- 著者
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棟居 洋介
増井 利彦
- 出版者
- 社団法人 環境科学会
- 雑誌
- 環境科学会誌 (ISSN:09150048)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.3, pp.167-183, 2012 (Released:2013-06-11)
- 参考文献数
- 27
地球温暖化対策や循環型社会の構築を目的として,石油化学プラスチックを植物由来のバイオマスプラスチックへ代替していく動きが始まっているが,バイオマスプラスチックの主原料はトウモロコシやサトウキビなどの食用作物であり,その普及は途上国の食料不安を増大させる可能性がある。そこで,本研究では国際応用システム分析研究所(IIASA)の修正SRESシナリオにもとづいて,2050年までのバイオマスプラスチックの普及と原料作物需要の関係を分析し,途上国の食料不安に及ぼす影響の評価を行った。バイオマスプラスチックの普及率はBREWプロジェクトの予測から想定し,原料作物についてはサトウキビおよびトウモロコシの実,葉茎を想定した。本研究から以下のことが明らかになった。1)世界全体のプラスチック需要量は,2009年には2億3,000万トンであったが,2050年にはA2r,B1,B2の3つのシナリオで,各々8億3,100万トン,12億1,100万トン,10億7,000万トンまで増加する。需要の増加のほぼ全てはアジアを中心とする途上国で起きる。2)バイオマスプラスチックの普及率が2050年に8%から62%に達すると想定すると,原料としてトウモロコシが1億1,200万トンから11億100万トン,サトウキビが4億1,600万トンから40億9,500万トン必要になる。これらの原料需要の最大値は,同年のトウモロコシとサトウキビの食用生産見込み,9億5,900万トン,19億6,600万トンを上回る。3)途上国の食料不安の主因は貧困であり,バイオマスプラスチックの普及率が低いシナリオでも,その需要の増加は食料価格の上昇を通して低所得国の食料不安を増大させる可能性が高い。4)バイオマスプラスチックについてもバイオ燃料と同様に,その利用に関する持続可能性基準の策定が必要である。