著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
no.15, pp.195-216, 2017

従来、裏返し構造は、異郷訪問譚にみとめられる構造上の「共通の約束」と見做されてきた(大林 1979)。一方、大喜多(2016)では、異郷訪問譚以外の形式での裏返し構造の事例が、いくつかのアイヌ口承文芸テキストにおいてはじめて見いだされた。異郷訪問譚ではないいくつかのアイヌ口承文芸テキストに裏返し構造が見いだされた理由に関し、大喜多(2016)では、アイヌ民族における交差対句を好む心性に起因するのではないかという仮説が提示された。本稿はこれを踏まえ、アイヌ民族を話者とするテキスト以外で、これと同様に交差対句が頻用される特徴を有するテキストである聖書テキストに注目することにより、大喜多(2016)の仮説の検証を行った。なお本稿では、聖書の「創世記」の冒頭に収納された 5 編の物語をテキストとした。本稿の検証によれば、テキスト 5 編中、異郷訪問譚ではない 4 編の内の 3 編が裏返し構造により構成されていることが確認できた。この結果は、上述の仮説を支持するものである。
著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 = Journal of language and culture of Hokkaido (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-48, 2018

大林(1979)は、裏返し構造を、異郷訪問譚形式の物語に見いだされる特徴的な構造と推認した。一方、異郷訪問譚とは言えない物語にも裏返し構造による物語の存在が、大喜多(2016)ではアイヌ口承テキストに、大喜多(2017)では旧約聖書(日本聖書協会1989)の「創世記」冒頭の5 編の物語テキストに確認されており、当該構造が見いだされる範囲については、異郷訪問譚の範囲に限定するべきではないことが指摘されている。ただし、大喜多(2016)および大喜多(2017)が指摘した事例数は決して多いとは言えない。そこで、本稿では、旧約聖書を検討した大喜多(2017)の知見を前提に、そもそも聖書テキストには、異郷訪問譚とは言えないにもかかわらず、裏返し構造になりやすい性質があると言えるか否かの確認を行うべく、今まで検証されてこなかった、新約聖書(日本聖書協会1989)に収納された物語を題材に、裏返し構造を当てはめる観点による分析を行った。なお、本稿では、新約聖書に収納された「マタイによる福音書」の巻頭の5 編の物語をテキストとした。
著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 = Journal of Language and Culture of Hokkaido (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.195-216, 2017

従来、裏返し構造は、異郷訪問譚にみとめられる構造上の「共通の約束」と見做されてきた(大林 1979)。一方、大喜多(2016)では、異郷訪問譚以外の形式での裏返し構造の事例が、いくつかのアイヌ口承文芸テキストにおいてはじめて見いだされた。異郷訪問譚ではないいくつかのアイヌ口承文芸テキストに裏返し構造が見いだされた理由に関し、大喜多(2016)では、アイヌ民族における交差対句を好む心性に起因するのではないかという仮説が提示された。本稿はこれを踏まえ、アイヌ民族を話者とするテキスト以外で、これと同様に交差対句が頻用される特徴を有するテキストである聖書テキストに注目することにより、大喜多(2016)の仮説の検証を行った。なお本稿では、聖書の「創世記」の冒頭に収納された 5 編の物語をテキストとした。本稿の検証によれば、テキスト 5 編中、異郷訪問譚ではない 4 編の内の 3 編が裏返し構造により構成されていることが確認できた。この結果は、上述の仮説を支持するものである。
著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.99-112, 2013-03-30

本稿では、アイヌ民族であり、かつ、アイヌ語日本語二重話者である知里幸惠の筆記資料に確認される交差対句を紹介している。これらの日本語文章に表出された交差対句は、アイヌの民俗的な修辞表現法による影響である。したがって、知里の日本語筆記資料は、アイヌの民俗性によって文章構造が修辞論的に変異した日本語の実例であると判断できる。
著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.103-122, 2015-03-30 (Released:2016-02-15)

本稿では、宮崎駿の長編アニメーション映画『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』を題材としての構造分析を行った。なお、本稿における構造分析は、裏返しモデル(ミハイ・ポップが示したモデル)を援用する手法による。本稿での分析の結果、本稿でとりあげた二作品は、裏返しモデルを適用できる構造からなると解釈できる知見を得た。このことは、宮崎のアニメーション作品における構造上の共通性を論じるうえで有用な知見であると筆者は理解している。
著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.85-104, 2014-03-30 (Released:2016-02-15)

本稿では、アイヌ語を生来の母語としない三名のアイヌ民族(上田トシ・富菜愛吉・違星北斗)による言語資料に関する分析を、アイヌ民族の民俗的修辞とされる交差対句の使用を確認する視点から行った。その結果、本稿で採用したテキストに関しては、交差対句の使用が見出された。このことは、アイヌ民族に特徴的に見出される修辞である交差対句の使用が、アイヌ語を母語としないアイヌ民族へと継承されていることを示唆する知見である。