- 著者
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南 憲治
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.A67-A80, 1984-02-01
本研究では,性役割に対する考え方が大きく異なると思われる2つの地域の小学生に質問紙調査を行い,児童の性役割の受容度に地域差がみられるか否かを検討しようとした。具体的には男尊女卑の傾向が根強く残っており,これと結びついて男女それぞれに望ましい行動様式が決まっている沖永良部島の1小学校と,男女を差別的に扱う伝統的な性役割観から男女の役割の違いを強調しない方向へ変わりつつあると考えられる兵庫県の2小学校を取り上げた。沖永良部島は鹿児島市から約500km南にある,人口,約17,000人の離島である。調査を行ったO小学校の児童の大半は農家の子どもたちである。田畑において男は主に農機具を使い,力を要する作業に従事しているのに対して,女は補助的な仕事(草を取ったり,花を摘むなど)をするだけであり,男女の役割は明確に区別されている。家庭でも男女の仕事は異なり,母親が炊事をしている間,父親は牛などの家畜の世話をしている。そして,男子は父親,女子は母親の仕事を手伝いながら大きくなり,男女それぞれに期待される役割は小さい時からはっきりと異なっている。これに対して兵庫県の2小学校は,大阪のベッド・タウンに当たる宝塚市のN小学校と,神戸市近郊に位置する三木市のM小学校で,ともに新興住宅地にあり両小学校ともサラリーマン家庭の児童が多い。また,共働き家庭の児童も多く,「男は仕事,女は家庭」といった伝統的な性役割観にも変化がみられ,男女の違いが強調されることは比較的少ないと考えられる。ところで,従来の調査によると,小学校の中学年頃から性役割の受容度において男女差が現れ,女子の性役割の受容が困難になることが指摘されている。たとえば,高橋(1968)は,小学校の1年生から中学3年生までの子どもに,自分の性に生まれてよかったか否かを尋ねた。それによると,男子は一貫して自分の性に対する評価が高いのに,女子の場合は,自分の性に生まれてよかったと回答する者の割合が,小学校の4,5,6年から急速に減少している。そこで,本調査では,性役割の受容において男女差が生じてくると思われる小学校の4,5,6年生を調査対象に選び,前述の性役割の受容度における地域差と同時に,男女差もあわせて明らかにしようとした。