著者
志賀 隆 横川 昌史 兼子 伸吾 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & KadonoとナガレコウホネN.×fluminalis Shiga & Kadonoは残存集団がそれぞれ4集団のみであり、絶滅が危惧されている水生植物である。それぞれの生育面積はわずかであるにもかかわらず、近年、群落の一部を根こそぎ持ち去るような、園芸目的の盗掘と思われる被害が確認されるようになった。本研究では、形態形質の調査とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座の遺伝子型解析を行うことにより、市場に流通しているシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、これに加え「ナガバベニコウホネ」の流通名で販売されている植物についてC社とT社から購入し、産地の特定を試みた。ナガレコウホネについては現存個体の多座位遺伝子型を明らかにするために、全ての現存集団から合計59サンプルを得て遺伝子型解析を行った結果、19種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株の形態形質を調査した結果、T社の「シモツケコウホネ」(T1)はシモツケコウホネであったのに対し、C社の流通株(C1〜C9)は全てナガレコウホネであった。また、流通株の遺伝子型を決定した結果、2種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株から得られた多座位遺伝子型に対応するものが野生集団で確認されるか検討したところ、T1は日光市(NIK)のシモツケコウホネ(NIK-25)と、C1〜C9は同一クローンであり、佐野市(SAN)のナガレコウホネ(SAN-10)と多座位遺伝子型が完全に一致した。日光市と佐野市の各集団において、NIK-25とSAN-10と全く同じ多座位遺伝子型を持つ別個体が集団内の任意交配により生じる確率(PG)はそれぞれ0.00034と0.00030であることから、日光市および佐野市において採集された2種類の株が流通していたことが示唆された。全個体遺伝子型解析に基づく遺伝子型データの整備は流通や盗掘に対して抑制的な効果をもたらすことが期待できる。
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.107-111, 2021-03-31

2020年に入ってから,全世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっている.日本国内 において,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,春の半自然草原の火入れを中止した地域が 多数見られた.感染症が草原の管理に影響を与えた記録は重要だと考えられるため,インターネット 上で見つけられた新型コロナウイルス感染症に関連した火入れの中止について記録した.2020年2月下 旬から5月中旬にかけて,Google や Twitter・Facebook などの SNS で,「火入れ」「野焼き」「山焼き」「ヨ シ焼き」「コロナ」「中止」などのキーワードを任意に組み合わせて検索し,新型コロナウイルス感染 症の影響で中止になった日本国内の火入れを記録した.その結果,14道府県18ヵ所の草原で火入れが 中止になっており,4県4ヵ所の草原で制限付きで火入れが実施されていた.これら,新型コロナウイ ルス感染症による半自然草原の火入れの中止は,草原の生物多様性や翌年以降の安全な火入れに影響 を及ぼす可能性がある.
著者
増井 太樹 横川 昌史 高橋 佳孝 津田 智
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.352-359, 2018-11-30 (Released:2019-05-14)
参考文献数
47

自然公園における法面緑化指針において,緑化は自然の植生遷移の力を最大限活用することとされている。そのため,植生復元においては斜面崩壊後の植生回復状況を明らかにすることが重要である。そこで本研究では熊本県阿蘇地域の半自然草原において異なる時期に崩壊した複数の斜面(崩壊後4年:NLSおよび26年:OLS)と,それに隣接する崩壊が確認されていない斜面(C)で植生調査を実施し斜面崩壊後の半自然草原の植生状況を明らかにした。斜面崩壊後の植被率は,NLSよりもOLSでは高くなっていた。優占種はOLSではトダシバやヤマハギであったが,Cではススキとなり,斜面崩壊からの年数により異なった。種組成もそれぞれ異なり,オミナエシなど斜面崩壊後26年目の草原で出現頻度が高くなる種が存在した。すなわち,異なる年代の斜面崩壊地の存在が様々な植物の生育を可能にしていると考えられた。これらのことから,半自然草原の斜面崩壊地では時間の経過とともに植生が回復する場合があること,そして,異なる年代の斜面崩壊地に由来する植生が阿蘇地域の半自然草原の種多様性を高める要因となることが示された。
著者
横川 昌史 高田 みちよ 長谷川 匡弘
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
no.74, pp.75-82, 2020-03-31

オオバナミズキンバイはアメリカ合衆国南東部から南米原産のアカバナ科の水生植物で,特定 外来生物に指定されている(角野 2014).2014年に大阪府でオオバナミズキンバイが見つかり,その後, 大阪府内各地の河川や水路,ため池で生育が確認されている.2019年9月までに,高槻市・摂津市・大 阪市・東大阪市・八尾市・柏原市・藤井寺市・堺市・羽曳野市・岸和田市でオオバナミズキンバイが 見つかっており,高槻市・淀川本流・恩智川・大和川およびその支流・大阪南部のため池と地域別に 生育状況を報告した.今後も大阪府内でオオバナミズキンバイが拡がる可能性があるため,モニタリ ングを継続するとともに何らかの対策が必要だと思われた.
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.143-147, 2022-03-31

タシロラン Epipogium roseum(D.Don)Lindl. は熱帯アフリカ,熱帯.亜熱帯アジア,オセアニアに分布するラン科トラキチラン属の菌従属栄養植物である. 1970年代以降,日本におけるタシロランの記録が関東以西で増えはじめ,地域によっては生育地や個体数が増えている.大阪府においても 2000年以降に標本や文献,インターネット上の記録が見られるようになり,過去 20年ぐらいで生育地が増加した可能性が高いと考えられた.今後,大阪府のタシロランの分布拡大状況を記録していく上で,落葉層が堆積した湿った環境に注意を払っていく必要がある.
著者
志賀 隆 横川 昌史 兼子 伸吾 井鷺 裕司
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2013-05

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & KadonoとナガレコウホネN.×fluminalis Shiga & Kadonoは残存集団がそれぞれ4集団のみであり、絶滅が危惧されている水生植物である。それぞれの生育面積はわずかであるにもかかわらず、近年、群落の一部を根こそぎ持ち去るような、園芸目的の盗掘と思われる被害が確認されるようになった。本研究では、形態形質の調査とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座の遺伝子型解析を行うことにより、市場に流通しているシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、これに加え「ナガバベニコウホネ」の流通名で販売されている植物についてC社とT社から購入し、産地の特定を試みた。ナガレコウホネについては現存個体の多座位遺伝子型を明らかにするために、全ての現存集団から合計59サンプルを得て遺伝子型解析を行った結果、19種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株の形態形質を調査した結果、T社の「シモツケコウホネ」(T1)はシモツケコウホネであったのに対し、C社の流通株(C1〜C9)は全てナガレコウホネであった。また、流通株の遺伝子型を決定した結果、2種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株から得られた多座位遺伝子型に対応するものが野生集団で確認されるか検討したところ、T1は日光市(NIK)のシモツケコウホネ(NIK-25)と、C1〜C9は同一クローンであり、佐野市(SAN)のナガレコウホネ(SAN-10)と多座位遺伝子型が完全に一致した。日光市と佐野市の各集団において、NIK-25とSAN-10と全く同じ多座位遺伝子型を持つ別個体が集団内の任意交配により生じる確率(PG)はそれぞれ0.00034と0.00030であることから、日光市および佐野市において採集された2種類の株が流通していたことが示唆された。全個体遺伝子型解析に基づく遺伝子型データの整備は流通や盗掘に対して抑制的な効果をもたらすことが期待できる。
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.77, pp.51-56, 2023-03-31

海岸植物のマツナ Suaeda glauca (Bunge) Bunge の大阪府における確実な分布記録はこれまで知られていなかったが,国立科学博物館植物標本室(TNS)において明治29年(1896年)に大阪府泉南郡岬町淡輪で松田定久によって採集されたマツナの標本を見いだした.この標本の詳細と合わせて,大阪府におけるマツナの分布記録の変遷についてまとめて報告した.
著者
佐伯 いく代 横川 昌史 指村 奈穂子 芦澤 和也 大谷 雅人 河野 円樹 明石 浩司 古本 良
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.187-201, 2013-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

我が国ではこれまで、主に個体数の少ない種(希少種)に着目した保全施策が展開されてきた。これは貴重な自然を守る上で大きな成果をあげてきたが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば、(1)「種」を単位として施策を展開するため、現時点で認識されていない未知の生物種についての対応が困難である、(2)人々の保全意識が一部の種に集中しやすく、種を支える生態系の特徴やプロセスを守ることへの関心が薄れやすい、(3)種の現状をカテゴリーで表すことに困難が生じる場合がある、などである。これらの問題の克服に向け、本総説では絶滅危惧生態系という概念を紹介する。絶滅危惧生態系とは、絶滅が危惧される生態系のことであり、これを保全することが、より包括的に自然を保護することにつながると考える。生態系、植物群落、および地形を対象としたレッドリストの整備が国内外で進められている。22の事例の選定基準を調べたところ、(1)面積が減少している、(2)希少である、(3)機能やプロセスが劣化している、(4)分断化が進行している、(5)開発などの脅威に強くさらされている、(6)自然性が高い、(7)種の多様性が高い、(8)希少種の生息地となっている、(9)地域を代表する自然である、(10)文化的・景観的な価値がある、などが用いられていた。これらのリストは、保護区の設定や環境アセスメントの現場において活用が進められている。その一方で、生態系の定義、絶滅危惧生態系の抽出手法とスケール設定、機能とプロセスの評価、社会における成果の反映手法などに課題が残されていると考えられたため、具体の対応策についても議論した。日本全域を対象とした生態系レッドリストは策定されていない。しかし、筆者らの行った試行的なアンケート調査では、河川、湿地、里山、半自然草地を含む様々なタイプの生態系が絶滅危惧生態系としてあげられた。絶滅危惧生態系の概念に基づく保全アプローチは、種の保全の限界を補完し、これまで開発規制の対象となりにくかった身近な自然を守ることなどに寄与できると考えられる。さらに、地域主体の多様な取組を支えるプラットフォーム(共通基盤)として、活用の場が広がることを期待したい。
著者
首藤 光大郎 横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.47-51, 2018-03-31

2017年9月に岸和田市久米田池において,大阪府新産となるリュウノヒゲモの生育を確認した.池南部を中心に調査を行った結果,本種は調査ルート沿いにおいて広く点在しており,特に南岸周辺で特に高い密度で生育していた.クローナル植物であるため正確な個体数は不明であるが,膨大な現存量をもつと考えられる.久米田池では過去に水生植物の生育が見られなかった時期があり,本種は過去の調査が行われた1989年以降に,水鳥によって散布・定着した可能性がある.
著者
指村 奈穂子 大谷 雅人 古本 良 横川 昌史 澤田 佳宏
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-19, 2018 (Released:2018-07-06)
参考文献数
26

1. バシクルモンは新潟県,青森県,北海道の海岸に局所分布する希少な植物である.バシクルモンの生育立地特性を考察することを目的として,新潟県の生育地で,143個の方形区を作成し,植生調査を行った.2. バシクルモンは,表面が硬く間隙のほとんどない岩場や,堆砂により埋没する砂丘不安定帯や,暴浪による基盤流失のような強い攪乱を不定期に受ける後浜には生育していなかった.また,他種との競争が激しい,Multiplied dominance ratio (MDR)(群落高と植被率の積)が高い風衝草原などにも,バシクルモンは生育していなかった.3. バシクルモンは,適度な環境ストレス(例えば,風化の進んだ凝灰岩の崖地の群落)や自然攪乱(例えば,砂丘や礫質海岸の安定帯の群落)および人為攪乱(例えば,海浜後背の斜面などの風衝草原)のもとに成立する群落に高頻度で出現した.これらの群落では他種は大きく繁茂できず,MDRが高くならない立地であるが,バシクルモンは長い地下茎で進入し,高い被度で生育できるようである.4. 本研究により,バシクルモンは,地下茎を伸ばせるような基質であり,かつ適度なストレスや攪乱でMDRが抑えられた場所に生育することが明らかになった.
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.75, pp.107-111, 2021-03-31

2020年に入ってから,全世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっている.日本国内 において,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,春の半自然草原の火入れを中止した地域が 多数見られた.感染症が草原の管理に影響を与えた記録は重要だと考えられるため,インターネット 上で見つけられた新型コロナウイルス感染症に関連した火入れの中止について記録した.2020年2月下 旬から5月中旬にかけて,Google や Twitter・Facebook などの SNS で,「火入れ」「野焼き」「山焼き」「ヨ シ焼き」「コロナ」「中止」などのキーワードを任意に組み合わせて検索し,新型コロナウイルス感染 症の影響で中止になった日本国内の火入れを記録した.その結果,14道府県18ヵ所の草原で火入れが 中止になっており,4県4ヵ所の草原で制限付きで火入れが実施されていた.これら,新型コロナウイ ルス感染症による半自然草原の火入れの中止は,草原の生物多様性や翌年以降の安全な火入れに影響 を及ぼす可能性がある.
著者
籠 洋 横川 昌史 藤澤 貴弘 野間 直彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.87-96, 2013-04-05

全国各地で放棄竹林が問題になっており,地域の生物多様性の保全の観点から適切な竹林の管理方法が必要とされている.放棄竹林でのタケの伐採が地表性甲虫群集(コウチュウ目オサムシ科)に与える影響を評価するため,タケの密度を4段階に変えた実験区を設定し,無餌ピットフォールトラップを用いて地表性甲虫群集の調査を行った.落葉広葉樹とマダケが混交する滋賀県彦根市の犬上川河辺林において,タケ全稈伐採区(0本/m^2)・強間伐区(0.5本/m^2)・弱間伐区(0.7本/m^2)・放置区(1.8本/m^2)を設定し,2010年7月から12月の間で週に一度トラップの回収を行った.調査の結果,全稈伐採区で25種676個体,強間伐区で18種703個体,弱間伐区で15種829個体,放置区で12種531個体の地表性甲虫が捕獲された.統計解析の結果,地表性甲虫類の種数・多様度指数・下層植生の体積は全稈伐採区で最も高かった.2つの間伐区の地表性甲虫類の種数は放置区よりも高かった.除歪対応分析によって,地表性甲虫群集の序列化を行ったところ全稈伐採区の種組成は,他の3つの処理区と異なることが明らかになった.全稈伐採区を特徴づける種群はゴモクムシ亜科数種,コガシラアオゴミムシやアトボシアオゴミムシなどであった.ゴモクムシ亜科数種,コガシラアオゴミムシは草地性種であり,これらの草地性種が全稈伐採区に侵入した結果,全稈伐採区で種数や多様度指数が増加し,種組成が変化したと考えられた.間伐強度が異なる4つの処理区について1反復で調査を行ったため,処理の効果を明言することは難しいかもしれないが,本研究の結果は,落葉広葉樹林に侵入したタケの全稈伐採や間伐を行うことで,多様な地表性甲虫群集を維持できる可能性を示している.
著者
佐伯 いく代 横川 昌史 指村 奈穂子 芦澤 和也 大谷 雅人 河野 円樹 明石 浩司 古本 良
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.187-201, 2013-11-30

我が国ではこれまで、主に個体数の少ない種(希少種)に着目した保全施策が展開されてきた。これは貴重な自然を守る上で大きな成果をあげてきたが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば、(1)「種」を単位として施策を展開するため、現時点で認識されていない未知の生物種についての対応が困難である、(2)人々の保全意識が一部の種に集中しやすく、種を支える生態系の特徴やプロセスを守ることへの関心が薄れやすい、(3)種の現状をカテゴリーで表すことに困難が生じる場合がある、などである。これらの問題の克服に向け、本総説では絶滅危惧生態系という概念を紹介する。絶滅危惧生態系とは、絶滅が危惧される生態系のことであり、これを保全することが、より包括的に自然を保護することにつながると考える。生態系、植物群落、および地形を対象としたレッドリストの整備が国内外で進められている。22の事例の選定基準を調べたところ、(1)面積が減少している、(2)希少である、(3)機能やプロセスが劣化している、(4)分断化が進行している、(5)開発などの脅威に強くさらされている、(6)自然性が高い、(7)種の多様性が高い、(8)希少種の生息地となっている、(9)地域を代表する自然である、(10)文化的・景観的な価値がある、などが用いられていた。これらのリストは、保護区の設定や環境アセスメントの現場において活用が進められている。その一方で、生態系の定義、絶滅危惧生態系の抽出手法とスケール設定、機能とプロセスの評価、社会における成果の反映手法などに課題が残されていると考えられたため、具体の対応策についても議論した。日本全域を対象とした生態系レッドリストは策定されていない。しかし、筆者らの行った試行的なアンケート調査では、河川、湿地、里山、半自然草地を含む様々なタイプの生態系が絶滅危惧生態系としてあげられた。絶滅危惧生態系の概念に基づく保全アプローチは、種の保全の限界を補完し、これまで開発規制の対象となりにくかった身近な自然を守ることなどに寄与できると考えられる。さらに、地域主体の多様な取組を支えるプラットフォーム(共通基盤)として、活用の場が広がることを期待したい。
著者
大住 克博 横川 昌史 小椋 純一 佐久間 大輔 増井 大樹 小山 泰弘
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

里山景観は二十世紀初頭という比較的新しい時代に草山から里山林へと転換したことを、現象と仕組みの両面から明らかにした。広島県北西部では、大正初期から第二次世界大戦後の間に草地は1/5に減少した。一方、行政資料により復元された大阪府下の里山の資源利用は時間空間的に多様であり、草山から里山林への移行経過も単純では無いことが示唆された。火入れ停止後の草山は、前生樹の萌芽と風散布樹種の進入により森林化し、その後鳥散布樹種が進入して多様度の高い里山林へと移行することを明らかにした。一方草原性植物は、草地管理放棄後、短期間で消失しやすいものと消失しにくいものに分かれていた。
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-18, 2015-03-31

大分県の国東半島南東部の塩性湿地および砂浜・砂丘の植物群落の現状を把握し,約20年前の植生調査データと比較することを目的として,5つの調査地で,総計50ヵ所の植生調査(調査区サイズ:1 m × 1 m)を行った.得られたデータをNoise clusteringで類型し,主に優占種の違いに基づく14のクラスターが認識され,大きく塩性湿地タイプと砂浜・砂丘タイプに分けられた.塩性湿地においては,すべての調査地で,特有のクラスターが認識された.一方,砂浜・砂丘においては,特定の調査地ですべてのクラスターが認識され,残りの調査地では一部のクラスターしか認識されなかった.過去の植生資料と比較した結果,各調査地レベルでは,一部の植物群落は消失し,一部の植物群落が新たに出現していた.これらの海岸植生の20年間の変化についての現状と過去との比較の情報は,地域の植物相の保全に役立つと考えられる.