著者
山本 かおり 坪田 敏男 喜多 功
出版者
THE SOCIETY FOR REPRODUCTION AND DEVELOPMENT
雑誌
The Journal of reproduction and development (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.j13-j18, 1998-06-01
参考文献数
21
被引用文献数
3 25

秋田県阿仁クマ牧場において1996年6月22日から7月31日まで,ニホンツキノワグマ <i>Ursus thibetanus japonicus</i>(成獣雄22頭, 雌17頭)の性行動を観察した.本観察場所でのニホンツキノワグマの交尾期は6月中旬から8月上旬であると考えられた.乗駕行動は不特定多数の雌雄間で見られ,交尾形態としては乱交型であった.雌はある一定の期間に集中して雄の乗駕を許容(これを発情とみなした)し,発情期間は12~35日間と大きな個体差がみられた.また,発情期間と非発情期間が不規則に繰り返される傾向があり,発情様式にも大きな個体差がみられた.雄の性行動は,雌の発情に同調して発現すると推測された.乗駕が観察された総日数は,4歳および5歳の雄において有意に少なく(p<0.05),6歳以上の雄に関しては体重の重い雄(80kg以上)において多い傾向があった(p<0.1).このことから,本観察場所のような高密度な飼育条件下においては,年齢や体重による優劣関係の社会構造が発達し,生理的に性成熟に達した後も,社会的要因によって交尾の機会を持たない雄が存在することが推測された.<br>
著者
坪田 敏男 溝口 紀泰 喜多 功
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.17-24, 1998
参考文献数
35
被引用文献数
2 3

ニホンツキノワグマ<i>Ursus thibetanus japonicus</i>は, 本州, 四国および九州に生息する大型哺乳動物の一種である。しかしながら, 最近では, 九州はほぼ絶滅状態となり, さらに四国山地, 西中国地域, 東中国山地および紀伊半島が絶滅のおそれのある地域となっている。1990年から1994年にかけて岐阜県白川村において直接観察, 痕跡調査(糞分析)およびラジオトラッキングといった生態調査が行われた。その結果, ツキノワグマの春と秋の食物種がブナ林という生息環境と密接に関係していることが示された。すなわち, ツキノワグマは, ブナ豊作年にはブナの花芽や種子を食べ, 一方ブナ不作年には他の食物を利用していた。また, 1992年から1993年のツキノワグマの行動圏が求められ, その平均値は雄で6.4km^2, 雌で3.4km^2であった。主に飼育下でのツキノワグマの繁殖生理学的研究により, 雄では季節繁殖性が顕著に認められること, また雌では着床遅延や冬眠中の出産といったクマ類特有の繁殖生理機構を有していることが解明された。これらの結果より, 将来にわたってツキノワグマを保護していくためには, 繁殖の成功につながる十分な食物環境を確保することが肝要であると結論づけることができる。
著者
山本 かおり 河村 篤紀 坪田 敏男 釣賀 一二三 小松 武志 村瀬 哲磨 喜多 功 工藤 忠明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.103-108, 2002-09-01

本研究では,飼育条件下のニホンツキノワグマにおいてDNAフィンガープリント法による父子判定の有用性を検討した。制限酵素Hinf Iおよび(GATA)_4プローブを用いたDNAフィンガープリントはニホンツキノワグマの個体識別および父子判定に有用であることが示された。1995年から1997年の間に11頭の母グマから生まれた13頭の子グマと22頭の父親候補の雄グマについて父子判定を行った結果,7頭の雄グマが父親と判定された。特に2頭の雄グマが8頭の子グマの父親と判定された。本研究では,飼育条件下において雌グマが多くの雄グマとの交尾の機会をもっても,ある特定の雄の繁殖成功が高くなることが示された。
著者
片山 敦司 坪田 敏男 山田 文雄 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.26-32, 1996-02
参考文献数
24
被引用文献数
8

1991年3月から1993年8月までの間に, 岐阜県および京都府で捕殺された雌ニホンツキノワグマ(Selenarctos thibetanus japonicus)19頭の生殖器の肉眼的および組織学的観察により, 性成熟年齢, 排卵数, 着床数, 一腹産子数および繁殖歴などを推定した。卵巣の重量および大きさは加齢に伴って増加の傾向を示した。その傾向は未成熟個体で顕著であり, 性成熟個体で緩やかであった。黄体および黄体退縮物の存在を性成熟の基準とした場合, 4歳以上の全ての個体は性成熟に達していると判定された。しかし, 4歳未満でも性成熟に達する例も存在することが示唆され, 性成熟に達する年齢には個体差があることがうかがわれた。黄体, 黄体退縮物および胎盤痕の観察と連れ子の数から平均排卵数は1.89, 平均着床数は2.00, および平均連れ子頭数は, 1.86と算定された。さらに, 黄体退縮物の組織学的観察により, 捕殺時点における過去の総排卵数の推定を試みた。その結果, 黄体および黄体退縮物の数と交尾期経過回数には正の相関が認められた。しかし, 黄体およびその退縮物の数にはばらつきがあり, 交尾期経過回数との間に大きな差が認められる例もあった。
著者
坪田 敏男 金川 弘司 山本 聖子 間野 勉 山中 正実 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-5, 1992-02-15
被引用文献数
1

飼育下8頭および野生7頭の雌エゾヒグマについて, プロジェステロン(P)測定用エンザイムイムノアッセイ(EIA)キット(「オブチェック」ケンブリッジ・ライフ・サイエンス社)を用いて血清中P値を測定し, その有効性を検討した. 本キットによる2検体の測定内および測定間変動係数は, それぞれ8.9%, 12.6%および16.6%, 22.7%と比較的良好な成績であった. ラジオイムノアッセイ法との相関関係については, 64サンプルで相関係数r=0.725と高い相関が認められた(p<0.01). 飼育エゾヒグマでは, 妊娠個体5頭, 非妊娠単独個体2頭および非妊娠子連れ個体1頭についてP値が調べられた. 妊娠個体のP値は, 交尾期(5〜6月)後の小さな上昇, 9〜10月にかけての2回目の上昇, さらに11〜12月にかけての大きな上昇として観察された. この最後の大きなP値上昇は, 着床に伴う変化と推測される. 非妊娠単独個体のP値変化は, 妊娠個体のP値変化と類似した. 非妊娠子連れ個体のP値は, 6〜12月まで5 ng/ml以下の値を持続した. 野生エゾヒグマ7頭中2頭は, 1 ng/ml以上の値を示し, そのうちの1頭では出産が確認された. 他の5頭はいずれも1 ng/ml以下の低値であり, 非妊娠個体と考えられた. エゾヒグマでのP-EIAキットによるP値の測定は有効であると結論づけられた.