著者
板口 典弘 森 真由子 内山 由美子 吉澤 浩志 小池 康晴 福澤 一吉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.436-443, 2019-12-31 (Released:2021-01-04)
参考文献数
16

本研究は, 日常的に利用できるタブレットから取得できる情報を用いて, 書字運動および書字障害を定量的に評価する手法を提案することを目的とした。頭頂葉を含む病変を有する症例 5 名 (以下, 患者群) と高齢健常者 5 名 (以下, 統制群) が参加した。提案手法によって, (1) 書字障害を呈する症例のみにおいて, 字画間にかかる時間が長かったこと, (2) 症状にかかわらず, 患者群の速度極小点の数が統制群の範囲を越えて大きかったこと, (3) 複数症例で, 字画間の時間と距離の関係が統制群と異なっていたこと, (4) 統制群の字画間の時間と距離の相関係数は, 比較的安定であったことが明らかとなった。この知見に基づき, タブレットによる書字運動評価の有用性について議論した。
著者
吉澤 浩志
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.142-154, 2018-06-25 (Released:2018-08-29)
参考文献数
47

正常加齢においては様々な認知機能の低下が観察される.しかしその低下は一様ではなく,語彙能力のように高齢になっても相対的に保たれる機能と,記憶や情報処理速度のように加齢により急速に低下する機能がある.初期認知症の診断にあたり,正常加齢の特徴を押さえておく必要がある.また,病前に高い認知機能を持つ者は,一定の脳損傷や変性を受けても認知機能が保持されることが報告されており,「認知予備能」と考えられている.本稿では,これまで報告されてきた認知予備能の疫学研究,認知予備能の脳内基盤に対する神経画像研究を概観し,認知予備能から考えられる認知症の予防や非薬物治療の可能性についても考えたい.
著者
吉澤 浩志
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.301-310, 2016-12-25 (Released:2017-01-18)
参考文献数
27

左側頭葉にはWernicke領野とその周囲皮質,弓状束の一部,側頭葉前方部など,言語に重要な領域を数多く含む.それぞれの部位の損傷により特徴的な失語型をとり,失語症に伴って独特の読み書き障害を呈する.また局所脳損傷による純粋な読み書き障害の責任病巣として,従来から左角回を中心とする神経回路が重視されてきた.しかし本邦において,左側頭葉後下部損傷に伴う漢字に特異的な失読失書が数多く報告され,欧米圏からも語彙性失読失書の部位と想定された側頭葉下部がvisual word form areaとして数々の臨床報告と機能画像解析が示されてきた.以上から漢字と仮名は処理経路が異なることが明らかとなり,日本語における読み書きの二重回路説が提唱された.