- 著者
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吉益 光一
山下 洋
清原 千香子
宮下 和久
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.6, pp.398-410, 2006 (Released:2014-07-08)
- 参考文献数
- 86
- 被引用文献数
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児童の注意欠陥多動性障(attention-deficit/hyperactivity disorder; ADHD)は,年齢あるいは発達に不釣合いな注意力および/または衝動性,多動性を特徴とする行動の障害で,社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されているが,詳しい発症機序は不明である。近年学習障害および高機能自閉症とともに文部科学省による特別支援教育の対象に選ばれるなど,日本でも社会的関心が高まっている。しかしながら疫学的視点からみると統一された疾病概念や診断基準が長く確立されなかったため,有病率やその性比などの数値も過去の研究では一致していない。日本に比べて精神疾患の診断・統計マニュアルなどの客観性に秀でた操作的診断基準が臨床現場で普及している欧米においても同様である。近年欧米を中心とする疫学研究によって,ADHD は遺伝・環境要因による多因子疾患であることが明らかになりつつある。環境要因では主に妊娠中毒症や出産時の頭部外傷などの周産期障害が重視されてきたが,近年では妊娠中の母親の喫煙や飲酒など,胎生期における中毒性物質への曝露や家庭の社会経済的状況が注目されている。一方遺伝要因では両親の精神疾患の既往や,ドーパミン関連遺伝子多型との関連性が指摘されている。しかし,これら環境および遺伝要因と ADHD との関連性についての研究は日本をはじめ非欧米圏では全く行われておらず,要因間の交互作用の検証も含めて今後の研究結果が待たれている。 一方,臨床場面においては,子どもの注意や行動の制御機能とそれに関わる成育環境の発達経過に沿った変容を踏まえて,治療の開始時期やその際に標的となる問題を的確に捉える必要がある。とくに行為障害や反抗挑戦性障害などの併存障害は重要な要因であり,包括的視点を要する問題である。したがって ADHD の治療についても,前述の環境的・遺伝的な病因論を踏まえ,医療,教育,司法,行政なども含有した多次元モデルに基づく包括的治療プログラムの重要性が唱えられており,その有効性について今後の実証的な検証が求められている。