著者
和田 修二 高木 英明 田中 昌人 坂野 登 柴野 昌山 岡田 渥美
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

今年度において特に明らかになった重要な知見として次のようなものがある。1.今日の大学教育のあり方を考える上で、最も重要な論点の一つは、大学教育におけるいわゆる「一般教育」の位置づけにあると思われる。しかし、戦後の大学改革の経過においても「専門教育」と「一般教育」との接続の仕方は未だ十分に改善されているとは言い難く、その結果「一般教育」の必要性すら疑問に付されている。しかし、一方で専門的な学習・研究にとって「一般教育」は依然として不可欠であり、また他面、現在ではむしろ大学が融通の効かない専門家ではなく、「一般教育」を十分に身につけ広い視野をもった人材育成の場となることも各界から望まれているという事実もあり、この点に鑑みれば、「専門教育」の準備段階としてのみならず、それをより高い次元で総合し、広め深めるもっと積極的な意義と位置を「一般教育」に与えることが、今後の大学改革にとって必要な視点と思われる。2.今日の大学のあり方の問題に関わって、企業による新卒学生の選抜過程や、学生生活の実態の調査から次のような新しい観点も提出された。従来大学の機能は専ら専門的な技能や知識の習得にあると考えられてきたが、しかし現実には、大学は各学生の一種の社会化をフォ-マル・インフォ-マルに促進する「かくれた」機能ももっており、この点も明確に考慮にいれた大学の改革が必要である。3.近年社会人の再教育・継続教育の場として大学が注目されているが、大学入試制度の一環たる社会人入学の選抜方法は未だ模索中であると言える。わが国の選抜方法は、諸外国に比べ入学希望者にとって比較的条件の厳しいものであり、この点では更に多様で開かれた選抜方法の可能性が検討される必要がある。

1 0 0 0 OA 脳とこころ

著者
坂野 登
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.162-170, 2010-03-30 (Released:2012-03-27)
参考文献数
45

本稿では, (1)著名な心理学者, 神経生理学者, 理論物理学者による脳とこころの関係に関するいくつかの問題提起について検討した。その結果, 脳とこころは, 同一事象の異なった形式でのあらわれであるという立場から, こころの脳への局在性の問題を, (2)モジュラリティ説対勾配説の論争, (3)自閉症において脳の結合性が低いという特徴, (4)こころの理論の脳的基礎に関するfMRI研究の成果を通して紹介し, (5)最後に, 自己あるいは他者のこころの状態を理解する上で, 右半球のセルフレファレンス機能が, 重要な役割を果たしていることが議論された。
著者
坂野 登
出版者
京都大学
雑誌
京都大学教育学部紀要 (ISSN:04547764)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.115-134, 1989
被引用文献数
1
著者
坂野 登
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

・研究1では、左右の前頭葉機能の個人差を測定する目的で開発された「順序性の記憶」に関する神経心理学的パフォ-マンス・テストバッテリ-を、ブックレット方式とカ-ド式によるテストとして作成し両者の比較を行った。課題は線画の中にひらがなが埋め込まれている、かくし図形の系列の記憶テストである。ブックレット方式によって十分にその目的を達成できることが明らかになったので、集団実験と個別実験結果を合わせてテストの妥当性を検討した。前頭葉機能の個人差と関係すると考えられる腕組みを指標にしたところ、腕組みで右腕が上の左前頭葉優位のタイプは文字の順序性の成績、左腕が上の右前頭葉優位のタイプは絵の順序性の成績と関係し、いずれのタイプでも分析性・抽象性の低い認知スタイルの被験者の成績がよいことが明らかになった。・研究2では、研究1と同一のテストの回答方式を空間認知テストに変更しその変化を見たが、その結果腕組みではなく、知覚・認知的機能の個人差と関係していると考えられる指組みによって、文字と絵認知の速さの個人内変動を弁別できた。すなわち、左半球での知覚・認知的機能と関係する右指上のタイプでは文字認知の変動が相対的に大きく、逆に右半球優位の左指上のタイプでは絵認知の変動が相対的に大きかった。・研究3では、様々な神経心理学的テストを遂行時の脳波パタ-ンの因子分析的研究を行い、左半球課題と右半球課題および個人差を分離することができた。・研究4では、研究1で用いた順序性の記憶テストを研究3の課題に追加して分析し、半球優位性と個人差について検討したところ、全般的には左半球優位的な課題ではあるが、しかし個人によってはそれが右半球優位の課題として用いられているという個人差を見いだすことができた。