著者
山内 一也 芹川 忠夫 小野寺 節 北本 哲之 立石 潤 品川 森一 宮本 勉
出版者
(財)日本生物科学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

プリオン病について、プリオン蛋白(PrP)遺伝子の面から解析が進み、また動物モデルでも種々の新しい知見が蓄積した。主な成果は以下のとおりである。プリオン病の発病機構についてPrP遺伝子多型性の関与が分子遺伝学的解析およびマウスへの伝播実験から新しい知見が蓄積してきた。とくにコドン219での正常多型と孤発性CJD発病との関連は欧米人にはみられない日本人特有のものであることが明らかにされ、さらにコドン102と219の病態への関与が示された。また遺伝子多型および異常とマウス伝播の関連も整理されてきた。さらに人PrP遺伝子を過剰に発現するトランスジェニックマウスが作製され、正常マウスよりもきわめて高い感受性を示すことが確認された。一方、生化学的解析でCJD患者脳でのガングリオシド組成の特徴が整理された。スクレイピーに関してはPrP^<Sc>のproteinase K抵抗性とマウスでの潜伏期の長さとの関連が解析され、マウス継代によりブリオンの構造が凝集しやすくなることが示唆された。PrP遺伝子の機能に関連しては、プリオンレス神経細胞が樹立され、アポトーシスによる細胞死滅が明らかにされた。プリオン蛋白の構造変換のモデルとしては、大腸菌のRNase HIのプソイドモジュールについて二次構造転移と自己増殖が調べられ、αヘワックスからβシートへの変換が反応温度に依存していることが明らかにされた。海綿状脳症の病態解析のモデルとしては、遺伝性海綿状脳症ラットzitterについて病変形成に関わると考えられるzi遺伝子のコンジェニックラットが作られ、また、病変形成におけるフリーラジカルの関与が示された。ぺットおよび鳥類での自然発生海綿状脳症の検索の結果、老齢のトリで1例アミロイド様物質沈着病変がみいだされたがプリオン抗体とは反応せず、本病の存在の可能性は非常に低いものと推察された。
著者
立石 潤 北本 哲之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略す)の感染因子として、プリオンが提唱されている。プリオンを構成する主な蛋白としてプリオン蛋白の存在が知られ、single copy geneによりコードされた蛋白であることが報告されている。プリオン蛋白遺伝子のノックアウトにてスクレピーに感染しなくなるという事実より異常プリオン蛋白そのものが感染因子である可能性が高くなった。我々は、この異常プリオン蛋白が感染初期から、マウスの脾臓やリンパ操置の濾胞樹状細胞(FDC)に沈着することを世界で初めて証明し、このFDCへの蓄積機序を検討した。まず感染因子の投与ルートによるるリンパ操置のFDCへの蓄積を検討すると、腹腔内または脳内投与とも、投与後100%FDCに異常プリオン蛋白が沈着し脳内にプリオン蛋白が蓄積する以前から検出可能であり、発症前にCJDが診断可能であることを明らかとした。また、ヒトからマウスへの初代接種実験ではFDCへの沈着がおこらず、また腹腔内投与のみではいまだ発症したマウスがなく、中枢神経組織外での種間バリヤー形成の一役をFDCがになっている可能性を指摘した。初年度でのSCIDマウスの結果と考えあわせると、末梢ルートによるCJDの感染には、まずFDCに異常プリオン蛋白が蓄積することが必要条件であり、もしFDCへの蓄積がみられないなら、CJDの発症もみられないという結論となった。一方、直接中枢神経系へ投与を行なうと、FDCに沈着がみられてもみられなくてもCJDは発症することが明らかとなった。
著者
半田 純雄 北本 哲之 毛利 資郎 立石 潤
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.昨年度の研究実績の概要で,それまでのラジオアイソトープを用いたドットハイブリダイゼーションから安全迅速な制限酵素の切断長による方法を開発し,マウスのプリオン蛋白遺伝子変異の診断技術が向上したこと,同時に,個体について診断に基づき実施した戻し交配が6世代まで進んだ後,繁殖が困難になったので4世代まで元に戻って行なったことを報告した。ところが,うまく繁殖できたものの,その中にPrn-P^aとPrn-P^bとのヘテロが生まれず,次の世代につなぐことができなかった。したがって,F1世代から交配をやり直しており,もう少し時間がかかりそうである。2.その代わり,プリオン接種後の潜伏期間,病理などの感受性がプリオン蛋白遺伝子変異以外の要素で変わることをSCIDマウスで発見した。そして,それがコンジェニックマウスと同様にプリオン病のモデル動物として重要であることがわかったのでその概要を報告する。(1)SCIDマウスではクロイッツフェルトヤコブ病病原体を脳内接種後,プリオン蛋白遺伝子型がPrn-P^aのマウスと同様に150日程度の潜伏期間で発症するが,脳内接種では600日経っても発症しなかった。(2)この原因として,SCIDマウスでは,脾臓やリンパ節の濾胞樹伏細胞に異常プリオン蛋白が沈着しないという特異的な反応があり,それが示唆された。(3)このことから,SCIDマウスは,プリオン病の発病のメカニズムを解析するうえでも重要なモデル動物となることが判明した。(4)今後も,プリオン蛋白遺伝子のコンジェニックとSCIDマウスを組み合わせて,プリオン病解明のモデル動物開発を推し進めていきたい。