著者
加藤 佑一
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-30, 2019-03-25

久慈川流域と阿武隈川流域はお互いの上流部である福島県の棚倉付近において接しており,この地域において,久慈川水系による阿武隈川水系の争奪を示唆する地形が存在している.このような指摘はこれまでも行われてきたが,争奪の年代について詳しく明らかにされてはいなかった.この河川争奪部およびその周辺には河成段丘が広がっており,段丘編年の確立により,争奪の年代を知ることができると考えらえる.そこで,本研究では棚倉付近の河成段丘を編年し,河川争奪の年代を求めることを目的とする.まず段丘区分図および縦断面図を作成し,その上で野外調査を行った.現地では,露頭探査を行い,露頭が不十分な場合には打ち込み式オーガーによる簡易的なボーリング調査も行った.野外調査の結果を基に各々の段丘面毎に被覆テフラや構成層を検討し,各段丘面を編年した.本研究で取り上げる久慈川水系による阿武隈川水系の河川争奪は主に3つある.これらは,2つの期間に分けて争奪されたとされており,本研究では,先の期間に争奪されたものについて古上台川,後の期間に争奪されたものについて古向原川,古下羽原川と名付けた.対象地域の河成段丘は,阿武隈川水系に形成時の侵食基準面を持つ,社川高位面(YH),社川中位1面(YM1),社川中位2面(YM2)と,久慈川水系側に形成時の侵食基準面を持つと考えられる,久慈川高位0面(KH0),久慈川高位1面(KH1),久慈川高位2面(KH2),久慈川中位0面(KM0),久慈川中位1面(KM1),久慈川中位2面(KM2),久慈川低位0面(KM0),久慈川低位1面(KM1),久慈川低位2面(KM2)に区分した.KM1面は構成層層厚2m,被覆層層厚3m程度の段丘で姶良丹沢テフラ(AT:30ka)に覆われている.被覆層はAT直下よりフラッドロームとなる.したがって離水年代は30kaより少し前である.KM2面は構成層層厚が4m前後で顕著なロームによる被覆は認められない段丘である.この面は山地の谷筋の出口付近に多く,礫径も大きく淘汰も良くないので,氷期に形成され,その後侵食されてできたできた段丘であると考えられる.ATより新しい氷期の段丘となると,その離水年代は20~15kaであると考えられる.KL1面は,被覆層は載らず,構成層は亜円礫で層厚が1~2mである.詳しい年代を推定する試料はないが,段丘面上に縄文晩期の遺跡を載せ,KM面群より低い段丘であるからその離水は15kaから2kaよりは新しいと考えられる.YH面は古上台川が形成しその後争奪された.被覆層層厚約8m,構成層層厚約4mの段丘であり,被覆層と構成層境界の1~2m上に那須白河テフラ6~12(Ns-Sr6~12:150~200ka)のいずれかの2枚が観察された.よって離水年代は200~150kaである.YM2面は古向原川,古下羽原川が形成し,その後争奪された.構成層層厚が2~3mであり,被覆層は多くとも1m以下である段丘である.KM2面と地形的・地質的特徴が似ていることから,KM2面と同時代の段丘であり,久慈川水系による争奪後に段丘化したと考えると離水年代は20~15kaごろかそのやや後である.以上から,各々の争奪の年代を推定する.古上台川が形成したYH面はその離水年代がMIS6末期である.一方,古上台川が形成したYH面は温暖期に形成されるであろう明瞭な開析谷を持たない.よって,MIS5eまでに上流部を久慈川水系に奪取されたものと考えられ,その争奪は200~125ka頃と推定される.古向原川,古下羽原川は,YM2面形成以降,KL1面形成までに争奪されたと考えらえる.すなわち争奪の年代は,20ka~2ka頃と推定される.これらの争奪の要因に,久慈川水系の侵食基準面が低いこと,また,いずれも氷期ないし氷期から温暖期にかけての期間に発生していることから気候変動が挙げられる.争奪の年代より,争奪前の地形から現地形までの侵食速度を求めることができる.ここでは,試算的に古上台川の争奪後からの侵食量を求めた.結果は,42.0~102.0m/10万年となり,これは先行研究でまとめられている段丘面からみた各河川の浸食速度とおおよそ似た値を示し,求めた争奪の年代が大きく間違ったものではないことを示す.久慈川の中・下流域の段丘と本研究を比較すると,本研究におけるKM面群は,中・下流域における低位面に対比される可能性が高く,KH面群は中・下流域の中位段丘に対比される可能性が高い.この点は今後の課題である.
著者
長田 年弘 木村 浩 篠塚 千恵子 田中 咲子 水田 徹 金子 亨 櫻井 万里子 中村 るい 布施 英利 師尾 晶子 渡辺 千香子 大原 央聡 中村 義孝 仏山 輝美 加藤 公太 加藤 佑一 河瀬 侑 木本 諒 小石 絵美 坂田 道生 下野 雅史 高橋 翔 塚本 理恵子 佐藤 みちる 中村 友代 福本 薫 森園 敦 山本 悠貴
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究課題は、研究代表による平成19-21年度基盤研究(A)「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究―アジアの視座から見たギリシア美術」の目的を継承しつつ再構築し、東方美術がパルテノン彫刻に与えた影響について再検証した。古代東方とギリシアの、民族戦争に関する美術について合同のセミナーを英国において開催し、パルテノン彫刻をめぐる閉塞的な研究状況に対して、新しい問題提起を行った。平成21年開館の、新アクロポリス美術館の彫刻群を重点的な対象とし撮影と調査を行ったほか、イランおよびフランス、ギリシャにおいて調査を実施した。研究成果を、ロンドンの大英博物館等、国内外において陳列発表した。