- 著者
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坪田 敏男
溝口 紀泰
喜多 功
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.1, pp.17-24, 1998
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
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ニホンツキノワグマ<i>Ursus thibetanus japonicus</i>は, 本州, 四国および九州に生息する大型哺乳動物の一種である。しかしながら, 最近では, 九州はほぼ絶滅状態となり, さらに四国山地, 西中国地域, 東中国山地および紀伊半島が絶滅のおそれのある地域となっている。1990年から1994年にかけて岐阜県白川村において直接観察, 痕跡調査(糞分析)およびラジオトラッキングといった生態調査が行われた。その結果, ツキノワグマの春と秋の食物種がブナ林という生息環境と密接に関係していることが示された。すなわち, ツキノワグマは, ブナ豊作年にはブナの花芽や種子を食べ, 一方ブナ不作年には他の食物を利用していた。また, 1992年から1993年のツキノワグマの行動圏が求められ, その平均値は雄で6.4km^2, 雌で3.4km^2であった。主に飼育下でのツキノワグマの繁殖生理学的研究により, 雄では季節繁殖性が顕著に認められること, また雌では着床遅延や冬眠中の出産といったクマ類特有の繁殖生理機構を有していることが解明された。これらの結果より, 将来にわたってツキノワグマを保護していくためには, 繁殖の成功につながる十分な食物環境を確保することが肝要であると結論づけることができる。