著者
清田 有希 大森 茂樹 河原 常郎 土居 健次朗 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101860-48101860, 2013

【はじめに、目的】臨床では、Electrical Muscle Stimulation(以下EMS)を使用する機会は多い。EMSは、電気刺激によって筋収縮を起こし、筋ポンプ作用を働かせ、疲労物質の貯留が解消されることで、疲労が回復することが予想される。筋血管内の疲労物質は、この筋ポンプ作用により貯留が解消される。筋疲労は、最適な周波数と最適な刺激間間隔を定めることにより、筋ポンプ作用が促進され、筋疲労を回復させると考えられる。しかしEMSは、異なる周波数や刺激間間隔の違いにより筋疲労の回復に差が生じるかは不明な点が多い。本研究では、筋疲労を回復する最適周波数と最適刺激間間隔を比較し、筋疲労回復の電気治療の有効性について検討した。【方法】対象は、整形外科的、神経学的に問題のない健常成人24名、年齢27.2歳±4.0、BMI21.9±2.2であった。対象筋は、大腿直筋とした(電極:大腿四頭筋の筋腱移行部と大腿直筋のモーターポイント)。各療法の刺激間間隔は、1:1(5sec on:5sec off)、1:5(10sec on:50sec off)の2パターンとした。周波数は、1Hz、5Hz、10Hzの3パターンを行った。筋力測定は、対象の肢位をLeg Extension-Curl(HUR社製)の装置に股関節屈曲50°、膝関節屈曲60°、足関節背屈0°で固定した。最大筋力は、計測器PERFORMANCE RECORDER 9100(HUR社製)をLeg Extension-Curlに取り付け、大腿四頭筋の等尺性収縮での最大筋力を計測した。運動課題は、最大筋力測定時の膝伸展角度を制限として、最大筋力の40%の負荷量で膝関節の屈伸運動を行わせた。運動課題中は、メトロノーム(110bpm、4拍子)を使用し、4拍子目を最大伸展位となるように運動を行わせた。運動課題の終了は最大伸展位まで運動が行えない場合が2回続いた場合、運動課題中メトロノームのリズムから逸脱した場合とした。運動終了後、直ちに計測器で筋力の計測を行った。その後、マルチ電気治療器インテレクト アドバンス・コンポ2762CC(CHATTANOOGA GROUP社製)でEMSを各パラメータで20分間行った。電気刺激強度は、運動閾値の2倍の強度で行った。電気治療後、計測器により筋力の計測を行った。コントロール群は、EMSを施行せず、パッドを貼ったのみの施行を6人に行った。最大筋力を回復筋力で除したものを疲労回復率とし、統計処理は、コントロール群と各周波数の刺激間間隔群を比較した。有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】刺激周波数別に疲労回復率を比較すると、疲労回復率は、1Hzの1:1は120.0%、1Hzの1:5は134.0%、5Hzの1:1は103.0%、5Hzの1:5は116.7%、10Hzの1:1は115.4%、10Hzの1:5は117.4%となった。コントロール群の回復率は102.0%となった。コントロール群と各周波数別の比較では、コントロール群と1Hzの1:5の群のみに有意な差(P<0.02)を認めた。【考察】疲労回復の度合いをみると、EMSを施行した場合とコントロール群では、EMSを施行した場合の方が疲労回復率は高かった。EMSを行うことで、筋肉の収縮が起こり、筋肉内の疲労物質である乳酸の流動が生じ、疲労回復が促進されたと考えられる。Lindstromらは、活動筋における血液循環が低下することによって、筋中に産生された乳酸が除去されにくくなったことにより筋疲労が起こるとある。市橋らは、主運動後に軽い運動を行なうと血液循環が改善され体内の化学反応が促進されて回復が高まることや運動後の血中乳酸の除去率をクーリングダウンと安静で比較すると軽い運動をした方が、除去率が高いことが報告されている。このことから、EMSにより筋収縮が起こることで疲労の除去が行えると考える。コントロール群と比較し、EMSの各パラメータでは、周波数1Hz、刺激間間隔1:5のものが疲労回復に大きく貢献していた。Bentonらは、電気刺激による筋収縮は生理的収縮より疲労しやすく、長めの休息を設定する必要があるといっている。刺激間間隔は、1:1よりも1:5のパラメータでEMSを施行した方が、有意に差が生じたと考える。【理学療法学研究としての意義】現在、電気療法のパラメータの違いによる筋に与える影響についての研究や疲労回復に関して電気療法を行った研究はまだまだ少ない状態である。本研究により、電気療法のパラメータの適切な選択や電気療法が筋疲労の回復にも影響があることを証明し、理学療法やスポーツ場面の治療法の一助となると考える。
著者
清田 有希 大森 茂樹 河原 常郎 土居 健次朗 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101860, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床では、Electrical Muscle Stimulation(以下EMS)を使用する機会は多い。EMSは、電気刺激によって筋収縮を起こし、筋ポンプ作用を働かせ、疲労物質の貯留が解消されることで、疲労が回復することが予想される。筋血管内の疲労物質は、この筋ポンプ作用により貯留が解消される。筋疲労は、最適な周波数と最適な刺激間間隔を定めることにより、筋ポンプ作用が促進され、筋疲労を回復させると考えられる。しかしEMSは、異なる周波数や刺激間間隔の違いにより筋疲労の回復に差が生じるかは不明な点が多い。本研究では、筋疲労を回復する最適周波数と最適刺激間間隔を比較し、筋疲労回復の電気治療の有効性について検討した。【方法】対象は、整形外科的、神経学的に問題のない健常成人24名、年齢27.2歳±4.0、BMI21.9±2.2であった。対象筋は、大腿直筋とした(電極:大腿四頭筋の筋腱移行部と大腿直筋のモーターポイント)。各療法の刺激間間隔は、1:1(5sec on:5sec off)、1:5(10sec on:50sec off)の2パターンとした。周波数は、1Hz、5Hz、10Hzの3パターンを行った。筋力測定は、対象の肢位をLeg Extension-Curl(HUR社製)の装置に股関節屈曲50°、膝関節屈曲60°、足関節背屈0°で固定した。最大筋力は、計測器PERFORMANCE RECORDER 9100(HUR社製)をLeg Extension-Curlに取り付け、大腿四頭筋の等尺性収縮での最大筋力を計測した。運動課題は、最大筋力測定時の膝伸展角度を制限として、最大筋力の40%の負荷量で膝関節の屈伸運動を行わせた。運動課題中は、メトロノーム(110bpm、4拍子)を使用し、4拍子目を最大伸展位となるように運動を行わせた。運動課題の終了は最大伸展位まで運動が行えない場合が2回続いた場合、運動課題中メトロノームのリズムから逸脱した場合とした。運動終了後、直ちに計測器で筋力の計測を行った。その後、マルチ電気治療器インテレクト アドバンス・コンポ2762CC(CHATTANOOGA GROUP社製)でEMSを各パラメータで20分間行った。電気刺激強度は、運動閾値の2倍の強度で行った。電気治療後、計測器により筋力の計測を行った。コントロール群は、EMSを施行せず、パッドを貼ったのみの施行を6人に行った。最大筋力を回復筋力で除したものを疲労回復率とし、統計処理は、コントロール群と各周波数の刺激間間隔群を比較した。有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】刺激周波数別に疲労回復率を比較すると、疲労回復率は、1Hzの1:1は120.0%、1Hzの1:5は134.0%、5Hzの1:1は103.0%、5Hzの1:5は116.7%、10Hzの1:1は115.4%、10Hzの1:5は117.4%となった。コントロール群の回復率は102.0%となった。コントロール群と各周波数別の比較では、コントロール群と1Hzの1:5の群のみに有意な差(P<0.02)を認めた。【考察】疲労回復の度合いをみると、EMSを施行した場合とコントロール群では、EMSを施行した場合の方が疲労回復率は高かった。EMSを行うことで、筋肉の収縮が起こり、筋肉内の疲労物質である乳酸の流動が生じ、疲労回復が促進されたと考えられる。Lindstromらは、活動筋における血液循環が低下することによって、筋中に産生された乳酸が除去されにくくなったことにより筋疲労が起こるとある。市橋らは、主運動後に軽い運動を行なうと血液循環が改善され体内の化学反応が促進されて回復が高まることや運動後の血中乳酸の除去率をクーリングダウンと安静で比較すると軽い運動をした方が、除去率が高いことが報告されている。このことから、EMSにより筋収縮が起こることで疲労の除去が行えると考える。コントロール群と比較し、EMSの各パラメータでは、周波数1Hz、刺激間間隔1:5のものが疲労回復に大きく貢献していた。Bentonらは、電気刺激による筋収縮は生理的収縮より疲労しやすく、長めの休息を設定する必要があるといっている。刺激間間隔は、1:1よりも1:5のパラメータでEMSを施行した方が、有意に差が生じたと考える。【理学療法学研究としての意義】現在、電気療法のパラメータの違いによる筋に与える影響についての研究や疲労回復に関して電気療法を行った研究はまだまだ少ない状態である。本研究により、電気療法のパラメータの適切な選択や電気療法が筋疲労の回復にも影響があることを証明し、理学療法やスポーツ場面の治療法の一助となると考える。
著者
佐藤 洋介 高尾 昌幸 近藤 拓也 大森 茂樹 斉藤 剛史 三宅 英司 門馬 博 倉林 準 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0271, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々は、第46回日本理学療法学術大会でバドミントン選手において、股関節内転可動域は立位での回旋動作に影響することを報告した.体幹の動作解析は、前後屈における腰椎骨盤リズムなど矢状面上の解析が多く報告されているが、回旋動作の動作解析を報告したものは少ない状況である.体幹の回旋動作は日常生活、スポーツでも頻繁に行われる動作であり、同動作で症状を訴える症例は臨床でもよく経験する.それらの症例を前にして、体幹の回旋動作に影響する因子を知っておくことは、障害予防・パフォーマンス向上においても重要であると思われる.本研究は、健常成人を対象に回旋動作の2次元動作解析を行い、メディカルチェック(以下、MC)との関連性を明らかにし、評価・治療の一助とすることを目的とした.【方法】 対象は立位における体幹回旋動作で痛みが生じない健常成人47名(男性37名、女性10名、平均年齢25.4±3)とした.静止画撮影は、デジタルカメラ(HIGH SPEED EXILIM EX-ZR 10BK、CASIO)を用い、反射マーカを両側肩峰・両側第5肋骨・両上前腸骨棘の計6点に貼り、正面から行った.運動課題は、足隔を肩幅に開いた静止立位から体幹の立位最大回旋動作を行った.運動課題時は、体幹回旋時に肩甲帯の前方突出を防ぐため、上肢を固定した.さらに口頭にて足底全面接地、両膝関節伸展位保持を指示し、確認しながら計測を行った.得られた画像に対して画像処理ソフトウェアImageJで各反射マーカの座標を求め、肩峰・肋骨・上前腸骨棘レベルにおいて静止画像と体幹回旋後の画像から左右のマーカの直線距離を算出し、三角関数を用いて回旋角度を求めた.MCは、関節可動域表示ならびに測定法:日本リハビリテーション医学会(以下、ROM)に準じた方法で、座位体幹回旋、股関節内転、股関節内旋(背臥位)の可動域を測定した.さらに腹臥位で膝関節90度における股関節内旋(以下、股関節内旋(腹臥位))可動域を測定した.得られた座位体幹回旋、股関節内転、股関節内旋(背臥位)の可動域は、関節可動域の参考可動域を基準として、制限がある群とない群の2群に分類した.股関節内旋(腹臥位)の可動域はこの計測データにおける中央値を基準に、制限がある群とない群の2群に分類した.体幹の立位最大回旋動作時の肩峰・第5肋骨・上前腸骨棘の各レベルに対する回旋角度について、一元配置分散分析を行い、要因の主効果が認められた場合に多重比較検定を行った.有意水準は危険率5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 所属法人における倫理委員会の許可を得た.対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した.同意書に署名が得られた対象について計測を行った.【結果】 座位体幹回旋制限群と股関節内旋(腹臥位)制限群の双方は、肩峰、第5肋骨、上前腸骨棘の各レベルにおいて有意差を認めた(P<0.05).股関節内転可動域制限群は、肩峰レベルでのみ有意差が認められた(P<0.05).背臥位での股関節内旋可動域制限群は各レベルで有意差を認めなかった.【考察】 前回報告したバドミントン選手における傾向と同様に、体幹の立位最大回旋動作は、股関節内転が参考可動域より下回ることで、制限を受けることが認められた。体幹の立位最大回旋動作と股関節内旋(腹臥位)とで関連性が認められた.股関節内旋(腹臥位)は、測定肢位が股関節中間位であり、股関節周囲の軟部組織における緊張が、立位と同様である点が反映したものと考えられた.股関節内旋(背臥位)と体幹の立位最大回旋動作で関連性が見られなかったのは、股関節内旋可動域(背臥位)は股関節屈曲位で測定するため、軟部組織の緊張や股関節面の適合度が立位での回旋動作と異なったためと考えられた. 今回の結果では、座位体幹回旋と股関節内旋可動域(腹臥位)と、体幹の立位最大回旋動作との関連が考えられた.股関節内旋可動域(背臥位)は立位での体幹回旋動作と関連しないと考えられた.体幹の立位最大回旋動作は、股関節中間位における関節面適合度と股関節周囲における軟部組織の影響が及ぶと考えられた.同じ股関節の運動で、肢位によって関連性に差がみられたことから、各種作業やスポーツ動作それぞれに応じた姿勢で評価しなければ動作を反映しているとは言い難く、姿勢に合わせた評価・治療が重要であると考えた.【理学療法学研究としての意義】 体幹の回旋動作は日常生活、スポーツ動作でも頻繁に行われる動作である.今回の実験結果から、立位での体幹回旋動作は体幹回旋可動域と腹臥位での股関節内旋に着目していく必要性が示唆された.
著者
下島 裕美 三浦 雅文 門馬 博 齋藤 昭彦 蒲生 忍
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.3-10, 2015 (Released:2015-03-30)
参考文献数
22

医療チームは,医師,看護師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,臨床工学士,放射線技師,薬剤師,介護士,社会福祉士など多様な職種から構成される。更には患者とその家族もまた自身の治療プロセスの決定に参加する権利を持っている。多様な価値観をもった人々が一つのチームとして一人の患者の治療にあたるためには,自分の視点と他者の視点の共通点・相違点を認識した上で,患者にとって最善の意思決定を俯瞰的な視点で追及する姿勢が必要であろう。この俯瞰的な視点の教育には,心理学におけるメタ認知と呼ばれる概念が有効であると考えられる。そこで本論文では,医療倫理における意思決定を促進する方法である4ボックス法(4 box method, 四分割法)をメタ認知という視点から考察する。個人レベルと集団レベルにおけるメタ認知教育の効果と,熟達化におけるメタ認知教育の効果を提案する。
著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1133, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】神経モビライゼーション(以下NM)とは末梢神経系の感受性,伸張性,運動性を改善する手技であり,その目的には疼痛やしびれの改善,二次的障害の予防がある。NMによって神経伝導速度低下との関係性が示されている。しかし,理学療法分野で臨床的指標となる,筋力や可動性について十分な検証がなされていない。本研究は橈骨神経NMの手関節背屈筋力と手関節掌屈角度に対しての効果を検証することを目的とした。【方法】対象は,健常成人18人(男性15人女性3人:25.8±3.9歳)とした。測定装置は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研),ストップウォッチ(CASIO HS-70W)とした。NMの対象は利き手側の橈骨神経とした。手法はMaitlandConceptのgrade4の位置から,ULTT2bを選択した。神経の伸張は頸部の側屈を行って確認し,10秒間の伸張位を保持した。NM施行前後に筋の伸長度,筋出力を測定した。筋の伸長度は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が制定した関節可動域測定法を参考に,手関節掌屈の角度を測定した。筋出力は手関節背屈筋群の等尺性収縮にて計測した。測定肢位は,椅子座位となり,机の上に前腕を置き,肘関節屈曲90°,肩関節内外旋および,前腕中間位とし,手関節中間位,手指屈曲位とした。解析は可動域と筋力それぞれのNM前群とNM後群の差を検証した。さらに,手関節掌屈の可動域の値の変化をもとに,母集団をA,Bの2群に分け検証した。A群は手関節掌屈可動域の変化量が平均値以上のものとし,平均値以下のものをB群とした。統計処理は対応のある一元配置分散分析とし,有意水準は5%未満とした。【論理的配慮,説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明し同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】手関節掌屈の可動域の平均は,NM前は70.9±8.1度,NM後は76.3±7.6度と増加し有意差を認めた(p<0.05)。筋出力の平均は,NM前は1.5±0.3N/kg,NM後は1.7±0.4N/kgと増加したが,有意差は認めなかった。NM前後の手関節掌屈の可動域変化量は,5.4±2.5度であり,筋出力変化量は0.2±0.3N/kgであった。NM後の可動域と筋出力の変化は弱い相関が認められた(r=0.5)。手関節掌屈可動域の変化量は平均5.4度であり,A群7名,B群11名であった。NM前後の筋出力変化量はA群:21.6±19.5Nkg,B群:6.5±23.3N/kgであり,AB間に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】NMを行う事で,神経線維の緊張が緩み,神経の伝導速度は低下することが言われている。その際に,神経のみならず周辺組織の緊張が緩むことで全体として可動域の向上がみられたと考えられた。筋出力はNM前後で統計学的有意差は得られなかったが,ほぼ全対象でNM後の増加を確認した。また,A群はB群と比較し筋出力の変化量が大きくなった。A群はNM後の反応が大きかったことから,運動の阻害要素に神経線維が貢献する割合が大きかったと考えた。可動域がNMに対して反応を示す場合は,適度なNMにより筋出力を促す可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりNMは可動域・筋力に対し有効な結果をもたらすことが示唆された。しかしながら,適切な伸長の強度,持続時間,頻度など検討すべき項目は残存している。近年,超音波診断装置の普及が目覚ましい。これらの計測装置をNMと併用することで,より客観的かつ効果的な治療の提供につながるものと考えられる。
著者
東條 友紀子 山田 深 門馬 博 前田 直 石田 幸平 松本 由美 栗田 浩樹 西山 和利 岡島 康友 山口 芳裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1137, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】 当院は2006年5月に脳卒中センターを開設し、初期治療と平行して発症早期からのリハビリテーション(以下、リハビリ)を積極的に行う脳卒中ユニットケアの実践に取り組んでいる。診療チームにおける理学療法士の重要な役割の一つとして、患者のADLに関する予後を早い段階から見通し、介入方針を決定することが求められるが、急性期からの予後予測モデルに確立されたものはない。今回、入院時の重症度から群分けを行い、退院時のADLを予測する方法を検討したので報告する。【対象】 2006年5月から2007年6月までに当センターに入院しリハビリを行った脳卒中患者のうち、死亡退院および入院期間が1週間以内であったものを除く332名(平均年齢71.8±12.6歳、男性196名、女性136名、平均在院日数29.7±19.2日、リハビリ開始まで平均1.45±1.36日)。【方法】診療データベースを参照し、患者の年齢、入院時NIHSS、入退院時FIM、リハビリ開始までの日数、在院日数、転帰先を後方視的に調査した。対象を入院時NIHSSによって軽症例群(6点以下)、中等症群(7点以上14点未満)、重症例群(15点以上)の3群に分け,それぞれの調査項目を比較した。群間比較については一元配置分散分析を用い、有意水準を5%とした。【結果】 軽症例群、中等症、重症例群における平均在院日数はそれぞれ23.2±15.7、37.0±19.0、40.0±19.0日であり、軽症例群と中等症群間に有意差が認められた。FIM運動項目合計点はそれぞれ76.0±20.0、43.0±26.0、27.0±23.0点、認知項目合計点は31.6±6.0、22.0±11.0、13.0±9.4点で、いずれの得点も各群間で有意差が認められた。退院時FIM合計得点から入院時FIM合計得点を引いた差分(FIM利得)は各群で30.5±19.8、26.0±26.0、16.0±24.0点であり、重症例群は他の2群と比べ有意に低値であった。自宅退院率はそれぞれ61.5%、9.4%、10.1%であり、回復期リハビリ病院への転院は30.8%、54.7%、33.3%であった。【考察】 軽症例は入院期間においてほぼADLの自立が得られるが、リハビリの継続が必要となるものも少なからず存在することが示された。一方で重症例はリハビリ介入によるADLの改善が限られており、自宅への退院が困難であった。入院時NIHSSは退院時のADLや転帰先を予測する上で有用な指標になりうると考えられる。NIHSS得点とFIMの関係はこれまでにも報告がなされているが、大都市圏における急性期脳卒中ユニットとしての特性を踏まえた予後予測モデルとしての有用性が示唆された。