著者
入江 洋正 松本 聡 兼清 信介 松田 憲昌 若松 弘也 松本 美志也 坂部 武史
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.519-524, 2010-10-01 (Released:2011-04-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

塩酸バンコマイシン(vancomycin, VCM)は,経口投与では腸管粘膜から吸収されないため血中への移行はないとされるが,血清濃度が上昇した2症例を経験した。【症例1】61歳の女性。敗血症,急性腎傷害,Clostridium difficile関連疾患(Clostridium difficile associated disease, CDAD)で,VCMの経口投与と静脈内投与,持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)を行っていた。ICU入室4日目にトラフ値が33.7μg/mlであったためVCMの静脈内投与を中止したが,血清濃度の高値が持続した(中止2日後43.5μg/ml,7日後45.0μg/ml)。【症例2】63歳の女性。敗血症,CDAD,急性腎傷害でVCMの経口投与,CHDFを行っていたが,投与10日目のVCM血清濃度は10.3μg/mlであった。2症例とも腸管粘膜傷害と腎機能障害を合併していたため,VCMの腸管粘膜から血中への移行,腎からの排泄障害によって血清濃度が上昇したと考えられた。
著者
又吉 宏昭 川井 康嗣 白源 清貴 大竹 由香 松本 美志也 坂部 武史
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.494-497, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

カルバマゼピン内服中に高度の低ナトリウム血症を生じ,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が疑われた症例を報告する.75歳の女性で,特発性三叉神経痛の治療をカルバマゼピンの内服と下顎神経ブロックで行っていた.下顎神経ブロックの効果が減弱し,カルバマゼピン600 mg/日でも痛みがコントロールできなかったので,下顎神経ブロックの目的で入院した.入院当日夜に痛みが増強し,血圧が上昇した.カルバマゼピン100 mgを追加した.翌日から気分不良,全身倦怠感,嘔気と頭痛が生じた.血清ナトリウムが119 mEq/Lと低下していた.尿量が減少しており,血漿浸透圧が低値で,尿浸透圧は高値であった.カルバマゼピンを中止し,水分摂取を制限した.入院8日目に血清ナトリウムは 135 mEq/Lに改善した.その後,下顎神経の高周波熱凝固を行い,痛みは消失し,カルバマゼピンを中止した.カルバマゼピンによるSIADHの頻度は低いが,注意すべき副作用である.三叉神経痛で,薬物療法の副作用が生じた場合は,高周波熱凝固術は有意義であると考えられた.
著者
森本 康裕 鶴田 俊介 坂部 武史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.378-386, 2005 (Released:2005-07-29)
参考文献数
17

脳動脈瘤に対しては開頭下に動脈瘤にクリップをかけるクリッピング手術が一般的であったが, 最近は血管内手術も増えてきた. 麻酔法としては, プロポフォールの登場で吸入麻酔薬あるいは静脈麻酔薬による麻酔維持の使い分けが可能になった. 脳動脈瘤手術は緊急手術となることが多く, まず患者の重症度や全身合併症を把握する必要がある. 麻酔のポイントは脳灌流圧と動脈瘤の経壁圧を保ち, 動脈瘤の破裂 (再破裂) を防ぎ, 脳の腫脹を抑え, 脳血管攣縮を予防することにある. 麻酔薬および麻酔関連薬の脳循環, 代謝への影響を理解し, 脳神経外科医と十分なコミュニケーションをとり個々の患者の病態に応じて適切な管理を行うことが重要である.
著者
内本 亮吾 鶴田 順子 村川 敏介 坂部 武史
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.42-48, 1998

麻酔導入時にイソフルラン/酸素の低流量麻酔を行ない,それに適する酸素流量を検討した.流量は0.5, 1, 2, 4, 6l/分(各12例)とした.FIO<sub>2</sub>0.9となるまでの時間は,0.5,1l/分ではそれぞれ44±12分と20±6分で,他の流量の場合より有意に長かった.FIO<sub>2</sub>0.96となるまでの酸素使用量は2l/分が最少(平均43l)で,1l/分以下では生体の酸素消費量が,4l/分以上では余剰酸素量が総酸素使用量増加の原因と考えられた.2l/分以上では,用手換気5分後の呼気イソフルラン濃度(気化器設定5%)は,1.76%(1MACintubation)以上となった.血行動態は4l/分以上で挿管前からの心拍数増加,1l/分以下で挿管後の血圧上昇を認め,2l/分で比較的安定していた.以上より,できるだけ少ない流量で麻酔導入する場合の酸素流量は,2l/分が適当と考えられた.
著者
石田 和慶 松本 美志也 平田 孝夫 坂部 武史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.526-534, 2008-06-15 (Released:2008-08-13)
参考文献数
33

虚血に伴う神経細胞傷害に蛋白を成熟させる細胞内小器官である小胞体 (ER) が関与する. 虚血によるアミノ酸やglucoseの低下, ER内Ca2+ 低下は異常蛋白蓄積を生じ, ERストレスとなる. 蓄積した異常蛋白のrefoldingにER chaperone GRP78が使われ, ER膜上のキナーゼ (PERK, ATF6, IRE1) を活性化する. いずれもERストレスを改善する遺伝子 (grp78など) を転写するが, PERKはeIF2αのリン酸化によりmRNAの翻訳を抑制し, 蛋白合成を阻害する. 虚血耐性では, GRP78の発現亢進と本虚血後のeIF2αのリン酸化が生じにくく, 異常蛋白の修復が速く, 蛋白合成抑制が生じにくい. バルプロ酸などによるGRP78の増強, ERの保護は神経細胞保護につながる.