著者
大原 興太郎 富岡 昌雄 波多野 豪
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

リサイクル社会は、(1)使用済みの物質をすべて回収するのは事実上不可能である、(2)リサイクルによって物質が劣化するのは避けられない、(3)物質のリサイクルを駆動するにはエネルギーが必要である、という三つの制約をもっているが、微生物やミネラル、そして生物自身のエネルギーによって循環が促進される生物系の資源循環は持続可能な社会を創っていく上で極めて重要である。特に、環境中から採取した資源は十分に利用しつくし、最終的な廃物は自然の循環機能を損なわない形で廃棄することが重要である。生物系廃棄物の循環にとって大きな可能性をもっている堆肥化も物質を循環させる人のネットワークと新しい技術の開発が課題である。この点で、大規模複合経営を行っているY農事組合法人の牛糞堆肥・乾燥鶏糞を周辺の稲作農家の藁との交換により、有機栽培米を生産している事例では、試行錯誤の末、化学肥料に頼らずに慣行農法以上の品質・収量を上げる技術が創られつつあり、農薬も用いるとしても最低除草剤一回とする技術を確立した。Y法人の若者達が牛糞堆肥はマニュアルスプレッダーで、鶏糞堆肥はライムソワーを改良したもので機械散布する技術を確立したとにより、高齢農業者の業者のクループが行う稲作を支える役割も果たしている。このような堆肥化システムに有機農家を取り込むことは、良質の堆肥を産出するノウハウの蓄積を促す。実際に白山町の農家では、共同利用型のコンポスターによる堆肥化だけでなく、強制加熱や発酵菌の添加が不要で、取り扱いの容易な個別処理型の堆肥化方法も確立している。また、集合型コンポスターを利用するには、一定規模の利用者の確保、生ゴミ排出時のモラルを維持すること、それらによって投入量の大幅な変動と異物の混入を避け、微生物発酵の円滑な進行を保つこと、その際、利用グループの形成・リーダーの育成とその維持運営方法に関する問題の解決が課題となる。総じて、資源循環技術を社会システムに組み込むノウハウの確立の重要性を改めて指摘できる。
著者
大原 興太郎 秋津 元輝 ビラス サロケ 田中 耕司 堀尾 尚志 タムロン プレンプリディ 法貴 誠 PREMPRIDI Thamrong SALOKHE Vilas M. ピラス サロケ
出版者
三重大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本年度の研究はシンドシナ半島の国々の本来自足的・生態系保持的な在来農法がどのような形で存在しているか、また技術移転など外からのインパクトがどのような技術的、経済的、社会文化的影響と問題をもたらしたかを、適性技術、土地・水利用、在来農法(焼畑農業を含む)の生態学的特徴、農法展開のための普及組織の実態と問題点、近代化の進展による農作業の変化、伝統的農民の行動様式等の側面から明らかにしようとした。本年度の現地調査はヴェトナム社会主義共和国のメコンデルタ農業について、カント-大学の全面的な協力を得て包括的な概況調査を行うとともに、ラオスにおいてはメンバー各人の問題意識にしたがって個々に再調査を行った。以下、明らかになった事柄を摘記する。1)ベトナムの経済は1986年のドイモイ政策以来対外解放政策と市場経済を導入し、さまざまな規制を緩めてきた。その結果1986〜91年のGDPの平均成長率が5.2%、サービス部門の成長率は9.9%にも上った。農業部門では新土地政策、世帯別独立経済、農民の長期土地使用と土地の相続権及び取引権の授与(1988)、生産活動と売買の請負制は農業に劇的な変化と高成長をもたらした。2)農業基盤については道路などの整備がまだ不十分であるが、フランス植民地時代からの水路開発の結果、水運が発達している。そのため道路がないところでも、船による脱穀や籾摺の請負が発達しており、トラクターの移動も船で行っている地域がある。3)ベトナムの米生産1991年1940万トンの53%を占めるメコンデルタはメコン川の豊富な水量に恵まれ、近年二期作の面積が約70%(*)に拡大した。この稲作の発展には1988年に設立されたカント-大学のメコンデルタ農法研究開発センターが大きな役割を果たしている。4)メコンデルタの農法は地域の自然条件等によってバラエティにとんでおり、一般的なDONG XUN(冬春稲)+HETHU(夏秋稲)の二期作、DONG XUN(冬春稲)+HETHU(夏秋稲)+THU DONG(秋冬稲)の三期作、HETHU+LUA MOA、LUA NOI(浮稲)の一期作、LUA MOA(浮稲)+淡水エビ、HETHU+エビ、HETHU+サトウキビ、DONG XUN+HETHU+野菜等々の多くの組み合わせがみられる。5)また、播種なしい移植についても、乾田直播、湛水直播、催芽種直播、不耕起直播、混播、田植等が土地条件や営農条件によって使い分けられている。6)旧南ベトムでは比較的うまく存続しているのが珍しいDONG CAT国営農場では、肥料の購入、水利、耕耘などは国が管理し、あとの農作業は農民に任せている。興味深いのは国営農場内に森林が植林されており、酸性土壌に強いメラロイカが植えられ、とくに火災の管理などに工夫がされていることである。7)メコンデルタ農業発展の障害は農業基盤の整備の不十分性、資本の欠乏、農産物および生産資材の価格の不安定があげられる。8)ラオスにおいては1975年以前にアメリカにならった普及組織があったが、革命とともに無くなり、ようやく1991年になって農業普及庁が設立され、普及組織が再び整えられつつある。9)2代目長官ブリアップ氏は次のような普及目標を上げている。技術移転、農民への技術援助、他の省庁との調整、農民のニーズの把握、作物の病虫害防除、作付改良への理解、農業機械の管理、家政への参加等である。10)現在の普及上の問題点はまず第一に普及員の質の向上であり、第二に普及組織の確立、第三に予算の不足、第四に情報とりわけ市場情報の確保があげられる。とくに普及関係の予算は少なく、現在国際機関との共同事業もないが、農民が肥料や種子、さらには機械や農業雇用のための金を借りるための農業振興銀行(Agricultural Promotion Bank)が1993年に設立された。これには普及員の承認がいることになっている。借入金の利子は8〜12%であり、一般銀行のよりは数%低くなっている。11)ラオス北部の米作はなお焼畑が主体をなしているが、政府の森林伐採の禁止により、農民は新たな土地を確保できず、焼畑のロ-テーションが以前の10年前後から3〜4年と短くなって来ている。