著者
三輪 哲 石田 賢示 下瀬川 陽
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.29-49, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
42

本稿では,社会科学におけるインターネット調査ないしウェブ調査の可能性と課題について考察した.とりわけ,ウェブ調査の意義は何であるか,ウェブ調査のプレゼンスは高まっているのか,ウェブ調査の課題は何であるか,学術研究にウェブ調査データを利用する際の許容条件はいかなるものか,の諸点を焦点として検討をしてきた.その結果,実施されるウェブ調査の数自体は顕著に増加してきているが,他方でいまだ学術研究ではウェブ調査利用の成果物は必ずしも多くはないことが明らかとなった. 理由として考えられるのは,標本の代表性への懸念である.社会学の主要な学術誌に掲載されたウェブ調査データ使用論文をみると,それらほとんどでウェブ調査を用いたことを正当化する補足的記述がみられた. ただし,ウェブ調査はまったく学術利用に適さないわけではない.研究や調査の目的いかんによっては,ウェブ調査の採用が最適であることも考えられる. ウェブ調査によるデータ収集のプロセス全体をしっかりと総調査誤差の枠組みより評価をして,研究目的に即した限定された母集団へと着目することの理論的意味と,それに対しアプローチする方法的妥当性を周到に検討することが,ウェブ調査の利用可能性をひらくだろう.
著者
伊藤 伸介 石田 賢示 藤原 翔 三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.321-336, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿では,公的統計の個票データ(調査票情報)の申請と活用の方法について解説した.統計法改正により,現在では,公益性のある学術研究ならば,公的統計の個票データにもアクセスできるようになっている.利用申請が承認されたのちには,テキスト形式の個票データ,データのレイアウト表と符号表が収録されたCDRが届くことになる.個票データを自由に扱うことで,様々な変数の加工・作成やそれら変数間関連の分析をおこなうことができる.公的統計の個票データの分析で基礎的な変数の関連パターンを精確に明らかにできるため,そこから導かれた発展的な問題に対しては個別具体的な社会調査でアプローチする研究プロセスが考えられる.そのように,公的統計の個票データと社会調査データを組み合わせることで,優れた計量社会学的研究が蓄積していく可能性が拓かれる.
著者
石田 賢示
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.325-344, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本稿では,「制度的連結論」の理論的枠組みに関するこれまでの論点を整理したうえで,学校経由の就職が若年者の初職離職リスクに与えた影響の趨勢を分析した。日本における学校から職業への移行過程において,若年者と労働市場を媒介する役割を学校が果たし,制度的連結の仕組みが日本の若年労働市場の成功の重要な要因だと考えられてきた。一方,1990年代以降の労働市場の構造変動期に,制度的連結が機能不全をきたしたという議論がなされるようになった。 制度的連結について対立する2つの立場はいずれも一般化されたものであるといえる。しかし,学校経由の就職とジョブ・マッチングの関係のトレンドを直接に明らかにした研究はそれほど多くない。そのため,本稿では1995,2005年SSM 調査の合併データを用いたイベントヒストリー分析によって,制度的連結効果の趨勢を検討した。 分析の結果,高卒者については1990年代以降に初職を開始した場合,制度的連結論の仮説が支持された。また,学校経由の就職の利用にはメリトクラティックな基準が作用していることも明らかになった。労働市場全体が不安定である時期に制度的連結は高卒就職を保護するようになったが,学校経由の就職の規模の縮小も同時に進んでいる。制度的連結は,それを利用できない層を生み出しながらその機能を維持しているといえる。また,中卒,大卒就職では仮説が支持されず,制度的連結概念自体の検討も必要である。
著者
石田 賢示
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行された1990年以降、日本に居住する外国人の人口構造が量と質の両面で大きく変化してきた。日本では、これまで移民とネイティブ(すなわち日本国籍者)を直接比較できるようなデータの整備・公開が必ずしも十分ではなかった。そこで本研究では、ネイティブとの比較分析を通じ、日本社会における移民の地位達成過程構造の特質を解明することを目的として設定した。既存データの二次分析や独自に実施した社会調査データの分析結果から、第二世代移民の地位達成構造がネイティブと類似していることが明らかになった。ただし、同化した移民が機会と困難の双方に直面しうる点には注意すべきである。
著者
石田 賢示
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.63-73, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
16

本稿では,若年労働市場における入職経路と就業先の職場環境との関連を検討した.分析の結果得られた知見は以下の通りである.(1)個人的なネットワーク,とりわけ家族・親戚を通じて仕事に就く場合,職能形成機会,生活に合わせた仕事の調整可能性,職場の安定性に対して,ポジティブな効果が示された,(2)学校経由の就職による直接効果は観察されず,学校経由の就職の効果は大企業への就職,正規雇用での就職を介した間接的なものであることが明らかになった,(3)転職をする場合や学歴の低い者について,個人的なネットワークの影響がより強い. 日本の若年労働市場において血縁関係は,職場をスクリーニングする機能を果たしている可能性がある.また,制度的連結論にもとづく予測とは一致しない結果から,学校経由の就職では媒介されない情報やサポートに関する検討の必要性も明らかになった.社会ネットワークや制度的連結の構造と機能に関する,さらなる調査研究が求められる.