著者
勝又 裕斗
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_368-1_392, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
21

選挙制度は有権者の選好を議席に変換する重要な制度である。戦後日本においては衆議院、参議院、そして、地方議会の選挙に至るまで中選挙区制が採用されてきた。55年体制においてほぼ全期間で絶対多数を維持した自民党は、この選挙制度による恩恵を受けていたのであろうか。これに対して既存研究では、中選挙区制において大政党だけが候補者擁立戦略の問題に直面するため、中選挙区制は大政党にとって不利であると指摘された。後続の研究は自民党がこの課題を克服できたのか否かを巡って論争してきたが、これらの研究の多くが政党の得票率を所与として分析を行ってきたため、得票率自体が中選挙区制の影響を受けるという重要な視点が見落とされてきた。中選挙区制によって各政党の得票率がどのような影響を受け、それがどのように議席数に反映されたのかを分析した結果、自民党が総合的に少し議席を減らしたのに対し、社会党は総合的に大きく議席を減らしたことが明らかになった。中選挙区制は第二党である社会党に不利にはたらくことで結果的に自民党に有利にはたらいてきたのである。
著者
勝又 裕斗
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.72-85, 2021 (Released:2023-11-16)
参考文献数
14

日本で長期間にわたり用いられている中選挙区制は,同一政党内の候補者間で得票の移譲ができないため,大政党は獲得議席最大化のために候補者数を適切に調整し,その間で得票を適切に配分する必要がある。既存研究ではこの戦略の失敗を候補者数に注目して分類してきたが,この分類は票割りの失敗および共倒れという戦略の失敗の理由による分類と一致しないという問題がある。本稿は戦略の失敗を票割りの失敗と共倒れによって新たに分類し,戦後衆議院議員総選挙における自民党の戦略の失敗を分析する。その結果,票割りの失敗と共倒れはともに減少したが,それは環境の変化と戦略の向上という異なる要因によることが分かった。さらに,候補者数抑制により共倒れは減少したが,その選挙区では票割りの失敗が続いた。戦略の失敗の減少は,戦略の向上ではなく,失敗が起こりにくい競争環境の増加によるものであった。
著者
勝又 裕斗
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_208-1_232, 2016 (Released:2019-06-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

本稿では, 候補者レベルの政策位置を用いた空間投票を分析する。有権者や候補者の自己政策位置を尋ねるサーベイ調査においては, 回答者が回答の際に想定する政策空間が異質であるために回答された自己政策位置を直接に比較できないという問題が生じる。この問題を解決するために, 政党の政策位置の回答をブリッジ観察として自己政策位置をリスケーリングし, 有権者と候補者の政策位置を同一空間上に推定した。推定された政策位置を用いて近接性モデルに基づく空間投票の分析を行った結果, 有権者は政策距離の近い候補者に投票しやすいことが明らかになった。さらに, このような候補者レベルの空間投票のメカニズムを分析したところ, 有権者は候補者の所属政党との政策距離だけではなく, 候補者自身の政策位置との距離による投票選択を行っていることが明らかになった。このように有権者が候補者個人の政策位置を理解して投票を行っているという結果は, 空間投票研究に新たな知見を付け加えるものである。