著者
吉田 舞
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.671-687, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿は,外国人技能実習生の日本の労働市場への従属的包摂の仕組みを,受け入れ制度と労務管理に着目して考察する.技能実習生は,日本人労働者とは異なる労働力として,さまざまな制度的制約のもと,労働市場に組み込まれている.従来,これらについては,人権問題や労働問題として,その過酷な実態が告発されてきた.しかし,技能実習生は,必ずしも直接的な強制や,非人間的な抑圧だけで,管理されているわけではない.むしろ,その制度的立場ゆえに,「よくしてくれている」雇用主に対して,「ものが言えない」状況が強化されることもある.本稿では,このような視点から,制度と労務管理に組み込まれた「恩顧」のイデオロギーに着目する.そのために,以下を明らかにする.まず,地方の家族経営体で働く技能実習生の労務管理の事例から,職場における雇用主との疑似家族的労使関係や,労務管理の実態を明らかにする.次に,これらの労務管理に対する,技能実習生の4 つの対応パターン(耐える,帰国する,逃げる,闘う)を考察する.ここから,疑似家族的労使関係や制度的制約が実習生の対応選択に及ぼす影響を分析する.この結果,技能実習制度では,政策から現場レベルまで,「援助=よくしてやる」という恩顧の論理が貫徹しており,そのなかで,技能実習生が労働市場の底辺に組み込まれていることを明らかにする.
著者
宮崎 真理子 山本 多恵 渡邊 順子 藤倉 恵美 吉田 舞 秋保 真穂 良知 弘務 福士 太郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.62-64, 2018

<p>東北大学病院の血液浄化療法部は病院の中央特殊診療部門に属し, 腎臓学, 透析医学, 泌尿器科学をサブスペシャリティとする医師が, 全診療科の血液浄化療法に横断的に関わっている. 診療科の入院患者を対象に透析装置12台, 持続血液濾過透析10台の規模で, 直接の担当医ではないため, 緊急呼び出しは少ない. 結果的に女性医師が育児中も継続可能な環境を提供できる. しかし, 臓器別診療科が高度医療を実践する中で, 血液浄化療法のプロフェッショナルとして認知されるためには, 集中治療医学, 急性血液浄化, アフェレシスなどの領域の知識をもち, 各科の難治性疾患病態, 治療内容を理解し, 適切なタイミングで最適の血液浄化療法はいかなるものかを判断するなど, 常に研鑽が必要である. 「直面する現実の制約を理解する職場」 である必要はあるが, 「女性が働きやすい職場」 で満足することなく, ダイバーシティーを推進する先進的組織を目指す取り組みを考える.</p>
著者
吉田 舞
出版者
首都大学東京・都立大学社会学研究会
雑誌
社会学論考
巻号頁・発行日
no.34, pp.65-92, 2013-11

1991年,フィリピンのピナトゥボ山が噴火した.この噴火を機に,周辺地域の産業構造と労働市場は大きく変容した.本稿は,この過程で急速に市場経済に参入することになった先住民アエタを事例に,市場社会における排除の過程と構造について考察する.アエタは,火山の噴火後,伝統的な山仕事から平地1)の仕事へ移った.同時に,アエタは平地の労働市場で,劣った能力しか持たない安価な労働力2)として,排除されることになった.他方で,アエタは,市場社会での苦しい生活から脱出するため,市場的価値を受容していった.このようにアエタは,文化的にも市場社会へ取り込まれていった.その結果,アエタは生活向上が阻まれる市場社会において,ますます貧困化の道を歩み続けることになった.ここに,文化的強調と社会構造の結びつき(Merton 1949=1961:135)をみることができる.それこそ,市場社会における排除を持続させているものである.しかし,従来の社会的排除論は,社会政策の脈絡で議論されることが多かったため,社会構造(労働市場)からの排除に焦点、が当てられてきた.これに対して,本稿は,市場社会におけるアエタの排除の両面的な(社会/文化)構造を考察する.つまり,アエタの労働環境などの社会的なものだけではなく,人々が市場的価値へ適応していく文化的なものにも着目し,市場社会における排除の過程と構造を明らかにする.This paper discusses the social exclusion of the Pinatubo Aetas,a group of indigenous people in the Philippines,who were pushed to join the market economy immediately after eruption of Mt. Pinatubo in 1991. Since their entry into the labormarket,the Aetas' nature of work and values has been changing as they are physically and culturally incorporated into the market.However,when the Aetas enter the local labor market,they are tagged as "indigenous people" and categorized asnon-skilled laborers,which result in their marginalization. The Aetas eventually try to acquire the values and labor skills of thedominant market to sustain their livelihood and escape poverty.However,because of lack of access to market resources,they remain trapped in poverty. From as social perspective,the Aetas areexcluded in the labor market,although they are culturally included in the market value system. This paper points out these processesas being part of a structure of the Aetas' social exclusion. Further,this paper examines the linkage of this exclusion and the cultural inclusion of the Aetas. In a previous study on social exclusion,thephenomenon of exclusion was discussed within the context of social structures such as labor market,civil society,and state. TheAetas are not only marginalized by existing social structures; their value system is also gradually endangered as they are forced to acquire new skills and adapt to the market value system to survive.This paper examines specific examples of Aetas in the labor market from these viewpoints to capture the process andmeaning of their inclusion in the market society.
著者
大政 謙次 戸部 和夫 細見 正明 吉田 舞奈 小林 瑞穂
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.33-42, 2000-02-29 (Released:2010-06-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1

0.1~0.5,uLL-1のオゾン(O3)暴露下での15種の樹木の葉面におけるO3収着速度と蒸散速度,純光合成速度の同時測定を行った。また,芝地や土壌表面等のO3収着速度も調べた。 O3を暴露した15種のいずれの樹木においても,O3収着速度,蒸散速度および純光合成速度が低下した。このことは,O3暴露に伴って気孔の閉孔が引き起こされたことを示している。また,0.5,uLL-1のO3を6時間暴露した樹木の総O3収着量およびO3暴露終了時の純光合成速度の減少割合は,いずれも,樹種間で大幅に異なる値をとった。最も大きいO3収着量を示したポプラ(2.57kmolm-2(mo1/mol)-1)は,最も小さいO3収着量を示したヤマモモの7倍以上であった。また,サンゴジュ等では,O3暴露に伴う光合成速度の減少割合が数%程度であったのに対し,ポプラとポトスでは70%程度の減少が見られた。可視障害は,暴露後,ポプラ,ケヤキ,ヤマツツジの3種の植物にのみ現れた。樹木のガス交換速度の測定結果を簡易ガス拡散モデルによって解析したところ,樹木表面での吸着・分解は少なく,樹木によるO3収着のほとんどは,葉面の気孔を介しての吸収であると推察された。 黒ボク土表面のO3収着速度は,土壌含水率の増加とともに低下した。乾燥した黒ボク土表面の単位面積あたりのO3収着速度は,最も高いO3収着能力を示したポプラの単位葉面積あたりのO3収着速度に匹敵するものであった。このことは,緑地のO3収着能力を評価するうえで,土壌表面の寄与が無視できないことを示している。 以上の結果から,都市域における公園や宅地等における植被や土壌面は,O3による大気汚染の緩和に重要な役割を果たしていることがわかった。