- 著者
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外池 光雄
山口 雅彦
肥塚 泉
瀬尾 律
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, no.5, pp.549-556, 2002 (Released:2013-04-02)
- 参考文献数
- 25
21世紀が始まったばかりの今日,「明日の感覚器医学」に対して嗅覚の医学はどのような方向を目指すべきであろうか.筆者らは, 永年, 嗅覚の研究 (受容から中枢へ) に携わってきたが, それらを現時点で総括し,-「嗅覚の臨床医学」の展望:(要望と言うべきかも) を述-べる.本論文では, 嗅覚の他覚的機能検査法の現状を概観し, 次に筆者らがこれまでの共同研究によって推進してきた脳波 (EEG) と脳磁図 (MEG) を用いた嗅覚の非侵襲的・他覚的検査法について述べた.特に全頭型脳磁計を用いた匂いの脳磁図研究によって特定した脳内の嗅覚中枢部位の推定結果, 並びにオドボール実験課題によって得られた匂いの認知機能推定部位等について議論し, 能動的嗅覚検査についても触れた.最初に嗅覚の重要課題, 4項目を箇条書きで示した.嗅覚の他覚的検査法として, まず筆者らが注目したのは, 脳波を用いて人間の匂いの感覚を客観的に計測するという研究であった.これらの研究は, 永年の間, 筆者らと大阪大学耳鼻咽喉科との共同研究として行われてきた.次に実施したのが脳磁図による嗅覚の検査・診断を目指す研究であり, この研究の成果として, 人間の嗅覚中枢を初めて大脳左右の前頭葉眼窩野部に特定した.筆者らは122チャンネルの全頭型脳磁計を用いて被験者の呼吸に同期させた300msecの匂い (アミルアセテート, バナナ臭) 刺激パルスを左右どちらか片側の鼻腔に注入刺激し, 嗅覚性誘発脳磁図の応答計測に成功した.このMEG嗅覚実験では, 6人の嗅覚正常なすべての被験者において大脳の両半球の前頭眼窩野部に匂い刺激によるMEG反応を認めた.さらに筆者らは快い匂いのアミルアセテートと不快臭のイソ吉草酸の2種類を用いて, オドボール課題による嗅覚MEG実験を初めて行った.この結果, まず嗅覚神経応答と考えられる約378msの潜時の応答が両側の前頭眼窩野部に求められ, この応答成分はrare刺激にもfrequent刺激にも観測された.さらにオドボール課題による嗅覚MEG実験のrare刺激応答のみに出現する潜時約488msの後期応答成分が初めて得られ, これは匂いの認知に関わる応答 (いわゆるP300m認知応答) であろうと推察された.本報は, 嗅覚の他覚的・客観的検査・診断法で重要と考えられるMEGを用いる嗅覚の侵襲計測・検査法の現状を中心に述べ, また, これから嗅覚の重要な課題になると思われるsni伍ngによる能動的嗅覚についても記述した.最後に, これまでの嗅覚研究の蓄積, 並びに臨床医学研究の現状を踏まえて,「明日の嗅覚-臨床医学の展望-に対する提案」を5項目掲げて示した.