著者
古市 保志 加藤 幸紀 中塚 侑子
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ナタマメはマメ科の植物であり、古くから膿とり豆として知られ、漢方薬として使用されてきた。本研究では、In vitro におけるナタマメ抽出物(SBE)の抗炎症作用、マウス実験的歯周炎に対するSBEの効果、マウス実験的歯周炎とマウス実験的RAの関連性、実験的歯周炎・RA併発マウスに対するSBEの効果、に関する検討を行った。その結果、SBEの飲用によって歯槽骨の吸収が抑制されたこと、また歯周炎と関節リウマチの併発動物実験モデルにおいて関節炎の進展と歯槽骨の吸収が抑制されたことが明らかにされた。SBEが炎症性サイトカインの産生を抑制し歯周炎や関節リウマチの発現・進行を抑制する可能性が示唆された。
著者
寺田 裕 長澤 敏行 小西 ゆみ子 尾立 達治 森 真理 森谷 満 舞田 健夫 井出 肇 辻 昌宏 川上 智史 古市 保志
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.432-443, 2016 (Released:2016-10-31)
参考文献数
40

目的 : 歯周病を含む口腔の健康状態と脳梗塞や虚血性心疾患といった心血管疾患との関連については以前から研究されているが, 残存歯の咬合状態を含めて検討したものはほとんどない. 本研究では心臓血管疾患の既往と, 残存歯の健康状態ならびに咬合接触との関係を明らかにすることを目的として, 大学病院の内科と歯科の両方を受診している患者の歯科および内科の診療記録を分析した. 対象と方法 : 北海道医療大学病院の内科と歯科を受診しており, 血液検査・歯周組織検査ずみの93名を対象とした. 対象者は脳梗塞および虚血性心疾患既往の有無で分類後, 診査または検査項目の種類に応じてPearsonのカイ二乗検定, Fisherの正確確率検定, あるいはMann-Whitney検定を行った後, 二項ロジスティック回帰分析で関与している予測因子を解析した. 結果 : 93名中脳梗塞の既往者は8名, 虚血性心疾患の既往者は16名であった. 脳梗塞の既往者はEichner Cで有意に多く, Eichner Aで少なかった (p=0.015). 脳梗塞の既往者の総コレステロール (p=0.023) とHDLコレステロール (p=0.005) は低かった. 虚血性心疾患の既往者では, どの変数にも有意差はみられなかった. 脳梗塞の既往を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析では, Eichner C該当者 {p=0.013, オッズ比 (OR)=17.381, 95%信頼区間 (95%CI)=1.848~163.489} およびHDLコレステロール (p=0.020, OR=0.894, 95%CI=0.813~0.982) が有意な独立変数であることが明らかになった. 虚血性心疾患の既往者に対しては, 統計学的に有意に成立する回帰モデルは構築できなかった. 結論 : 脳梗塞の既往と, 上下顎の咬合接触の喪失を伴う歯の欠損との間で関連が示唆された.
著者
石原 匠 松岡 紘史 長澤 敏行 古市 保志 辻 昌宏 千葉 逸朗
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.47-60, 2021-06-30 (Released:2021-07-08)
参考文献数
32

歯周病が循環器疾患の発症に影響を与えることを示唆した報告はいくつかあるが,交絡因子となる幅広い因子を一度に調整した研究は殆どない。本研究の目的は,多数の交絡因子を調整するために健康保険の大規模なレセプトデータを用い,歯周病の病態や歯周治療が循環器疾患の発症に及ぼす影響を明らかにすることであった。全国健康保険協会(協会けんぽ)北海道支部に所属し,2014年に特定健康診査を受診し歯科受診をしていない者235,779名を対象とし,特定健診データ,医科及び歯科レセプトデータを用いて分析を行った。2015年の歯科レセプトを使用し「歯科受診なし」,「歯科受診1~4回」,「歯科受診5回以上」の3つの対象者分類に区分した。2015年と2016年における脳梗塞と心筋梗塞の新規発症の有無を目的変数,2015年の対象者分類と交絡因子を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。2015年の脳梗塞の発症を用いたロジスティック回帰分析の結果,歯科受診なしを基準とした場合,1~4回及び5回以上の脳梗塞発症に関するオッズ比が有意であり(1~4回:1.95,5回以上:1.63),歯周病によって脳梗塞の新規発症リスクが高まる可能性が示唆された。また,2016年の脳梗塞の発症を用いた場合でも同様の結果が得られており(1~4回:1.63,5回以上:1.61),歯周治療の開始から1年が経過しても脳梗塞発症のリスクは変化していない可能性が示唆された。
著者
安彦 善裕 齊藤 正人 長澤 敏行 永易 裕樹 古市 保志 辻 昌宏
雑誌
北海道医療大学歯学雑誌 (ISSN:18805892)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.25-32, 2010-06

糖尿病患者における口腔粘膜の創傷治癒が遅延するメカニズムについて、口腔粘膜の創傷治癒とそれに影響を及ぼす因子、糖尿病での血流・血管新生、免疫能の変化、糖尿病での唾液量と成分の変化、糖尿病での成長因子の変化、糖尿病患者の心理的ストレスに分けて考察した。創傷治癒遅延には様々な現象が関わると考えられ、これらの現象が影響しあい遅延を引き起こしているものと考えられる。
著者
尾形 美和 白井 要 古市 保志
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.47-56, 2019-03-29 (Released:2019-03-28)
参考文献数
9

歯科処置の中でも歯周治療は治療頻度が高い処置であるが,観血処置であることからも菌血症を引起す可能性がある。本症例は,人工弁置換術の全身既往がある患者に対し,感染性心内膜炎予防に配慮し非外科的に歯周治療を行いSPTに移行した一症例である。患者は67歳男性で,下顎前歯の動揺を主訴に来院した。歯科既往歴が僅少であることで,歯科恐怖症を抱え,脳梗塞の既往から右半身麻痺であった。さらに多数の全身性疾患を有しており,付随し服用薬剤も多種であったことから,内科との連携を密に歯周治療を行うこととした。患者には,心臓弁置換術の既往があると菌血症によって感染性心内膜炎を併発するリスクが高く,歯周病がその動因になり得ることを説明した。その上で患者自身の口腔環境が,実際に菌血症を引起こしやすい状態であること,またブラッシングの重要性を説明し歯周治療の必要性を訴え歯周治療参加への同意を得た。結果,主訴である下顎前歯(41歯)は抜歯処置となったものの,歯周基本治療後の再評価時にはPCR値17.2%となった。また下顎前歯部に対し,当初の治療計画では補綴処置を行う予定であったが,歯周組織状態が安定していることからMTMを行い,歯列不正を正すことでブラッシングを行いやすい歯周環境を構築することとした。延いてはPCR値20%以下を維持しSPTに移行した。SPT中もブラッシングに対し高いモチベーションを保持していたため,全身疾患も悪化することなく経過した。感染性心内膜炎の発症を予防するためにも口腔衛生管理の徹底は不可欠である。
著者
上與那原 朝秀 日高 竜宏 白井 要 門 貴司 長澤 敏行 古市 保志
出版者
北海道医療大学歯学会
雑誌
北海道医療大学歯学雑誌 = The dental journal of Health Sciences University of Hokkaido (ISSN:18805892)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.7-19, 2013-06

担体とヒト歯根膜由来間葉系細胞群(HPDL細胞群)からなる埋植体をヌードマウス背部皮下に移植し、埋植体へのFGF-2およびBMP-2の添加が血管組織形成や骨様組織形成に与える影響について検討した。その結果、HPDL群にFGF-2とBMP-2を併用添加すると、担体のみと比較して血管数および新生骨形成の有意な増加がみられ、内部には新生血管を含む骨新生が形成されることが示された。また、増加した血管および骨形成はHPDL細胞群に由来する可能性が示された。以上より、HPDL細胞群を含むFGF-2およびBMP-2の併用による移植は、組織再生に有用である可能性が示唆された。

1 0 0 0 OA 歯周治療とEBM

著者
古市 保志
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.18-27, 2015 (Released:2015-02-17)
参考文献数
43

歯科医学および歯科治療学においてEBM(Evidence Based Medicine) あるいはEBD(Evidence Based Dentistry) の概念が提唱されて久しい.1965年に歯周病が歯肉辺縁部歯面に付着したプラークであることがヒトにおける実験的歯肉炎によって証明されて以来,歯周病学および歯周治療学について様々な科学的データが蓄積され,それに伴い歯周治療は急速な発展を遂げた.まず,1970年代に,プラークコントロールを基本とする歯周治療の科学的な根拠が提示され,歯周基本治療および歯周外科を中心とする修正期歯周治療の内容が確立された.それに続き1980年代から2000年にかけて,GTR法およびエナメルマトリクス蛋白の応用などの歯周組織再生療法が開発され,世界各国の研究機関でその有用性について検証が行われた後,多くの国で臨床応用に至っている.また,歯周組織の長期的な安定を保つには,歯科補綴的な介入が不可欠であり,その科学的な根拠も示されている.ここでは,現在一般的に行われている歯周治療の科学的な根拠を提示すると共に,それらの歯周治療の実践によって長期的保存の予知性が低い歯でも保存可能であったことを報告した論文を提示する.