- 著者
-
加藤 道夫
- 出版者
- 日本図学会
- 雑誌
- 図学研究 (ISSN:03875512)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.Supplement1, pp.157-162, 2005 (Released:2010-08-25)
日本語における透視図, あるいは, 遠近法 (パースペクティヴ (perspective) ) の語源は, ラテン語のペルスペクティーヴァ (perspectiva) に由来するが, その本来の意味は「正しい視方」である.その理論的基盤は古代ギリシアのユークリッドに遡ることができる.しかし, その像を具体的に表現する技法, いいかえるならその作画 (作図) 法については説明されていない.つまり, この時点では, 現象は説明可能という意味で「科学」であっても, 「画像」を生成できないという意味で「技術」ではないということができる, ルネサンス期に具体的に図を作成するという作図法技術が考案され, 以降, 普及・発展した.その技術は, 「固定化された視点」という決定的な前提を含んでいた.見方を変えるならば, 視点を固定化するという条件を設定することで, 作画法が考案可能となったといえる.以降, 遠近法は変質し, その本来の意味である「正しい見方」から「偽りの見方」を表示する技術としての変化をとげる.一方で, 「固定化した視点」を克服するさまざまな試みも見られる.また, 近年の計算機の発展と普及は, ルネサンス以来遠近法が抱えてきた諸問題をクリアしたかに見える.他方で, 計算機による一義的な表現とは異なる手の痕跡を残した手描き画像の価値も見直されつつある.本発表は, 科学技術の視点から遠近法の歴史的変遷を俯瞰するものである.