著者
北 明美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.38-61, 2014-03-31 (Released:2018-02-01)

「子ども手当」は日本で初めての所得制限をもたない普遍主義的な児童手当制度であった。そこでは旧「児童手当」がもっていた多くの矛盾が解消される方向にむかっていたが,そのことの意義が理解されないまま「子ども手当」は終焉をむかえた。だが,所得制限が復活し,次の段階として年少扶養控除まで復活することは,日本社会におけるジェンダー・バイアスの強化と低所得者に不利な国民の分断につながる。また,児童手当と育児サービスの二者択一の対立関係を前提し,それらの給付を相殺させる政策は,子育て支援の費用の単なる圧縮につながりかねない。真の対立は税に基づく公的保育と普遍主義的な児童手当の組み合わせか,準市場化される保育サービスを育児保険に基づくクーポンで購入するシステムかという選択にある。日本の社会政策とフェミニズムは後者の方向にむかいつつあるかにみえるが,税に基づく普遍主義的な給付という社会手当の意義を無視すべきではない。
著者
浪江 巌 篠田 武司 宮本 太郎 横山 寿一 前田 信彦 北 明美 伊藤 正純
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

完全雇用は、どの先進諸国においても戦後福祉国家にとっての基本的な政策であった。しかし、現在のグローバル化と知識社会化のもとでは、完全雇用を実現することは困難になってきた。福祉国家の危機も進んでいる。では、こうした雇用と福祉の危機のなかで、各国はどのようにそれに対処しようとしているのか。それを高度福祉国家スウェーデンにおいてみながら、日本にとってのその意味を考察したのが本研究である。本研究で明らかになったことは、次のことである。(1)完全雇用を実現することを福祉国家スウェーデンの中心的政策として明確に位置付けてきたスウェーデンにおいても、その実現は難しくなっていること、(2)特に、社会的弱者ともいえる移民、青年層、女性、障害者などが労働市場から排除されるか、雇用の多様化が進む中で雇用の質が落ちていること、(3)しかし、現実には将来的に少子化の中で雇用をいかに確保するべきかがいまから大きな課題として認識されていること、(4)したがって、あくまで失業率を下げ、雇用率を上げるために政府は労働市場政策プログラムを様々な形で展開していること、(5)しかし、財政の関係、ならびにEU内でも進むワークフェアー的な労働市場政策の影響も受け、90年代以降その政策が変わりつつあること、などを確認した。では、どのように労働市場政策は変わりつつあるのか。ひとことでいえば、(1)労働市場政策の分権化、いいかえれば地方の役割を大きくしつつあることである。(2)多用な雇用形態が進むとともに、規制緩和が進み、民間企業による派遣事業が許可された。(3)労働市場弱者にたいするきめ細かい政策が実行されていることである。労働市場弱者を労働市場から排除しないことが社会結合にとって大きな課題であることが自覚されている。日本においても失業率の高止まり、また将来的には労働力不足を迎えるという事態はスウェーデンと変わらない。したがって、雇用対策がこの間、重視され、様々な政策が実行されてきた。しかし、まだスウェーデンと比べると危機感が少ないかに見えるし、対策の効用も十分あきらかにされていないかに見える。報告書は、12章から成り立つ。1章-「スウェーデン労働市場とG・レーン(宮本)、2章「労働市場の現状と政策の変化」(篠田)、3章「労働市場政策プログラムと職業訓練・教育」(伊藤)、4章「スウェーデンにおける雇用の男女平等」(北)、5章「保護雇用会社のサムハルの現状と未来」(福地)、6章「若年雇用政策の理念と現実」(櫻井)、7章「高齢者による人口問題の解決」(B・ヴィクルンド)、8章「障害者雇用の現実と課題」(横山)、9章「雇用対策における非営利セクターの役割」(中里)、10章「労働時間をめぐる政策動向」(浪江)、11章「分権化とクラスター・ダイナミクス」(G・ヨーラン)、12章「惨めなリーン生産方式か、豊な方式か?」(T・ニルソン)
著者
北 明美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.161-175, 2008-03-31 (Released:2018-04-01)

In the 1960s, the Japanese government and bureaucracy sought to introduce a child benefit program funded by both employees' and employers' contributions, while rejecting an alternate plan to fund children's benefits from general revenues. The plan to introduce employees' contributions, which was blocked by strong opposition from labor, has now been redesigned as a plan to introduce "social insurance for dependent children." This development shows that the importance of non-means-tested and noncontributory cash benefits has been often ignored in discussions on social policy in Japan. Bunji KONDO, an influential researcher of social policy, classified such noncontributory cash benefits in a category close to public assistance and argued that a form of social insurance based on employees' contributions as well as those of employers that benefited workers most. Furthermore, he considered that even child benefits were similar to such forms of insurance, before World War II and in the postwar days up to the 1960's. I would like to point that KONDO's discussions are among the backdrops of the recent odd proposal to replace the current child benefit with "social insurance for dependent children" for which there is no precedent elsewhere in the world. On the other hand, the labor movement in the 1960s did not launch strong campaigns for child benefit programs based only on general revenues. It is not only because it seemed impossible then, but also because labor tended to support benefits based on employers' unilateral contributions. At that time, benefits based on such contributions were regarded as more advantageous for workers, as they channeled portions of profits into worker incomes. However, in other countries, it has been recognized that child benefit programs based on employer contributions have an effect only on horizontal income re-distribution, while child benefit programs funded only by general revenues affect both vertical and horizontal income re-distribution. It is also argued that the former tends to function more strongly to lower wages than the latter. I argue that the Japanese labor movement should reconsider its preference for child benefit programs based on employer contributions, recognizing their gender-biased character and vulnerability to cost-cutting pressures from employers and big business.
著者
北 明美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.38-61, 2014

「子ども手当」は日本で初めての所得制限をもたない普遍主義的な児童手当制度であった。そこでは旧「児童手当」がもっていた多くの矛盾が解消される方向にむかっていたが,そのことの意義が理解されないまま「子ども手当」は終焉をむかえた。だが,所得制限が復活し,次の段階として年少扶養控除まで復活することは,日本社会におけるジェンダー・バイアスの強化と低所得者に不利な国民の分断につながる。また,児童手当と育児サービスの二者択一の対立関係を前提し,それらの給付を相殺させる政策は,子育て支援の費用の単なる圧縮につながりかねない。真の対立は税に基づく公的保育と普遍主義的な児童手当の組み合わせか,準市場化される保育サービスを育児保険に基づくクーポンで購入するシステムかという選択にある。日本の社会政策とフェミニズムは後者の方向にむかいつつあるかにみえるが,税に基づく普遍主義的な給付という社会手当の意義を無視すべきではない。
著者
吉村 臨兵 北 明美
出版者
福井県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

米国の最低賃金規制についてリビング・ウェイジ(生活賃金)条例を中心に数カ所で聞き取り調査を行った。そうした制度を実現して実効性を維持するための取り組みがどんな社会集団によってどのように行われているか、具体的な情報が得られた。また、連邦最低賃金が毎年上昇する時期に重なったこともあり、リビング・ウェイジが直接の賃金上昇よりも、むしろ労働基準の広範な改善のきっかけとしての機能を強めつつあることがわかった。