著者
小松 武志 坪田 敏男 岸本 真弓 濱崎 伸一郎 千葉 敏郎
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
家畜繁殖研究會誌 (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.j65-j71, 1994
被引用文献数
9 16

ニホンツキノワグマ(<I>Selenarctos thibetanus japonicus</I>)の捕殺個体27頭から採取した精巣と,捕獲個体13頭の精巣から採取したバイオプシー材料を用いて,性成熟年齢と,未成熟および成熟個体における精子形成の開始および至開始にかかわる幹細胞について検討した.<BR>精巣の大きさ,重量および精細管直径の各値は2~3歳において急激に上昇し,また精巣の組織学的観察により成熟と判断された個体は,1歳で0%,2歳で50%,3歳以上で100%であった.よって生理的な性成熟(春機発動)年齢は,2~3歳であると推定された.<BR>未成熟個体の精細管中には,セルトリ細胞と巨大円形細胞のみが観察された.この後者の細胞は他種の動物で報告されているGonocyteと形態学的に一致した.よってこの細胞は未成熟期から精子形成を開始するための幹細胞であると推察された.<BR>一方成熟個体の精細管中には,Gonocyteと類似する巨大細胞が観察され, Gonocyte-like cellと名付けられた.この細胞は非繁殖期の精細管中に急激に増加した.このような性質は他種の動物で報告されている未分化型A型精祖細胞の性質と類似した.よってこの細胞は未分化型A型精祖細胞であり,成熟期の非繁殖期から精子形成を再開するための幹細胞であると推察された.
著者
片山 敦司 坪田 敏男 山田 文雄 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.26-32, 1996-02
参考文献数
24
被引用文献数
8

1991年3月から1993年8月までの間に, 岐阜県および京都府で捕殺された雌ニホンツキノワグマ(Selenarctos thibetanus japonicus)19頭の生殖器の肉眼的および組織学的観察により, 性成熟年齢, 排卵数, 着床数, 一腹産子数および繁殖歴などを推定した。卵巣の重量および大きさは加齢に伴って増加の傾向を示した。その傾向は未成熟個体で顕著であり, 性成熟個体で緩やかであった。黄体および黄体退縮物の存在を性成熟の基準とした場合, 4歳以上の全ての個体は性成熟に達していると判定された。しかし, 4歳未満でも性成熟に達する例も存在することが示唆され, 性成熟に達する年齢には個体差があることがうかがわれた。黄体, 黄体退縮物および胎盤痕の観察と連れ子の数から平均排卵数は1.89, 平均着床数は2.00, および平均連れ子頭数は, 1.86と算定された。さらに, 黄体退縮物の組織学的観察により, 捕殺時点における過去の総排卵数の推定を試みた。その結果, 黄体および黄体退縮物の数と交尾期経過回数には正の相関が認められた。しかし, 黄体およびその退縮物の数にはばらつきがあり, 交尾期経過回数との間に大きな差が認められる例もあった。
著者
坪田 敏男 金川 弘司 山本 聖子 間野 勉 山中 正実 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-5, 1992-02-15
被引用文献数
1

飼育下8頭および野生7頭の雌エゾヒグマについて, プロジェステロン(P)測定用エンザイムイムノアッセイ(EIA)キット(「オブチェック」ケンブリッジ・ライフ・サイエンス社)を用いて血清中P値を測定し, その有効性を検討した. 本キットによる2検体の測定内および測定間変動係数は, それぞれ8.9%, 12.6%および16.6%, 22.7%と比較的良好な成績であった. ラジオイムノアッセイ法との相関関係については, 64サンプルで相関係数r=0.725と高い相関が認められた(p<0.01). 飼育エゾヒグマでは, 妊娠個体5頭, 非妊娠単独個体2頭および非妊娠子連れ個体1頭についてP値が調べられた. 妊娠個体のP値は, 交尾期(5〜6月)後の小さな上昇, 9〜10月にかけての2回目の上昇, さらに11〜12月にかけての大きな上昇として観察された. この最後の大きなP値上昇は, 着床に伴う変化と推測される. 非妊娠単独個体のP値変化は, 妊娠個体のP値変化と類似した. 非妊娠子連れ個体のP値は, 6〜12月まで5 ng/ml以下の値を持続した. 野生エゾヒグマ7頭中2頭は, 1 ng/ml以上の値を示し, そのうちの1頭では出産が確認された. 他の5頭はいずれも1 ng/ml以下の低値であり, 非妊娠個体と考えられた. エゾヒグマでのP-EIAキットによるP値の測定は有効であると結論づけられた.