著者
前田 拓也 上出 直人 戸﨑 精 柴 喜崇 坂本 美喜
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.29-36, 2021 (Released:2021-02-19)
参考文献数
46

【目的】本研究は地域在住高齢者の呼吸機能に対する運動機能,認知機能,体組成との関連性について検討した。【方法】対象は要介護認定のない65 歳以上の地域在住高齢者347 名とした。呼吸機能として努力性肺活量および1 秒量,運動機能として握力,下肢筋力,Chair Stand Test,Timed Up and Go Test(以下,TUGT),5 m 快適・最速歩行時間,認知機能としてTrail Making Test part A(以下,TMT-A),体組成として骨格筋指数および体脂肪率を評価した。呼吸機能と運動機能,認知機能,体組成との関連を重回帰分析にて分析した。【結果】年齢,性別,体格,喫煙などの交絡因子で調整しても,努力性肺活量は握力,TUGT,TMT-A と有意な関連を示した。同様に,1 秒量は握力,TMT-A と有意な関連を示した。【結論】地域在住高齢者の呼吸機能は運動機能,認知機能が関連することが示唆された。
著者
桑原 知佳 柴 喜崇 坂本 美喜 佐藤 春彦 金子 誠喜
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.505-515, 2011-12-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
22

【目的】発達に伴い変化する背臥位からの立ち上がり動作の完成までの,動作パターンおよび動作所要時間の変化を縦断的に調査し,発達に伴う健常児の立ち上がり動作の変遷を明らかにする。【方法】健常児11名を対象とし,平均年齢4歳0ヵ月から1年ごとに6年間継続して立ち上がり動作を観察し,動作パターン,個人内の動作パターンの一致率,動作所要時間の変化を調査した。【結果】立ち上がり動作パターンは,階段状に難易度が高い動作に変化し,8歳10ヵ月以降変化が生じなかった。動作が変化した時期には,個人内でも様々な動作パターンが観察された。また,動作所要時間は発達に伴い短くなり,動作パターンの変化が終了後も短くなった。【結論】縦断調査により,立ち上がり動作は,非線形に変化をしながら9歳頃に完成することが明らかになった。動作獲得においては,個人内・個人間の多様性に富み,個々に適切な動作を選択しながら発達していくことが示唆された。
著者
下瀬 良太 只野 ちがや 重田 枝里子 菅原 仁 与那 正栄 内藤 祐子 関 博之 坂本 美喜 松永 篤彦 室 増男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A2Se2038, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】随意筋収縮における筋力発揮の力-時間曲線は神経筋機能を評価する上で有効な情報を与えてくれる.特に高齢者は若年者に比べ筋力の発生からピークまでの力発達曲線(Rate of Force Development;RFD)が低い傾向にあり,不意の重心移動などに素早く対応できずに,転倒に繋がる事が多いといわれている.高齢者の転倒予防を考える際に,高いRFDの改善に繋がるトレーニングは重要である.RFDを変化させる因子には運動初期の速い運動単位(fast-MUs)の動員,発射頻度とその同期性や,運動単位の二重子的同期性(doublet discharge)が関与している.RFDの増加は高強度トレーニングによる報告が多く,fast-MUsの動員の寄与で起こると考えられている.しかし,高齢者に対して高強度のトレーニングは臨床的に適しておらず,日常動作で負荷が及ぶ筋力レベルの低強度の運動トレーニングが求められる.最近,低強度でfast-MUsの動員を可能にする皮膚冷刺激筋力トレーニング法が提案されているが,皮膚冷刺激がRFDにどのような影響を与えるかについての報告は未だ皆無である.そこで今回我々は,皮膚冷刺激がRFDに与える影響について検討し,高齢者への皮膚冷刺激筋力トレーニングの有効性についての一資料を得る目的である.【方法】本研究の説明を受け,同意の得られた健常成人男女8名(男性5名,女性3名,年齢34±10歳)を対象とした.被験者は椅子に座り,股関節屈曲90度,膝関節屈曲60度の姿勢で,「なるべく早く最大の力で」という指示のもと等尺性膝関節伸展運動を皮膚冷刺激(Skin Cold Stimulation; SCS)と非皮膚冷刺激(CON)の状態で行なった.SCSは冷却したゲルパック(Alcare製)を専用の装着バンドで数分間大腿四頭筋上の皮膚に密着させ,適切な皮膚温であることを確認して試行を行なった.CONも同重量の非冷却ゲルパッドを装着して行なった.試行順はランダムとし,各試行間では十分な休息をとり,皮膚温を確認して各試行を行なった.プロトコール試行中は,筋力出力と筋電図(EMG)を測定した.EMG(電極直径10mm,電極間距離30mm)は外側広筋(VL),内側広筋(VM),大腿直筋(RF)から双極誘導した.測定データはコンピュータに取り込み,後日解析を行なった.データ解析は力曲線の最高値(Fpeak)と微分最大値(dF/dtmax)を解析し,RFDは,0-30,0-50,0-100,0-200msecの区間での平均勾配を算出した.また各試行のFpeakで標準化したRFD(normalized RFD; nRFD)を,0-1/6MVC,0-1/2MVC,0-2/3MVCの区間の平均勾配として算出した.EMG解析は上述の各区間のroot mean square EMG(rmsEMG)を算出した.統計学的処理は各区間でのSCSとCONの値についてWilcoxonの符号付順位和検定を行い,統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究を行うにあたり,ヘルシンキ宣言に基づいた東邦大学医学部倫理委員会実験計画承認書を得た上で,本研究の意義と実験に伴う危険性を協力依頼被験者に十分説明し,納得して頂いた上で測定を行なった.【結果】SCSでFpeakとdF/dtmaxは有意に増加した.dF/dtmaxまでの到達時間はSCSで平均9msec短縮したが,有意差は見られなかった.RFDは,0-30msec,0-50msec区間でSCSにより有意な増加が見られた.またnRFDは,0-1/6MVC区間でSCSにより有意な増加が見られ,到達時間もSCSで有意に短縮した.筋活動は,0-30msec区間でRFのrmsEMGが増加し,0-100msecと0-200msecでVLのrmsEMGが増加した.nRFDの区間では,0-1/6MVCにおいてVMとRFのrmsEMGが増加し,0-1/2MVCと0-2/3MVCにおいてVLのrmsEMGが増加した.【考察】皮膚冷刺激によりRFDの増加が見られた.各筋のrmsEMGの増加傾向が見られたことや皮膚冷刺激によってfast-MUsの動員が引き起こされる結果,初動負荷の素早いオーバーカムが可能となり,RFDの増加に繋がったと考えられる.特に筋力出力の初期でRFDの増加が見られ,不意の重心移動に対して素早く対応できる可能性を示唆した.本研究において,皮膚冷刺激により筋活動・RFDは増加し,皮膚冷刺激は高齢者の転倒予防トレーニングに対して有用であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究において,高齢者の日常動作に類似した低強度でもfast-MUsの動員による筋機能改善の筋力トレーニングが提案でき,高齢者の転倒予防にも繋がる新しい筋力トレーニングとしての可能性を探るデータが得られる.そして,本研究は臨床運動療法の一戦略になり得る可能性を秘めている意味で理学療法研究として意義がある.
著者
中野 知佳 柴 喜崇 坂本 美喜 佐藤 春彦 三原 直樹
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.21-28, 2007-02-20
被引用文献数
1

本研究の目的は,背臥位からの立ち上がり動作パターンの推移を縦断調査により明らかにすることである。健常な幼稚園児17名を対象とし,年少クラス時(平均年齢3歳9ヶ月±4ヶ月)から2年間継続し,計3回,背臥位からの立ち上がり動作をビデオに記録した。そして,立ち上がり動作中の上肢,頭部・体幹,下肢の3つの部位に着目し動作パターンを分類した。その結果,上肢,頭部・体幹の動作パターンの推移では一定の傾向を示し,下肢の動作パターンの推移では,上肢,頭部・体幹の動作パターンの推移に比べ一定の傾向を示さず多様な動作パターンの推移が観察された。そして,動作パターンの変化は年少クラス時から年中クラス時(平均年齢4歳9ヶ月±4ヶ月)の間に生じていた。上肢では年少クラス時から年中クラス時にかけて,17名中9名が左右どちらか一側の床を両手で押して立ち上がるパターンから,片手,あるいは両手を左右非対称的に使い立ち上がる動作に変化し,頭部・体幹では,17名中6名が同様の時期に回旋の少ない立ち上がり動作を獲得した。これらのことから,発達段階における立ち上がり動作の評価には,上肢,および頭部・体幹の運動に着目し観察することが重要になると思われた。