著者
増井 太樹 横川 昌史 高橋 佳孝 津田 智
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.352-359, 2018-11-30 (Released:2019-05-14)
参考文献数
47

自然公園における法面緑化指針において,緑化は自然の植生遷移の力を最大限活用することとされている。そのため,植生復元においては斜面崩壊後の植生回復状況を明らかにすることが重要である。そこで本研究では熊本県阿蘇地域の半自然草原において異なる時期に崩壊した複数の斜面(崩壊後4年:NLSおよび26年:OLS)と,それに隣接する崩壊が確認されていない斜面(C)で植生調査を実施し斜面崩壊後の半自然草原の植生状況を明らかにした。斜面崩壊後の植被率は,NLSよりもOLSでは高くなっていた。優占種はOLSではトダシバやヤマハギであったが,Cではススキとなり,斜面崩壊からの年数により異なった。種組成もそれぞれ異なり,オミナエシなど斜面崩壊後26年目の草原で出現頻度が高くなる種が存在した。すなわち,異なる年代の斜面崩壊地の存在が様々な植物の生育を可能にしていると考えられた。これらのことから,半自然草原の斜面崩壊地では時間の経過とともに植生が回復する場合があること,そして,異なる年代の斜面崩壊地に由来する植生が阿蘇地域の半自然草原の種多様性を高める要因となることが示された。
著者
増井 太樹 安立 美奈子 冨士田 裕子 小幡 和男 津田 智
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-25, 2020 (Released:2020-07-07)
参考文献数
54

1. 本研究では国内の4つの半自然草原において火入れ地と,火入れをしていない対照地で同時期に地温測定を実施し,火入れ後の半自然草原の地温変動の特徴を明らかにした.2. 調査の結果,いずれの調査地においても火入れ地の方が対照地に比べ,火入れ後の日最高地温は高く,40°C以上になった地域もみられた.一方,日最低地温は火入れ地と対照地で違いがなかった.そのため,日最高地温と日最低地温の差(日較差)は火入れ地の方が大きくなった.この日較差は火入れから3-4か月間継続するものの,それ以降になると火入れ地と対照地の地温差はなくなった.3. 火入れ後の日最高地温は,海外の火入れ地の乾季における計測結果と同様に高くなることが示された.しかし,本研究では火入れ地と対照地との地温差がほとんどない日も存在し,日本のような温暖湿潤気候では降水が多いため,一定の乾季をもつ地域とは異なる地温変動パターンを示したものと考えられた.4. 地温変動が生じた要因として,火入れによりリターが消失することで,光が地面に直接当たるようになり地温が上昇したものと考えられた.火入れから4-5か月ほど経過すると火入れ地と対照地の地温差がなくなったのは,火入れ後に一度消失した植生が次第に繁茂し,光を遮ることで火入れ地と対照地が同じ環境となり地温差がなくなったものと考えられた.5. 日本の半自然草原で火入れを行うことで,火入れ後の地温を変化させ,日最高地温が上昇し日較差が大きくなった.このことは,火入れを行うことで,発芽適温が高い植物や,変温条件が発芽のシグナルとなっている植物の発芽を促進させ,それにより半自然草原の群落の維持に影響を及ぼしている可能性があることを示している.
著者
冨士田 裕子 菅野 理 津田 智 増井 太樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.279-296, 2018 (Released:2018-12-27)

北海道の東部に位置する濤沸湖は、砂嘴の発達によって形成された海跡湖で、汽水湖でもあるため藻場や塩性湿地も発達し、オオハクチョウやヒシクイ等の渡来地として、ラムサール条約の登録湿地となっている。現在、濤沸湖は網走国定公園特別地域に指定されているが、今後の保全計画等の立案に資するため、2001-2015年に維管束植物相調査を実施した。特に2014年は季節を変えながら集中的に調査を行い、カヌーを使用した水草調査も実施した。確認した植物はさく葉標本にし、証拠標本として北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園の植物標本庫(SAPT)または岐阜大学流域圏科学研究センターの植物標本庫に保存した。調査の結果、82科331種類の維管束植物が確認された。環境省のレッドリスト掲載種は27種が生育していた。また、湖内では11種類の水草が確認され、そのうち6種がレッドリスト掲載種であった。一方、北海道の外来種リストに掲載されている種は44種類出現し、路傍や法面での採集が多かった。過去の維管束植物相調査と比較すると、今回の調査によって、これまで記載されていなかった130種類が確認され、季節を考慮した集中的で広範囲にわたる植物相調査の必要性が明らかになった。一方、水草については、過去に出現報告があるにもかかわらず今回確認できなかった種が4種存在し、それらはすべて淡水性の水草であった。特に湖の上流側にあたる南端部分での環境変化が、水草の生育に影響を及ぼしている可能性が示唆された。