著者
唐沢 穣
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.50-55, 2014

本報告では、裁判員制度の導入において強調された「市民の日常感覚を司法に反映させる」ことに伴ういくつかの問題点について、社会心理学の観点から考察した。まず、認知バイアスや感情が量刑判断に影響を与える可能性を指摘した。具体的には、(1)「係留-調整ヒューリスティック」をはじめとする直観的情報処理過程の影響が、一般市民だけでなく裁判官や検察官などの専門家においてさえも観察されること、(2)日常性の低い異常事態は反実仮想を喚起しやすく、その結果生じる後悔や同情などの感情が量刑や賠償に関わる判断を左右する可能性があること、(3)他者の行為は行為者の内的な原因(例えば個人の特性や動機、意図)をもって解釈されやすいという「対応バイアス」の存在、(4)そしてそれに付随して属人的情報が量刑判断に与える影響、などについて具体的な実験結果等をもとに議論した。次に、違反者に懲罰を加えようとする際の動機の源泉について、功利主義的観点と応報的正義の観点を対比した上で議論した。一般市民が司法に参加する制度を創設することによって、事実認定や量刑判断などに分散が生じることは当然の帰結とも言える。そこに系統的な影響をもたらす可能性のある認知バイアス等の心理的傾向とその特性を理解することの重要性は今後も増大していくことが予想される。
著者
柳 学済 堀田 美保 唐沢 穣
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究
巻号頁・発行日
2018

<p>個人間の罪悪感研究では,関係の維持が必要となる被害者に対しては,関係を修復するために罪悪感が生じやすいことが示されている。本研究では集団間においても同様に,集団間の相互関係が予期される外集団に対して,集団間の関係修復のために集合的罪悪感が生じやすいか否かを検討した。また,これまでの集合的罪悪感研究で一貫した結果が得られていない集団同一視の影響に対して,集団間の相互作用が調整効果を持つかどうかを検討した。60名の大学生を対象に小集団による得点の分配ゲームを行い,参加者は内集団との同一視(高vs.低)×外集団成員との相互作用の予期(ありvs.なし)の4条件のいずれかに割り当てられた。ゲーム内での内集団成員の外集団に対する不公正な分配により,すべての参加者に対して,集合的罪悪感を喚起させた。集団同一視の操作は,ゲーム内での分配における内集団成員の公正さの程度により行い,集団間の相互作用は,外集団への不公正な分配が行われたのちに外集団成員と共にゲームをするか否かを予期させることにより操作した。実験の結果,集団間の相互作用が予期される場合には,集団と同一視する集団成員において強い集合的罪悪感が生起し,相互作用が予期されない場合には,罪悪感が生起しない傾向が明らかにされた。</p>