- 著者
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大塚 宜明
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.200, pp.1-35, 2016-01-31
本論では,日本列島中央部(愛鷹・箱根山麓,関東地方,中部高地)を対象に,ナイフ形石器製作技術と石材の利用状況を検討する。それにより,姶良Tn火山灰(以下AT)下位石器群における石器製作技術の地域化のあり方とその背景を明らかにする。第一に,愛鷹・箱根山麓のAT下位石器群を対象に,ナイフ形石器の技術的特徴に注目し,出土層位を踏まえ4グループに区分した。そして,ナイフ形石器の調整技術とサイズおよび素材構成を観点に整理することで,時間的な4つの段階として捉えた。第二に,¹⁴C年代および広域テフラとナイフ形石器製作技術を観点に,中部高地と関東地方の石器群を検討し,愛鷹・箱根山麓との編年対比を行なった。以上の検討により,日本列島中央部のAT下位石器群における編年(Ⅹ~Ⅵ層段階)を構築した。その結果,Ⅸ層段階は全地域で対比できたものの,Ⅹ・Ⅶ層段階に対比される石器群は中部高地には確認できず,Ⅵ層段階の愛鷹・箱根山麓のナイフ形石器製作技術は中部高地と関東地方の両方と異なることが明らかになった。第三に,日本列島中央部における地域間の関係を明らかにするために,黒耀石利用の時期的変遷を検討した。結果,信州産黒耀石の供給地(中部高地)と消費地(関東地方,愛鷹・箱根山麓)という関係性,地域間のつながり,それらとナイフ形石器製作技術の結びつきを確認することができた。最後に,ナイフ形石器製作技術の変遷と石材利用を総合的に検討した。それにより,列島中央部のAT下位石器群には石材利用の在地化(Ⅶ層段階)とナイフ形石器製作技術の地域化(Ⅵ層段階)がみとめられ,それらは時期にして一段階分のズレがあることがわかった。そして,この石材利用とナイフ形石器の画期の時間的なズレを,原料の地域化がきっかけとなり,ナイフ形石器製作技術が地域独自化するという列島中央部における石器製作技術の地域化の過程(人類の定着)として位置づけた。