著者
中西 正彦 古澤 拓郎 中井 検裕
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 第38回学術研究論文発表会 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
pp.38, 2003 (Released:2003-12-11)
被引用文献数
2 1

近年、都市再生が国家的な課題として議論される中、民間事業者や学者等から規制緩和を求める声が上がっており、その一つに既成市街地における容積移転をめぐる議論がある。 容積移転については、2000年の都市計画法及び建築基準法の改正により「特例容積率適用区域制度」が創設され、商業地域内において一定の条件を満たせば、離れた敷地間でも容積移転が可能になった。この制度により、土地の高度利用が進むとの期待が持たれているが、どのような容積の移転が起こるかは予測されていない。また、起こりうる移転によって都市に悪影響を与えないようにする為の都市計画の役割も重要であるといえる。 容積移転に関して、現状で移転候補地を抽出し、容積移転の可能性について研究したものはない。 そこで本研究では、_丸1_特例容積率適用区域制度を東京都中心部の千代田区、中央区、港区、台東区に適用する際の移転候補地の抽出により量的な把握を行い(3章・4章)、考えられる容積移転のパターンを示す(5章)と共に、_丸2_移転に伴うインフラ等への負荷の検証により、区域設定及び望ましい容積移転のあり方に関しても考察し(6章)、容積移転制度の運用指針に一定の示唆を与えることを目的とした。最終的には、これらの分析の上で、容積移転制度の現状における可能性と問題点、解決の方向性について考察を行い、以下の結論を得た。 まず、容積移転候補地として、4区合計で容積の出し地が約152ha分、受け地が225ha分抽出された。また、それを踏まえ、容積移転が起こり得ると予想された東京都中心部の3地区において現行の制度を前提とした検証を行った結果、局地的に大きな容積の移転が起こった場合には、最悪の場合、道路、鉄道、歩道容量等の基盤面に大きな影響が出る可能性が示された。すなわち、現行の制度の枠組みの中で都市計画が関わる区域設定のみで制御できない特性への対処が求められている。 よって、容積移転の可能性をあげていくために、制度の趣旨上、区域は広く設定されることが望まれるが、その上で基盤負荷とのバランスを考慮に入れる為に現行の体系から一歩踏み込んで、例えば、床の集中に伴う交通量増加を抑える為に容積移転を利用した建造物に複合用途の義務づけを行ったり、災害時の歩道容量の不足を考慮に入れて防災への配慮を促したりするなど、個々の移転に関して基盤面を考慮に入れつつ建築規制の中で対応していくことが望まれる。
著者
牧 紀男 鈴木 進吾 古澤 拓郎
出版者
京都大学防災研究所
雑誌
京都大学防災研究所年報 = DPRI annuals (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
no.51, pp.129-134, 2007

2007年4月2日午前7時40分頃(現地時間),ソロモン諸島国においてマグニチュード8.1の巨大地震が発生した(USGS, 2007)。この斜面崩壊と津波により,両州合わせて52名の死者が発生し,倒壊・流失家屋3, 150棟,被災世帯数4, 276世帯,被災人口24, 059人という大きな被害が発生した。本稿では,ソロモン諸島国ウェスタン州で発生した地震津波災害における1)被害の社会的様相,2)災害対応,3)復旧・復興対策の現状と課題などの災害過程の社会科学的側面について,現地でのインタビュー調査に基づき報告する。
著者
古澤 拓郎 清水 華 小谷 真吾 佐藤 正典 シブリアン リクソン アムリ アンディ
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

アジア・太平洋には多毛類生物いわゆるゴカイ類を好んで食する社会があるが、その近隣社会では釣り餌などにすぎず食料としては醜悪とみなされる。なぜ特定の社会だけがゴカイ類を好むのかを、生存、文化、楽しみという3点から研究した。ゴカイ類はタンパク質に富むが頻度と量は限られており、生存に必須であるとは判断できなかった。一方、生物時計により正確に太陽周期と太陰周期に一致して生殖群泳を行うので、それに合わせて儀礼を行うことで、田植えの季節を正確に知ることができる社会があった。また皆で採取し、共食を行い、祭りをすることが人々の楽しみになっていた。食料選択において栄養素以外の文化や楽しみの重要さを明らかにした。
著者
古澤 拓郎 石田 貴文 塚原 高広 ピタカカ フリーダ ガブリエル スペンサー
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

海面上昇は各地で生活や生業に影響を及ぼしていた。ソロモン諸島の技術的・財政的事情により、調査期間内に移住計画が実行に移されることはなかったために、移住された後にどのような影響がでるかまでを明らかにすることはできなかった。一方、移住計画がなく、隔絶された地域で、人口過密、海面上昇、資源不足などを抱える社会ではメンタルヘルスの問題を抱えていることが明らかになった。都市部での生活習慣病リスクを抑えるととももに、このような地域でのメンタルヘルスを解消することも今後の公衆衛生上の課題である。そして海面上昇対策においては、これらの健康問題を解消する適応策が立案される必要がある。
著者
石田 貴文 古澤 拓郎 大橋 順 清水 華
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

インドネシアで新たな公衆衛生的課題となっているストレスやうつ病を進化医学的に分析し、リスク要因としての遺伝的多型と、社会の個人主義化の影響を明らかにする研究である。セロトニン・トランスポーター遺伝子やオピオイド受容体遺伝子等の多型がうつ病やストレスと関係することが知られているが、最近の研究によればこのリスク型はアジアの集団主義的社会に多く、そのような個人が個人主義社会に移住することや、人間関係の急変により疾病を発症する可能性が指摘されている。個人主義化が進むインドネシアにおいて、国立中核病院等を拠点としたケース・コントロール研究と、地域社会での横断的研究を用いた研究デザインにより、この因果関係を検証する画期的研究であると同時に、その成果から健康社会の在り方を提案する社会実装型研究である。現在、マカッサルのハサヌディン大学と共同研究を推進しているが、他の研究協力校を開発するため、スマトラのメダンを訪問した。また、トラジャ族を調査対象集団としているが、マカッサルの南西に住むカジャン族の集落の現状を視察した。セロトニントランスポーターをコードするSCL6A4遺伝子のプロモーター領域内に位置する挿入欠失多型(5-HTTLPR)は、うつ病との関連が、μオピオイド受容体をコードするOPRM1 遺伝子エクソン1に位置するアミノ酸置換(rs1799971) は統合失調症との関連が報告されている。インドネシア人患者サンプル46名について、SCL6A4遺伝子の5-HTTLPR 多型をPCRと電気泳動 により、OPRM1 遺伝子のrs1799971をTaqMan法により遺伝子型を決定した。一方、ストレス指標としてテロメア長をPCRで定量した。