たちが「顔を隠すように」訪れ今でいう介護の相談などをするうちにブームがやってきたのである。ぽっくり往生のための祈祷は恵心僧都源信の生母が浄衣を着て安楽往生という伝承から,源信の二十五三昧会や『往生要集』に影響により,下着を死に臨む人に見立てた臨終行儀を特化させた様式で,本尊阿弥陀如来坐像に安楽往生を願う祈祷なのである。吉田寺が群参を呼んだ頃は,日本が高齢化社会や低成長時代に突入する直前であり,女性が舅・姑の介護をすることが当然とされた時代だった。そんな中で吉田寺は老人や病者が自身のぽっくり往生を願うだけでなく,そうした女性達が介護からの解放を願うために参詣した寺院でもあったのである。ぽっくり寺流行神恵心僧都源信『恍惚の人』介護
著者
中嶋 奈津子
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.35-46, 2018-03-25

本稿は南部藩領内に特有の権現信仰に基づいて行われる神楽「墓獅子」の実態と現状を明らかにするものである。そのため,「墓獅子」を現行している(或いは,以前行っていた)地域10か所の神楽の調査を実施した。南部藩領内では,獅子頭を神仏の化身として「権現様」と呼び,地域の守り神として信仰している。神社例大祭ではこの「権現様」を奉じて舞わせる。この祈祷の「権現舞」が一部の地域では死者の供養にかわる「墓獅子」として機能していたことがわかった。また,「墓獅子」は一定の形式があって,般若心経を唱え,加えて魔を払い清める「七つ踊り」を行うなどの特徴を確認した。1950年代まで盛んに行われていた「墓獅子」は時代の流れとともに,墓と供養の形態の変化や信仰心の薄れに伴って依頼も減り,わずかな依頼や沿岸地域での廻村巡業で維持できている状況であることが今回の調査で明らかになった。墓獅子権現信仰獅子頭の権現様死者供養墓獅子の唄
著者
宮澤 早紀
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.6, pp.87-94, 2018-03

本稿では,伊豆諸島にある八丈島と青ヶ島の巫者が行う死者の口寄せの事例を報告している。八丈島と青ヶ島ではミコと呼ばれる女性の巫者が,死者の口寄せを行う。これが「ナカヒト」や「ナカシト」と呼ばれた。当該地域には,ミコ以外に男性の巫者が存在する。男性の巫者と女性の巫者が共に巫業を行っていた点が,八丈島と青ヶ島の巫俗の特徴である。巫者は住民の依頼に応じて,病気治しや生業や航海安全などの祈祷,ナカヒトを行った。こうした巫業を通して,近年まで巫者が住民の生活にかかわってきた。八丈島と青ヶ島では近年まで巫者以外の宗教者が日常生活に関与することが少なく,巫者が宗教行為にたいして総合的な役割を果たしたと考えられる。こうした巫者の役割の 1 つとして,ナカヒトがあったと考えられる。巫俗巫女口寄せナカヒト
著者
山本 耕平
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.157-168, 2017-03-25

ひきこもりからの「脱却」と社会「適応」は,ひきこもりが長期になればなるほど,切実な要求になる。ひきこもる若者たちに再適応を強いる「力」は,彼らを統制・管理する。彼らと深くかかわってきた精神科医療は,彼/彼女らが,自身に向けられた差別と生きづらさから自己を解き放つ力となりえてきただろうか。ひきこもり支援は,ひきこもる若者を解き放ってきただろうか。 ひきこもり支援の現場は,ひきこもる若者が,支援者や家族,地域住民とともに,実践のあり方を共に考える主体として参加し,その参加のなかで,自身の尊厳を見出し,人や社会との関係を見出す支援や生活を相互行為として確認する場である。その場は,「今,なにをのぞみ,なにをすべきか」を発言し創りあげる場であり,淘汰された専門家により結成される揺るぎない場ではない。脱貧困の主体は,いまある矛盾する社会に再適応させるなかでは育たない。それは,課題「解決」を目指すものではない。
著者
八木 透
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.71-85, 2018-03-25

人間にとって死は何にもまして最大の恐怖であり,また残された者にとって,身内の死ほどやりきれない苦悩はない。さらに死後がまったく未知の世界であるがゆえに,人はさまざまな想像を働かせ,死に至る過程での恐怖を少しでも和らげるための手立てを講じてきた。本稿では死者はいかにして祀られてきたのか,また生者が死者をいかに扱い,生者と死者はどのように交渉したと信じられてきたのか,すなわち死者祭祀の実態と死者を祀る装置としての墓をめぐる伝承について。さらに死者の名を生者が継承する命名法について,具体的な事例に基づきながら考察する。葬送儀礼死者祭祀改葬墓制祖名継承
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.19-38, 2017-03

本稿では1990年代後半から2000年代の京都市におけるホームレス対策の展開過程を考察する。1990年代までの京都市は主に応急的・臨時的な法外援護事業による「住所不定者」対策を行っていたが,ホームレス自立支援法制定以降,国の財政的補助を背景に施策拡充を進めた。2000年代以降の市のホームレス対策は「就労自立」を柱に位置づけ,自立支援センターを軸に対策を推進された。しかし,就労の可能性を基準に対象者が選別されることで,支援からはじき出される層を生み出す一方,「就労自立」退所者の多くもワーキングプア状態での「自立」であった。他方,野宿生活者への生活保護適用は原則として施設入所・入院時に限定した運用を行ってきたが,2000年代以降,生活保護施設やシェルター等を経由する形で居宅保護が広げられた。居宅保護の適用拡大はホームレス者数の減少に寄与したと考えられる。今後の課題としてはワークファースト型支援から,ディーセントワークの実現など労働保障と地域生活定着のための居住保障を柱とするハウジングファースト型支援への転換が必要と考える。ホームレス対策ホームレス自立支援法生活保護就労自立人間発達
著者
加美 嘉史
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.19-38, 2017-03-25

本稿では1990年代後半から2000年代の京都市におけるホームレス対策の展開過程を考察する。1990年代までの京都市は主に応急的・臨時的な法外援護事業による「住所不定者」対策を行っていたが,ホームレス自立支援法制定以降,国の財政的補助を背景に施策拡充を進めた。2000年代以降の市のホームレス対策は「就労自立」を柱に位置づけ,自立支援センターを軸に対策を推進された。しかし,就労の可能性を基準に対象者が選別されることで,支援からはじき出される層を生み出す一方,「就労自立」退所者の多くもワーキングプア状態での「自立」であった。他方,野宿生活者への生活保護適用は原則として施設入所・入院時に限定した運用を行ってきたが,2000年代以降,生活保護施設やシェルター等を経由する形で居宅保護が広げられた。居宅保護の適用拡大はホームレス者数の減少に寄与したと考えられる。今後の課題としてはワークファースト型支援から,ディーセントワークの実現など労働保障と地域生活定着のための居住保障を柱とするハウジングファースト型支援への転換が必要と考える。ホームレス対策ホームレス自立支援法生活保護就労自立人間発達
著者
大貫 挙学
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.8, pp.119-123, 2021-03

本稿では,大学への「アクティブ・ラーニング」の導入が推し進められる社会状況を,新自由主義における主体化という観点から考察する。文部科学省や中教審の言説において,アクティブ・ラーニングは「社会」に役立つ「能動的」な「主体」の育成を志向している。これに対し,次の 2 点を指摘できる。第 1 に,「主体」であるとは権力に服従することである。第 2 に,ここでの「社会」は新自由主義という時代状況を前提としたものにほかならない。だとすれば,アクティブ・ラーニングは新自由主義体制に適合的な主体を形成するものといえる。そのうえで本稿が強調したいのは,第 1 と第 2 の論点が不可分であるということだ。学問の価値を守るためには,かかる社会状況への批判的視座が不可欠である。主体化新自由主義アクティブ・ラーニング
著者
井上 隆弘
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-34, 2018-03-25

山口県山代地方で執行される神楽は,分布する地域から山代神楽とも,祭儀形態から山鎮神楽ともいわれるが,「天大将軍」の神がかりおよび「山鎮」という特異な祭儀によって特徴づけられる。この神楽は中国地方に分布する荒神神楽の系譜を引くものであるが,ミサキと呼ばれる祟る死霊が強く結びついている。こうした死霊祭祀は「山鎮」などと呼ばれ,藁蛇と鎮め物を入れた俵を神木に巻き付けて鎮める祭儀として古くから行われてきた。それが天大将軍の舞と結びついたのが今日の山鎮神楽である。先行研究によれば,この地方の神楽は幕末以降に安芸十二神祇の舞がもたらされ天大将軍の舞が大きな変化をとげたとされるが,本稿では,この天大将軍の性格の変化の諸相について明らかにした。こうした死霊祭祀としての性格は,この地方の過酷な歴史を反映したものであった。天大将軍山鎮年祭ミサキ荒神神楽
著者
斎藤 英喜
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-15, 2018-03-25

岩田勝によって切り開かれた「浄土神楽」の研究は,従来の現世利益,神事芸能としての神楽認識を大きく塗り替える意義をもった。そこに現出したのは「浄土神楽」の世界である。しかし奥三河の「浄土入り」,物部いざなぎ流の「ミコ神」の神楽の現場からは,死者霊の鎮魂,浄化という認識とは異なる,神霊,死霊の成長,進化という「行」としての神楽の様相が見えてくる。その問題は「鎮魂」をめぐる折口信夫の解釈の再検証を迫るものとして,古代から中世,近世にいたる「鎮魂」の解釈史を読み直した。浄土神楽鎮魂浄土入りミコ神神楽折口信夫
著者
白石 克己
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-12, 2016-03-25

書簡の交流を基礎とする鈴屋の遠隔教育では文字コミュニケーションが重要な意味をもっていた。もちろん宣長の遊学時代も鈴屋での門人指導も,対面教育での口頭コミュニケーションが欠かせなかった。しかし,宣長はおびただしい書写や熱心な公刊活動などによって文字コミュニケーション主体の遠隔教育や対面教育を実施していた。言語は経験から遊離した抽象との批判から会読のような対面教育が推奨されるけれども,言語と経験との往復運動を図る指導であれば,文字コミュニケーションは遠隔教育にも対面教育にも欠かせない。宣長は書簡の交流によって門人一人ひとりへの添削指導を実施したが,これは相手の「情報構造」に従った指導といえる。会読講釈問答体遠隔座文字コミュニケーション
著者
金澤 誠一
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-17, 2017-03

本論は,現代の貧困の特徴を雇用の不安定化と国民生活の崩壊への進行にあることを,主に家計調査の分析に基づいて究明している。その現代の貧困を克服するために必要なナショナルミニマム=最低生活とは何かをめぐる最低生活費について探求している。「構造改革」「雇用の不安定化」「生活崩壊」「家計の硬直化」「最低生活費」
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 = Supplement to the bulletin of the Research Institute of Bukkyo University (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
no.5, pp.75-84, 2017-03

本稿は,貧困と疾病に関して,医療社会学・医療人類学的な観点から論ずる試みである。I)では,貧困の諸概念を紹介し,医療サービスの欠如と平均寿命の低さや,貧困の文化という視点が貧困と疾病の関連を示唆と述べた。II)では,疾病と貧困のインターフェイス(両者を繋ぐ要素)として生活の状況という文化的因子に言及した。この疾病と貧困の改善の因子としては,生活の近代化(西欧化)であり衛生思想(まなざし)の変化であることや,外国人の仕事は人生の一部であり手段とみなす傾向があるのに対して,日本では,その手段が目的となっているという文化的慣習自体に貧困や過労死につながる要因があることを示した。III)では,病気にまつわる脱貧困についての課題を簡単に列挙した。公衆衛生学的なインフラ整備に加え,生活の現代化(再構築)を推進し,生命や衛生状態や食品と食品添加物に対するまなざしの変化が,貧困対策,ひいては健康対策を牽引し,それが脱貧困の第一歩となるものと結論した。貧困疾病貧困の文化カローシスローライフ
著者
武内 一 佐藤 洋一 山口 英里 和田 浩
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.173-207, 2017-03-25

われわれは,2014年度に 3 つの多施設共同研究をおこなった。1つは新生児をもつ家族の生活実態調査である。貧困層群の特徴として,(1)妊娠中では,貧血・糖尿傾向・性感染症・喫煙が有意に目立っていた。(2) 1か月健診時には,育児不慣れ・精神疾患の合併・パートナーからの DV の比率などによる問題が際立っていた。(3)妊婦の背景には,10代での妊娠・人工妊娠中絶・一部屋での生活など狭い住居環境・非正規就労・高校中退などの低学歴・妊娠判明後の喫煙といった特徴が明らかとなった。 さらに,11医療機関における入院児を対象とした調査と,54医療機関に外来受診した小・中学生を対象とした調査を実施した。これら 3 つの調査を併せてみると,(1)世帯収入の中央値でみた場合,両親がいる世帯の所得が400-500万円台であるのに対して,母子世帯では200-250万円台とその半分に過ぎない。(2)年間所得が200万円未満世帯の子どもの数は一人が過半数で,生活が苦しいと 2人目以降は安心して育てられない現実がある。(3)年間所得150万円未満世帯はすべて生活保護基準未満での生活だと推測され,この収入以下から一部屋での生活の比率が急上昇する。しかし,(4)実際生活保護受給の割合は 2 割にも満たない,こうした事実が明らかとなった。また,(5)年間所得200万円未満の貧困世帯の3分の1は,自分たちの生活は「ふつう(あるいはそれ以上)」だと感じている事実も明らかとなった。