著者
山中 正実 岡田 秀明
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.755, 2004 (Released:2004-07-30)

クマ類は中型以上の哺乳類で唯一冬眠を行うことが知られており、しかも、妊娠したメスは冬眠中に出産と育児も行う特異な生態を持っている。冬眠はクマ類の生活史の中で極めて重要な位置を占めるが、北海道に生息するエゾヒグマでは冬眠穴の立地する環境やその構造について十分な研究は行われていない。本研究では、1989年から2004年の間、知床半島において46例のヒグマの冬眠穴の位置を特定し、内21例について計測を行った。ヒグマの冬眠穴は、樹木の根張りを利用してその下に掘り込むタイプ(ST型)と樹木に依存することなく地面に掘る土穴(S型)に分けられる。また、自然の穴を利用するものは岩穴と樹洞に分けることができる。本研究では冬眠穴のタイプを確認できた25例中20例(80%)がS型であった。また、構造は入り口が一つで、その奧に寝床がある単純な構造であった。入り口から寝床まで直線的は位置されたものが13例(62%)で最多であった。奥行きは平均2.14m、最大幅は平均1.32mであった。知床半島では、冬眠穴は海岸段丘斜面など低標高の海岸部から高山帯のハイマツ帯まで幅広い環境に存在しており、46例中半数の23例は高木層を欠く高山・亜高山植生の地域や海岸段丘斜面にも立地していた。これらはダケカンバを中心とする高木層を持つ上部広葉樹林帯の森林内に冬眠穴が集中的に分布するとした大河(1980)による支笏湖周辺での立地条件と大きく異なっていた。また、知床半島では支笏湖周辺では確認されなかった人間の活動域に近接した場所の冬眠穴や平坦地に掘られた冬眠穴も見られた。また、海外の研究例では、一定の地域に冬眠穴が集中的に分布する事例が報告されており、その要因として個体毎の地域選択性や特定の年の個体群の分布特性があげられている。知床半島でも3ヶ所以上の冬眠穴を確認できた個体について、一定の場所を選択的に使う傾向が見られた。
著者
森脇 潤 下鶴 倫人 山中 正実 中西 將尚 永野 夏生 増田 泰 藤本 靖 坪田 敏男
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.242, 2013 (Released:2014-02-14)

動物が高密度に生息する地域において,集団の血縁関係を明らかにすることは,その地域を利用する個体毎の繁殖,行動および分布様式を解明する上で重要である.そこで知床半島ルシャ地区におけるヒグマの繁殖,行動および移動分散様式を解明することを目的として,個体識別調査および集団遺伝学的解析により,個体間の血縁関係を解析した.材料は,同地区でヘアートラップ,ダートバイオプシー等により収集された遺伝子材料 51頭(雄 21頭,雌 30頭)分と,周辺地区(斜里,羅臼および標津地区)で学術捕獲あるいは捕殺個体 164頭分の遺伝子材料および各種メディアの情報を利用した.遺伝子解析には 22座位のマイクロサテライト領域を利用した.その結果,ルシャ地区には 15頭の成獣メスと,その子供からなる集団が生息しており,血縁は大きく2つの母系集団に分かれていた.また,最大で 3世代が共存していた.ルシャ地区で繁殖に関与する父親は,現在までに 5頭認められ,近親交配やマルチプルパタニティーが存在することが明らかになった.ルシャ地区を利用する個体の中で,5頭の亜成獣オスが斜里および羅臼地区側へ移動分散して捕殺されていることも明らかになった.このように,高密度に生息する知床半島ルシャ地区でのヒグマ集団の血縁関係を明らかにすることは,従来の野外調査では明らかには出来ないヒグマの繁殖システムの解明に寄与するだけではなく,繁殖個体の周辺地域への移動分散を明らかにすることができる.尚,本研究はダイキン工業寄附事業 「知床半島先端部地区におけるヒグマ個体群の保護管理,及び,羅臼町住民生活圏へ与える影響に関する研究」の一環として行われたものである.
著者
鈴木 正嗣 梶 光一 山中 正実 大泰司 紀之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.505-509, 1996-06-25
参考文献数
29
被引用文献数
13

北海道東部産のエゾシカ胎子87例で胎齢を推定し, 受胎日の変異と外部形態の発達過程とを明らかにした. 胎子の体重(W)と胎齢(T)との間には, T=(√^3<W>+2.730)/0.091関係式が認められた. この式を用いて胎齢を算出し, 捕殺日からの逆算により求められた推定受胎日は, 10月7日から翌1月17日の範囲で変異していた. しかし, その多くは10月中旬から11月上旬にかけて集中していた. また, 11月下旬以降に受胎したと思われる胎子9例のうち, 6例が1歳メスから採取された標本であった. これは, 北海道東部個体群の良好な栄養状態が, 1歳メスの成長と性成熟を冬期間にも可能にすることを示唆している. 胎子の外部形態においては, 感覚毛や一般被毛の発現時期と白斑の発現時期とが重複していなかった. また, いくつかの発達過程上の変化が, 特定の体重で起こることも確認された. これらの特性を利用することにより, 胎子成長は4段階のステージに分割できた. 各ステージにおける胎子の外部形態的特徴は, エゾシカ以外のニホンジカでも簡便な胎齢推定に役立つと考えられる.
著者
坪田 敏男 金川 弘司 山本 聖子 間野 勉 山中 正実 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-5, 1992-02-15
被引用文献数
1

飼育下8頭および野生7頭の雌エゾヒグマについて, プロジェステロン(P)測定用エンザイムイムノアッセイ(EIA)キット(「オブチェック」ケンブリッジ・ライフ・サイエンス社)を用いて血清中P値を測定し, その有効性を検討した. 本キットによる2検体の測定内および測定間変動係数は, それぞれ8.9%, 12.6%および16.6%, 22.7%と比較的良好な成績であった. ラジオイムノアッセイ法との相関関係については, 64サンプルで相関係数r=0.725と高い相関が認められた(p<0.01). 飼育エゾヒグマでは, 妊娠個体5頭, 非妊娠単独個体2頭および非妊娠子連れ個体1頭についてP値が調べられた. 妊娠個体のP値は, 交尾期(5〜6月)後の小さな上昇, 9〜10月にかけての2回目の上昇, さらに11〜12月にかけての大きな上昇として観察された. この最後の大きなP値上昇は, 着床に伴う変化と推測される. 非妊娠単独個体のP値変化は, 妊娠個体のP値変化と類似した. 非妊娠子連れ個体のP値は, 6〜12月まで5 ng/ml以下の値を持続した. 野生エゾヒグマ7頭中2頭は, 1 ng/ml以上の値を示し, そのうちの1頭では出産が確認された. 他の5頭はいずれも1 ng/ml以下の低値であり, 非妊娠個体と考えられた. エゾヒグマでのP-EIAキットによるP値の測定は有効であると結論づけられた.
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 山崎 晃司 釣賀 一二三 高柳 敦 山中 正実
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.39-41, 2008-06-30

日本におけるクマ類の調査研究や特定鳥獣保護管理計画の発展に寄与することを目指して,この特集を企画した.本特集は,日本哺乳類学会2007年度大会で開催されたクマに関する3つの自由集会の成果をまとめたものであり,特定鳥獣保護管理計画の実施状況や,新たな手法として注目されるヘア・トラップ法によるクマ類の密度推定の問題点などを概観する11編の報告と,2編のコメントから構成される.<br>